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悪役令嬢召使~死刑囚の告白~

作者: からん
掲載日:2026/08/15


まずは私、アブサン・ペルノがこうして皆々様の前で告白いたしますのは決して減刑を望んでの発言ではないことを先に主張しておきます。私はお嬢様の両親を殺した罪による刑罰に納得しており、むしろ拷問さえなくただ単純に死刑となるなど甚だ甘い処分だとすら思っております。


皆々様が死刑囚である私の話をこうして裁判官、貴族院書記長様までそろえて証言を許してくださっているのは、お嬢様、ないし弟様、旦那様が所持しているはずの家宝が見つからぬからであると理解しております。まさしく私はその家宝の在処を知っているのでございます。そのため是非一言一句聞き逃さず、この場でご清聴いただきたく思っております。


まず私は、本来お嬢様の騎士たりえる存在ではありません。

私は奴隷の生まれでございます。


驚かれますか。そうでしょう、ですがご存じのはずだ。違法とはいえ今も市井ではいっそ堂々と人間の売買が成り立っています。昨年田畑の冷害があった際など、大層いろんな娘が立ち売りされていたはずだ。言ってしまえば、あれらが産んだ子供という立場が私でございました。


私が生まれた場所は売春宿であり、母は記憶になく宿屋の主人には梅の毒で早々に死んだのだと聞いて育ちました。私は男でありましたから、売春婦と宿屋夫婦とその娘にこき使われる下男でした。ここまで聞いてあなた方の中にはキルシュお嬢様が奴隷である私を哀れみ購入するなどの悪質な行為をしたのではないかと誤解しておいでかもしれませんが、まったくの見当違いでございます。


御覧の通り、ええまぁ獄中生活で少々縮んでしまいましたがね。私は大して餌をもらわずともこうして、体を大きくしてしまい、すっかり宿屋夫婦に力で負かす人間となってしまいました。私を恐れ、持て余した夫婦は私という道具を使って一計を案じました。下種が弄する下賤な罠でございます。


夫婦の宿屋は売春宿ですが、もちろんそれは地下での行為であり、表向きは一見して小ぢんまりとした汚い普通の宿屋です。まともではありませんが田舎から出てきた商人や食い詰めた旅人が泊ることも多い、そんな場末の宿屋です。例えば、一代男爵で金はないが見栄を張らざる得ない名誉をもっている男などが、たまに間違って泊りにくるのです。普段はそんな客に対しては荷物や金を少しばかりくすねるだけですが、その時ばかりは違いました。何故ならその男爵はなんとも無防備にパーティーの招待状を見せびらかしていたのです。大切そうに懐にしまって、ほくそ笑んでおりました。見せびらかしている相手が手癖の悪いシケモク拾い以下の夫婦とも思わずに。


夫婦はその招待状から彼のパーティーのための金も衣装も一式盗み、なんとパーティーに真正面から参加したのです。私も使用人兼護衛として潜り込むことになりました。盗んだ金で買った高いドレスをヒラヒラとさせ、宿屋の婦人は下賤ではありますがずる賢い性質です。長広舌を駆使し相手をその気にさせるのも上手いものでした。パーティーで見知らぬ貴族として堂々と振舞い、他のご婦人と仲良くなり、高貴なる方々と顔つなぎまでこなしていきました。そうして彼らは次のパーティーの招待状を手に入れ、架空の貴族と成りすましたのです。高い飯を飲み食いし、見世物を見て、それで満足していればいいものを彼らの欲望は尽きぬもので何回目かのパーティーで、ワッサー公爵に目を付けました。


そしてその娘、キルシュ・ワッサーは標的とされました。皆さまご存じ、キルシュお嬢様は当時から大層聡明で容姿端麗であり、心根も優しいと評判でありました。私はその噂を存じ上げませんでしたが、一目見て美しく可憐で、凛とした朝露のような冷たさを感じる空気。誰よりも高貴であると思いました。強烈な記憶です。


