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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

童話ネタ

お菓子の家が出てくる兄妹の物語

作者: あきら

鳥の不気味な泣き声が森に木霊する。

木々の葉の隙間から真っ赤な陽が射しこめていた。

「大丈夫だよ。グラディス。もうすぐ、お父さんとお母さんが迎えに来てくれるはずだよ。」

兄のハリーは手を握り、笑いかける。その手は少し震えていた。

「うん。」

私は、頷いて兄の手を握り返した。母に森の奥に連れられ、ここで待つように言われた。どうしてかは聞かなかった。聞かなくても分かっていた。昨日の夜、父と母が言い合うのを聞いていた。

家には食べ物がなかった。今年は作物が不作で、村中が飢えていた。そこで、母は私たちを捨てると言い出したのだった。父は反対していたが、ここに連れて来られたということは、父も認めたようだ。

「兄さん。家まで歩こうよ。」

「でも、ここで待つように言われたよ。」

「暗くなったら、お父さんとお母さんが来ても見つからないよ。」

「そうだね。近くまで来ているかもしれないし、歩こうか。」

兄と私は歩きだした。どっちに進んでいるのかは分からない。時々、父と母を呼んでみる。その声は虚しく森の中に消えて行くだけだった。

「キャー」

近くの草が揺れた音がした。兄が前に出る。しばらく様子を見たが何も無かった。

「グラディスのことは僕が守るからね。」

兄の手が優しく頭を撫でる。

「うん。」

兄が私の手をとる。温かい。兄さんの手。兄の後ろを着いて行く。森は暗くなってきていた。

「グラディス。あれ。」

兄さんの明るい声。明かりが見える。小屋だ。


兄はドアを叩き、叫んだ。窓から薄っすらと明かりが漏れていた。

「すいませーん。どなたかいませんかー。」

兄はあきらめずにドアを叩き続ける。森は陽が完全に落ち、真っ暗だった。風に揺れる木々が闇の中で手招きしているように見える。

「はいはい。どなた?」

中から弱弱しい女性の声が聞こえてきた。兄と目が合う。嬉しそうな顔。満面の笑みだった。ドアが開いた。白髪で、腰が曲がったお婆さんだった。

「あら?こんな時間に、可愛いお客さんだこと。」

「僕はハリーと言います。こっちは妹のグラディス。森で迷っている間に、夜になってしまいました。一晩、泊めてくれないでしょうか?」

兄が挨拶をすると、お婆さんは優しく微笑んだ。目尻に深いシワが浮かぶ。

「まあまあ、それは大変だったね。さあ、中へお入り。」

「ありがとうございます。」

兄は私の方を向くと白い歯を見せて笑う。そして、私の手を握り小屋の中へ入って行った。私も手を引っ張られ中に入る。狭い部屋の真ん中にテーブルがあり、その上のランプが唯一の明りだった。

「一人で過ごしているものだから、何にもなくて。ごめんなさいね。」

「いえ、助かりました。」

「あなた達はそこで寝てちょうだい。」

お婆さんは何も聞かず、釜戸の前の揺り椅子に座ると眠り始めた。釜戸に火は点いていない。私と兄は眠ることにした。一枚だけの毛布に二人で包まった。

「良かったね。兄さん。」

「ああ、朝になったら、村へ帰ろう。」

兄に寄り添って眠る。村へ帰れるのだろうか?帰ってどうするのか?また、捨てられるだけに思えた。兄が頭を撫でる。気持ちが落ちつく。兄が居るだけでよかった。それだけで私は幸せだった。


小鳥がさえずる声で目が覚めた。窓から明かりが入って来る。隣を見ると兄はまだ寝ていた。部屋の奥から良い匂いがしてきた。空腹だった。昨日の朝にパンを一つ食べただけだった。

「おはよう。グラディス。」

「おはよう。兄さん。」

兄も匂い釣られるように目を覚ます。

「おはよう。二人とも。え~と、あなた。朝食を運ぶから手伝って頂戴。」

お婆さんに呼ばれ、台所へ行くと釜戸の上にはスープがあった。美味しそうな匂いだ。

「あなた、名前は何だったかしら?」

「グラディス。」

「そう、グラディスちゃん。ごめんなさいね。歳を取ると物覚えが悪くて。これを運んで頂戴。」

お婆さんは笑うと、木の器にスープを注いで渡した。スープは大きく切ったジャガイモが入っていて美味しそうだった。私は2つのスープをテーブルまで運んだ。兄がすぐにでも食べたいのを我慢しているのがわかる。お婆さんはもう1つスープをよろよろと歩きながら運んでくる。

「さあ、食べましょうか。」

「僕たちも食べて良いのですか?」

「当たり前でしょう。」

「でも、僕たち。」

その時、兄のお腹から音が聞こえた。お婆さんが笑う。

「子供が遠慮するもんじゃないよ。さあ、お食べ。」

兄は私の方を見て頷く。

「いただきます。」

二人同時にスープを口に運ぶ。美味しい。夢中で口に運んだ。お婆さんの方を見ると、にっこり笑う。お婆さんも食事と取る。

「ごちそう様。」

兄は一気に食べてしまった。私もすぐに食べ終わる。

「みんなで食べると美味しいわね。」

お婆さんはゆっくりと食べている。兄と私はお婆さんが食べ終わるのを待って、村へ帰ることを告げた。お婆さんは村への道を詳しく教えてくれた。今から帰れば、暗くなる前には帰れそうだった。しかし、また道に迷うかもしれない。それに、村に帰れても母は私たちを迎えてくれるのだろうか。不安になった私は兄の服を引っ張った。兄はその手を握ってくれた。

