暗殺者、岡エリー
暴力描写の練習作品になります。一応はロウファンタジーにあたるかと。
「グンマー」といったネタに嫌悪感を抱く方は避けてください。
闇夜を切り裂くネオンに一つの影が走った。しかし、それを気に留める者は誰一人としていない。なぜならば、その影は誰にも視認されることなく、音もなく通り過ぎ、消えていったからだ。小鳥の羽音程の音も、ソレは生じさせなかっただろう。当然だ。影は音を生じさせないものであるのだから――影、つまり、この国で言えば忍者である。
この地、御影市は昔から忍者伝説の多い地方として知られている。勿論、ただの地方都市の一つ――世界的に有名だとか、日本でも有数の……といった形容詞はつかない。根拠も由来も不十分な、単なる町興しの一環――それが真実である。しかし、偶然か運命か、この地方には一人の忍者がいた。彼の名を岡道平という。今なお続く甲賀忍者の家系の出であった岡は、厳しい修行に耐え、忍者としての技を会得し、衆生を救うという理念の下に動いていた。現代社会においての忍者とは、誰にも存在を知られていないながら、人知れず民草のために動く集団だったのである。即ち、悪しきは斬る。古来より密使や暗殺者としての役割を担っていた忍者は、こと現代において、暗殺者の面を増大させたのだ。また、仕えるべき主を持たず、ただ民衆を救う存在。都市の自浄装置としての役割をもっていたのだ。岡は、その忍者の一員であることに誇りを持っていた。そうして、このまま忍者の血を繋げていこうとも。しかし、そんな岡の考えは、思いもよらぬことで崩れたのである。――別の血が入ってきたのだ。岡がこの御影市で彼女――ファーティマと名乗った――に遭遇したとき、岡は戦慄した。中東――シリアからやってきたという彼女の目は、あまりにも美しく、そして、今までに幾度も見てきていたもの――忍者の目をしていたのである。岡は彼女と接触した。そうすると、彼女は古のアサシンの血筋だったのだという。アサシン――暗殺者教団や山の翁といった単語が現代にまで歴史として伝えられる程度の、忍者と同じく忘れられた組織も、今日まで存在していたのである。そしてアサシンも、利や教義によって動く非情な暗殺者ではなく、民衆を救うための存在にへと変貌していたのだ――。岡は彼女と話している内に、あまりに忍者とアサシンが似ていることと――アサシン達の宿敵、騎士団と呼ばれる存在を知ったのである。――二人の間に愛が生まれるのにそう長い時間はかからなかった。岡と彼女の間に一人の娘が生まれたのである。彼女は娘にエリーと名づけ、漢字表記では絵里とすることとした。彼らはこの娘の存在が自分たちの弱点となることを恐れ――娘に、アサシンと忍者の技術両方を伝えることを決めたのである。彼女の成長は目を見張る程であり――ついに、彼女が15の時に彼らは伝えるべき全てを伝え――そうして、アサシンと忍者の融合した存在が生まれたのである。アサシンでも忍者でもない、それらを一つ超える暗殺者――NINJAにとなったのだ。
そして、現在。17となったエリーは昼は高校生、夜は暗殺者という二足の草鞋を履いていた。しかし、彼女は己の境遇を嘆くつもりはない。母も父も遠い異国の地で息災だと聞いているし、自分の行動が御影市を守ることに繋がるというのならば――人を殺めることにも抵抗はなかった。――そもそも、暗殺対象の全ては増長し驕った醜い豚である。そんな存在を消し去ることに彼女は蚊を潰す程の躊躇も抱いていない。もとより、躊躇は暗殺者において禁忌である。――ためらうことが許されないのは、アサシンも忍者も同様だ。
今、彼女は御影市の歓楽街を牛耳るチャイニーズ系マフィアのボスを暗殺することを目標としていた。彼は今、所有するビルのオフィスにいる。今日は月に一度の幹部集会の日であった。彼は睨みを効かせるように、トップの座にいながら誰よりも早く席についているのだ。――しかし、それが何よりの失策となった。
彼女は音もなくビルの屋上を、ネオン看板を蹴り、跳ね、跳び――誰にも見られることもなく、彼のいるビルの屋上へと到達した。オフィスは丁度彼女の立つ位置の真下にある。
彼女は屋上の縁を掴み、窓を蹴破って突入した。激しい音と共に彼女は彼の前へと立ち、彼が懐の拳銃を抜くよりも早く、篭手に仕込まれた剣でもって彼の首を突き刺した。古来よりアサシンに伝わる武器、アサシンブレードである。彼はうめき声一つ上げることもできずにその場で崩れる。死に際の彼の目は疑問を彼女に向けていた。
「死が汝の安らぎにならんことを――眠れ」
それに応えるように、彼女は決められた口上を述べ――騒ぎを聞きつけたマフィア達が入ってくるよりも早く、窓から飛び出し――御影市の夜へと消えていった。