ですがそんな彼女のことさえ宿屋の夫婦には獲物としか見ていなかったでしょう。

彼らは私に、彼女が暴漢に襲われているところを助けるように命じました。一体何のことだと思いましたが、なんてことはない。彼らは横のつながりで小金を握らせた暴漢たちに彼女を容赦なく襲わせました。


私のようなハリボテでない正式な公爵家の護衛が、彼女を逃がしたその先にまで周到にも暴漢を配置して、どんな指示をしたのやら、お嬢様を複数人で囲み抑えつけて刃物を突き付けていました。それを私は素人丸出しながら、この体躯の大きさを利用してなんとか打倒しました。手加減などできません。華麗な技もありません。私は衣服を返り血でべとべとにしてしまいました。汚らしく、恐ろしい姿だったでしょう。そんな私をキルシュお嬢様は怯えた様子ながら気丈に振る舞い、私へハンカチーフを差し出したのです。なんと立派な方かと思いました。そして、そんな気高い彼女の良心を宿屋の夫婦は利用し、陥れようとしました。


そうでございます。私はワッサー夫妻の殺人以外にも身分の詐称までしておりました。

私は騎士見習いとしてワッサー家へ潜り込むことに成功してしまったのです。


ワッサー公爵様は娘を助けた騎士見習いに大層感謝をしていたので、きちんと見習いを卒業できるように取り計らってくれると言い、公爵家の騎士団へ放り込んでくださいました。


最初はなんという大罪を、と罪悪感で押しつぶされそうになっておりましたが、私は初めて輝かしい日の当たる世界の真っ当な人間というものを見ることになりました。これは貴重で衝撃的な体験でした。客の荷物を漁る宿屋の夫婦でもなく、売春婦でもなく、女を買いにくる歯抜けの男どもでもなく、薬漬けで地面に転がっている人間だっていない世界なのです。溌剌として、朝日とともに動き、尊い身分の方々を護る一念で汗水を流して己の肉体を鍛え上げる姿はまさしくおとぎ話の世界のようでした。キルシュお嬢様も、私のような人間によくよく気にかけてくださり、何不自由ないようにしてくださったのです。私はお嬢様とそのご家族、騎士団、メイドや使用人に至るまで人間として素晴らしい、最高のお手本を得たのです。人生で初めて尊敬という心を持ちました。まさしく麻中の蓬といったところで私は私とて驚くほどに立派な騎士となりました。嘘から出た真、私は心の底から、真の意味でお嬢様の騎士となりたかったのです。そしてその時はなれるのだと浅はかにも信じておりました。


私はすっかりと忘れていたのです。

私という存在が宿屋の夫婦にとって後の大犯罪のための試金石でしかないことを。


お嬢様に、義妹という存在が現れました。

名をマルガリータ、旦那様のご親戚だという彼女が、身寄りを失くして迎え入れられたのです。お嬢様は親戚だというその存在を訝しんでおられましたが、旦那様が認められたのですから仕方ありません。


私は自分が本物の騎士ではなくただの売春婦の子供であることを思い出しました。マルガリータと名乗ったその女はロホ・グサーノ、宿屋夫婦の娘だったのです。



「何たる侮辱を!誰か!ペルノ騎士の首を刎ねなさい!!」


「静粛に!マルガリータ・ワッサー着席なさい!」


ありがとう、ありがとう、すまないね。

その女にはどうか私の言葉を聞いてほしいので、暴れているだろうが、どうか連行せずに座らせておいてくれないか。あぁひどい金切声だ。猿轡を噛ませておいてくれ。置き場所に困るならば私の隣にでも座らせてくれたまえ。何、同じ罪人だ。正しい居場所だろう。マルガリータ殿は主張があるならば日を改めるといいだろう。今日は私が喋る場なのだ。


一体どんな手を使ったか知りませんが、私の時とそう変わりはないでしょう。伝手と暴力で身分を詐称し、まんまと人のいいワッサー公爵を騙したのでしょう。ワッサー公爵家の親戚には素行の悪いものがいたと聞いたこともあります。弄ばれた女性がいたのではないかと案じてマルガリータ殿を引き取ったのかもしれません。もちろんそれはただの推測ですが。