「もし、あなた達が良いなら、もう少しの間この家に居てもいいわよ。」

お婆さんの提案に兄と私は顔を上げた。お婆さんがにっこりと笑う。「いろいろ手伝ってくれると助かるわ。」

私たちはお婆さんの暫くの間、お世話になることにした。それから、少しだけ父と母の話をし、昼になると森へ出た。お婆さんと一緒に釜戸にくべる枝を集める。その間、お婆さんはいろんなことを教えてくれた。薬になる草や食べられる木の実のこと。森の中で方角を知る方法。お婆さんは本当に物知りだった。それから、家の隣では野菜を育てていた。村では作物が不足していたが、ここで育てている野菜は力強く育っていた。ここでは、その日に食べていける分を森から恵んでもらうことで生活していた。


そうして、お婆さんの手伝いをしながら数日を過ごした。同じ風景が広がっているように見えた森は、木々の 1本1本、葉っぱの色合いの違いまで分かるようになり、最初のような不気味さは無くなっていた。私は一人、森へ入り枯れ枝を集めていた。草が擦れる音が聞こえた。リスだ。私に気付くと木を登って行った。そこへもう一匹リスが来た。中が良さそうにじゃれ合っている。最近、兄はお婆さんの周りの世話をすることが多い。お婆さんは、目と足が悪かった。寒い日は特に辛そうにしている。

「兄さん。お婆さん。食事の準備が出来たわよ。」

お婆さんを兄さんの手が支える。兄はお婆さんをテーブルの席まで案内した。

「グラディス。ありがとう。いただくわ。」

お婆さんが微笑む。兄は食事をしながらも、お婆さんの様子を気にしている。お婆さんは少しの食事を終えると、揺り椅子に座り、目を閉じた。

「兄さん。そろそろ村へ帰りましょう。お父さんも心配しているに違いないわ。」

「でも、グラディス。お婆さんは最近、体調が悪いみたいなんだ。もう少しだけ、ここに居よう。」

「兄さん・・・」

「さあ、暗くなる前に片付けよう。」

食器を片づけると兄は眠りについた。村に居た時のように空腹で過ごすことはなくなった。しかし、兄が遠くなったように感じる。兄の手を握り私は眠りについた。


翌日の朝、食事の準備をするために釜戸に火を付け、枯れ枝を炎の中に放り込む。

「兄さん。」

枝を放り込むたびに炎が揺れる。いつもより、炎が大きくなっていた。

「おはよう。グラディス。」

お婆さんは、よろよろした足取りでやってきた。

「食事の準備をしようかね。」

お婆さんが釜戸の前を通ろうとする。私はお婆さんが通れるように釜戸の前を開ける。お婆さんが私と釜戸の間を通る。その時だった。いつもより、大きくなっていた炎がお婆さんの服の裾に引火した。お婆さんが慌てる。火は裾から服全体へ広がる。悲鳴。お婆さんの手が助けを求める。私はその手を避けるように下がった。服が焦げる匂い。髪が焦げる匂い。皮膚が焦げる匂いが台所へ広がった。

「どうしたの?」

兄が目を擦りながら出てきた。

「お婆さんが!」

兄が慌てて火を消そうとする。

「兄さん。危ないわ。」

「でも・・」

火が消えた後には、お婆さんだったものが転がっていた。私は泣いている兄と一緒にお婆さんのお墓を作った。

「兄さん。もう、村へ帰ろう。」

「うん。」


その日、私と兄はお婆さんの家を出て行くことにした。

「グラディス。行こうか。」

「ちょっと、待って。」

私はお婆さんの家から光る装飾品を持ち出した。兄はドアを閉める前に部屋の中を見渡し、涙を拭った。

「行こう。兄さん。」

私は兄の手を取ると村への道を歩き出した。兄の手は震えていた。私は優しく握る。兄が笑顔を見せる。無理をしている。瞳の奥の悲しみを消してあげないと。私が・・・。


村へ帰ると父は泣いて出迎えた。魔女に捕まって生きていないと思ったようだ。母は上辺だけ喜んで見せた。私がお婆さんの家から持ち出した装飾品を見せると目を輝かせた。特に古ぼけていた指輪に興味を示していた。母は装飾品を売ってしまい父と毎日のように遊びへ出かけた。兄と私は村へ帰ってからも二人きりだった。

「兄さん。今日のパンはこれだけよ。」

村へ帰ってからの食事は日に日に減って行った。母は装飾品を売ったお金を既に使い果たしたのかもしれない。また、森へ捨てられるのだろうか。

「グラディス。」

兄が私の手を握る。兄も同じことを考えていると思った。

「大丈夫。兄さん。私は兄さんさえ居れば。」

私は決心していた。今夜、両親が寝るまで待とう。その前に台所に行って準備をしなくては。

「大丈夫。兄さんは私が守るから」


魔女について、薬草や占いに詳しいただのお婆さんにしました。この当時、そういう人は結構いたはずです。兄について、自分の文章では大人びているように見えるかもしれませんが、子供です。妹の前で背伸びしているだけのただの子供です。男は何歳になっても子供なんです。妹について、女の子って、小さくても妙に鋭いところがあります。女は生まれながらにして女ということでしょうか。原作でも魔女を釜戸に突き飛ばして殺してますし・・・怖いですね。女って。

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― 新着の感想 ―
[一言]  妹の考え方がなんだかリアルで少し怖かったです。私も女ですが、やっぱり心の奥に秘めたなにかがあるのかもしれませんねっ
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