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記憶引き継いで NEW LIFE  作者: 九〇式日本人
1.NEW LIFE を始めよう
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異世界を知る 2

 今日から俺の家庭教師になったセイラさんが、俺の部屋に来てから既に一時間が過ぎていた。

 初回ということで、授業というよりも雑談のような形になっているが、セイラさんが俺の質問に答えてくれている。


「この国がいったいどこにあるのか、ということだけど、その前に。この世界には、大陸っていう大きな島がいくつかあるの」


「たいりく…」


 この世界の地理なんて考えていなかったが、いくつか大陸があるのか。位置関係とか大きさはどうなってるんだろうな。

 もし他の大陸に行けるなら行ってみたい。まあ、まだまだ先の話だが。


「その中で、私達が暮らしているローゼンベルンがあるのは、この世界で一番大きな、ローレシアス大陸っていうところなのよ」


「いちばんおおきいんですか?」


「ええ、そうよ。それで、ローゼンベルンはローレシアス大陸の7割を治めているの。すごいでしょ?」


 と、セイラさんが少し誇らしげな表情を浮かべて言った。

 7割ってことは、ローレシアス大陸の大部分がローゼンベルンの勢力圏ということになる。すなわち、この世界で最大の大陸の大部分を有していることになるので、ローゼンベルンはかなりの大国と言えるんじゃないだろうか。


「ななわりですか、すごいです。でも、残りのさんわりはどうなっているんですか?」


 ローゼンベルンがローレシアス大陸の全土を制覇しているわけではない、ということは、残りの部分に他の勢力がいる、ということになる。

 そして、それらの勢力とローゼンベルンは一体どういった関係なのか。


「残りのところにはね、いろんな種族のいろんな国があるの」


「しゅぞくって、にんげんいがいにも…?」


 この世界には、エルフや竜人をはじめとする様々な亜人がいるらしい、というのは、一応知識として知ってはいたものの、そういった亜人が自分と同じ次元に存在している、という実感がいまいちなかった。

 しかし、こうしてこの世界に住む人から実際に亜人の存在を肯定されると、多少の実感が湧いてくるというものだ。


「ええ、たくさんいるわ。それに、この国にも多くの種族がくらしているのよ?」


「え?そうなんですか?」


「ローゼンベルンは、人間だけではなくて、人間をはじめとした多くの種族が力を合わせることによって成り立っているの。王様は人間だけど、それ以外にならどんな種族でもなることができるのよ。もちろん、ちゃんとお仕事ができないとだめだけれど。だから、街を歩けばいろんな種族に出会えるわ。ここは王都だから尚更ね?」


 確かに、俺が暮らしているのは王都だ。しかし、残念なことにまだ街歩きというものをした記憶がない。実は、俺の家は王都の“郊外区画”というところに建っているのだが、所謂“街”というのは王都の中心に近い区画のことを指していて、それは郊外区画から結構遠いのだ。今のところ、せいぜい自分の家の近所をメイドさんや兄上・父上などと散歩した程度なので、亜人に出会うなんてことはなかった。俺としては、当然王都を巡ってみたいのだが、今のところは難しそうだ。まあ、父上の反応次第なのだが。


「ぼくも、あってみたいです…」


 これが、今の俺の本心だ。別に、何もしなくても遠くないうちに会えるだろうが、いると分かった以上は早く会ってみたいと思ってしまう。しかも、それが自分の近くに暮らしている、となれば尚更だ。


「あら、焦らなくてもいつか会えると思うわよ?…でも、そうね、それなら今度私のお友達に会ってみない?多分、シン君に会うならお勉強する時になると思うから、シン君のお父様のお許しを頂いてからになるけれど」


「おともだちなんですか!?おあいしたいです!」


 思わず叫んでしまったが、これは渡りに船だ。俺自身が街に出かければ済みそうな話なのだが、自分の足で街に行けるのはいつになるのか分からない。なので、セイラさんの提案はとてもありがたい。


「ふふ、それじゃあ今度、シン君のお父様にお許しを頂きましょうね?それから、お友達を連れてくるわね」


「はい、よろしくおねがいします、セイラさん」


 今すぐに、というわけではないのが少し残念ではあるが、今からワクワクしてしまう。とりあえず、早めに父上から許可を貰っておくべきだな。







 少し興奮してしまったが、時計を見るとまだ11時前だった。

 何時まで授業をするのか聞いていなかったのだが、まだ終わるには早いだろうし、俺は質問を続けることにした。


「ところで、セイラさん」


「あら、なにかしら?」


「ローレシアスたいりくにはローゼンベルンいがいに、にんげんがいる国はないんですか?」


 先ほどセイラさんから、ローゼンベルンは大陸の7割を治めている、と聞いた。また、残りの三割には様々な種族の国がある、ということも。

 ローゼンベルンは人間が中心ではあるものの、基本的に多種族国家だ。ローゼンベルンに暮らしている人々は、異種族に対して好意的なはずだ。しかし、全ての人間が異種族に対して好意的なのだろうか?と考えると、必ずしもそうではないだろう。ならば、そういった人間たちが集団となって勢力を形成しているのではないか、と思ったのだ。