そんな突然現れた異分子相手にでもお嬢様は優しくありました。立派な女性で、弟様が当主になるときの支えとなれるように、いつかどこかの家へ嫁入りする際に旦那様の力になれるようにと、日々教養を磨き家政を覚えておりました。現在、世間では弟殺しの罪で裁かれた悪役令嬢だの、当主の立場を妬んだ女などと言われていると聞きましたが、今までの私の話で、それらの噂に根も葉もないことをお気づきではないでしょうか。長くなりますが話はまだ続くのです。


キルシュお嬢様は猫を被って愛想よくはするものの真面目に令嬢としての教育を受けようとしないマルガリータに不審を覚えておりました。その上やたらとワッサー公爵家の家宝について知りたがったのですから警戒して当然です。もちろん教えるはずはありませんが、それをマルガリータは家族として認められてない、と周囲に吹聴いたしました。


その内容の殆どはキルシュお嬢様を貶しめる内容で、悲しいことに女性だてらに当主代行ができる彼女を疎ましく思う男たちは多かったために、たちまち社交界でワッサー公爵家の醜聞扱いとなったのです。その流れに乗ったのでしょう。マルガリータはさっそくと言わんばかりに行動を起こしました。私はマルガリータから呼び出しを受け、身分詐称をバラされたくなければ両親・・・宿屋の夫婦から荷物を受け取ってこいと命令をされて、矮小なわが身、せっかく手に入れたキルシュお嬢様の騎士という立場を失いたくないばかりにその命令を遂行したのです。


荷物は小さな包みでした。中身が何かなど知りたくもありませんでしたが、ニヤニヤと醜悪に笑う夫婦に嫌な予感がして、マルガリータ・・・娘のロホが何を企んでいるのかダメ元で尋ねました。


もちろん、家宝です。皆さまと同様、貧民街でもワッサー公爵家の家宝たる魔法道具は必ず願いの叶う宝石だという噂・・・一国の運命を左右する強大なものだというおとぎ話のようなものが伝わっています。きっと宿屋の夫婦たちはパーティーに参加することで、それらの噂がただの与太話ではなく、貴族社会で当然のものと受け止められていることに気がついたのでしょう。そして強欲にも、それらを我が物としようとした。なんて恥知らずなのか。ですが真実、恥知らずなのはそれを聞いた後も荷物をただただ黙って運び続けた私でした。何度荷物を運んだでしょう。


それが取り返しのつかない事態を引き起こすと、薄々気づいておりましたが、私は今その時の安寧とした時間を手放すことも出来ず、さりとて何か奇策が浮かぶこともなく、ただいつか自然に良い方向へ物事が動き解決されるのではないか、というくだらない楽観視を続けました。


まず奥様が体調を崩されました。ワッサー公爵夫人は決して病弱な性質ではなかった筈ですが、急に精神的に不安定になり、食事を口にすることもできなくなりました、同時期に旦那様も過剰に神経質になり、癇癪を起すことが増えました。それは明らかにおかしなことだったのです。どうしたことかと家の者が皆不安になっているところに、マルガリータは私に一つの命令をしました。それは臥せっておられる奥様への食事を持っていくように、というものでした。おかしな点は、直前にこれをかけるように、と薬包を渡されたことです。それが何であるかまではわかりません。ですが、結果として私が奥様を殺しました。


そうです、私が何かしらの悪意と違和感を覚えつつも、必死に目を背けてただ命令に従ったために、奥様の食事に毒をふりかけて、提供しました。即死する類ではなかったようですが、効果は抜群だったのでしょう。ものの数時間で奥様の意識は失われ、完全に臥せりました。医者が到着するのを待つまでもなく、今夜が峠ではないかと察する状態となりました。