 俺の質問に対して、セイラさんが答えてくれるが、その表情はいささか暗い。


「そうね、ローゼンベルン以外にも人間の治める国はあるわ。ただ…」


「ただ…?」


「その国はね、人間以外の種族を認めようとせず、人間以外の種族を傷つけたり、迫害したりしているの。私には、なんでそんなことをするのか理解できないのだけれど…。みんな仲良く暮らせばいいのに、と思うわ」


 と、今度は少し怒ったような表情になってセイラさんが言った。


 今の話を聞くと、純人間主義とでも言えばいいのだろうか、とにかく、そういった思想の国家がこの大陸には存在しているらしい。

 それはつまり、多種族国家であるローゼンベルンとは真逆の存在ということになるわけで、おそらく、あまり良い関係ではないだろう。

 実際、セイラさんの表情を見る限り、その国に対するセイラさんの評価はあまり良いものではなさそうだ。


「なんていうなまえなんですか?」


「ゲルストニア帝国っていうの。私達ローゼンベルンに暮らしている人は、“帝国”っていう風に呼んでいるけれど。もともとはローゼンベルンにいた人が、他の種族と一緒に暮らすことに反対してできた国なのよ」


「あまり、仲はよくないみたいですね…」


 まあ、仲が良くないのは当たり前だと思うが。これで、実は仲が良いんです、なんて言われたら逆に驚いてしまう。


「んー、少なくとも、ローゼンベルンに暮らしている人で帝国に良い印象を抱いてる人っていないんじゃないかしら…?だって、私達には理解できない考えを持っている国ですもの」


 と、セイラさんが苦い顔をしつつそう言うのも無理もない。

 とりあえず、この反応を見る限り、セイラさんや他の人に対して無闇に帝国の話題を出すのは止めておいたほうがいいのかもしれない。少なくとも、いい顔はされないだろう。


「あの、ていこくのことはわかりました。なのでもっとほかのことを教えてもらいたいです」


「そうね、もっと楽しいことを話しましょ?」


 俺が話題を変えることを提案すると、セイラさんは笑顔でそれに応じてくれた。

 やはり、帝国のことに関してはあまりいい気分では無かったようだ。







 それからしばらくの間、気分を変えて小難しい話から離れて雑談に興じていた。


「セイラさんは、街の方へいったことはありますか?」


 改めて、ここで言う“街”とは、王都の中心街のことだ。俺は王都に暮らしてはいるものの、自宅の周辺程度しか歩いたことがない。

 俺の自宅があるのは王都の中心からやや離れた郊外区画で、周りには家しか無いので歩いてて特に楽しいわけでもなかった。

 将来的にはいろいろ巡りたいのだが、その前に簡単にでも情報収集をしておこうというわけだ。


「ええ、よく行くわよ」


「そうなんですか!どんなところなんでしょう?ぼくはまだ行ったことがないので…」


「そうね…。どんな、と言われるとなかなか答えるのが難しいのだけれど、まず言えるのは、すごく人が多いのよ。多くの、いろいろな種族の人で賑わっているわ。お店もたくさんあって、一日では全部見て回れないくらいよ」


「すごい…」


 中心街ってそんなに凄いのか、これはぜひとも行ってみたいな…。


 どうやら、俺は以前にも父上に街へ行く許可を貰おうとしたようだが、年齢的な理由でダメだったらしい。もう少し大きくなるまで待ちなさい、とのことだ。

 とりあえず、こればっかりは父上次第なので許可を貰えるまで粘るしか無い。もしも、無断で行ったりしたら後が怖そうだし、そもそも帰ってこれる気がしないので、大人しくしておくべきだろう。







 その後もセイラさんと雑談を続けていたのだが、気がつけば時間は正午を過ぎたところだった。


「あら、もうこんな時間なのね。今日はこのくらいにしておきましょうか」


「はい、ありがとうございました。それで、えっと…、次の授業はいつなんでしょうか?」


 今日は本当に有意義な時間だったと思う。いろんな情報を聞けたし、セイラさんの友人の亜人に会わせてもらう約束もできた。

 そして何より、セイラさんと話せて楽しかった。まあ、次回からはちゃんと勉強しないといけないのだが。


「そうね…、多分次の週末くらいになると思うわ。…今日の授業はどうだったかしら?」


「すごくたのしかったです!」


 これは嘘偽りのない本心だ、本当に楽しかった。

 そして、それはセイラさんも同じだったらしく


「ふふ、それならよかったわ。私も楽しかったわよ?次が楽しみね」


 と笑顔で言ってくれた。


「ぼくも、たのしみです」


 今度は次の週末か、まだ先だが今から楽しみだ。

 それまでに、父上にいろいろと許可を貰っておきたいな。


 と、その時ふいにドアがノックされて


「シン様、セイラ様、ご昼食の用意ができましたので食堂へお越しください」


 というマリーさんの声が聞こえてきた。


「はい、わかりました」


 と返事をしてから、一緒に食堂へ向かうべくセイラさんを見た。


「セイラさん、おひるごはんたべましょう」


「ええ、それじゃあ頂こうかしら?」


 その言葉を聞いた俺は、セイラさんの手を引いて、食堂へと向かうべく部屋を後にした。

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