私はマルガリータを問いつめましたが、やつが言ったのはお前がやったことだ、もう後戻りはできないからそのまま旦那様にも洗脳魔法をかける手伝いをしろと言いました。そうです、洗脳魔法にかかりやすくするために毒をもっていました。その毒は私が宿屋夫婦からせっせと運んでいたのです。これは推測ですが、きっと料理長を抱き込んだのでしょう。


マルガリータは違法な魔法香水で洗脳を狙っていたようですが、元々短気な性質ですので奥様を殺してでも旦那様の精神を揺さぶり無理やり洗脳をすることを選びました。家宝の在処を聞き出すだけが目的なのでしょうが、万が一死んでしまっても、次期当主の弟様も、当主代行となるキルシュお嬢様も容易に操作できると思っていたのでしょう。


旦那様はたっぷりの魔法香水を吸い込んで、最早立っていることもできぬようになっていました。私はマルガリータについていき、見張りをしておりました。何故私はキルシュお嬢様の傍についていないのか、お嬢様のご両親を手にかけているのか。私は、己がまだ宿屋の夫婦たちを主人と仰ぎ、殴られることを恐れている奴隷だと気づかざるを得なかったのです。意識が朦朧として、ほぼほぼ洗脳にはかかっている癖に、頑なに喋ろうとしない旦那様を殴って吐かせろとマルガリータに命令された時に、私は卑屈で姑息な私と向き合わされました。既にマルガリータが手を挙げておりましたし、ここまで洗脳酔いをしてしまった旦那様はもう正気に戻ることはないでしょう。もしも本気で情報を吐かせるために暴力を振るうというならば、必要なのは拷問になってくるはずです。私がそれをするのかと、そしてそれをした際、私はどうなるのかと考えました。奥様と旦那様、同時の死亡です。両者と最後に関わったのはどちらも私。どうあっても私が疑われるに決まっています。ましてや事実として私は毒の運搬をしていたのです。


マルガリータはその口八丁でいい様に容疑者から逃れるはずです。そして悠々とショックを受けるキルシュお嬢様と弟様に、同情を見せ懐柔しようとするでしょう。日常的に料理へ毒を振舞っていたならば、お二人だって多少の毒を摂取しています。表立って調子を崩してはいませんでしたが、奥様や旦那様同様、精神薄弱となっていてもおかしくはありません。許せませんでした。マルガリータの企みを潰さなければいけないと思いました。そこで私はまた一つ過ちを犯しました。苦しみに呻き床に這いつくばった旦那様と醜悪な表情で睨んでくるマルガリータの二人の内、私は、旦那様を剣で殺しました。


どうみても殺人です。マルガリータが、何故殺すの!家宝について聞き出せないじゃない!と文句を言うのを返事もせず、その足で奥様も同様に殺しに行きました。どうか二人にはこれ以上苦しまずにいて欲しかったのです。病死と判断されることも避けたかった。二人を殺したのは私であり、その場にはマルガリータも関わっていると知らしめたかった。絶対に道連れにしてやると思いました。そのことはマルガリータも察したのでしょう。そして言い訳が利かない事態になる前に叫び声をあげて周辺の使用人たちを呼び寄せ、ペルノ騎士が突然の暴挙を!と返り血を浴びた私を指差して怯え泣きました。


洗脳のため香水を周囲に振りまいたマルガリータを見て、従来の臆病者が顔を出し、私は逃走を選びました。とはいえもちろんその後は皆様ご存じのように捕まったのですが・・・そのわずかな余白については存じ上げないはずだ。


私は当てもなく逃げ出したわけではありません、ある妄執に捕らわれており走り出すことしかできなかったのです。それは何故お嬢様のご両親が私のような人間に殺されて、宿屋夫婦が生きているのか?という疑問です。


あぁ、そう、男女の死体が川岸に捨てられていたのが事件になっていたでしょう。新聞を見ましたよ、その死体が随分立派な身なりだったもので、御しのびの貴族が殺されたのではないかと捜査をされていたようですが、なぁに、死体はただの貧民街の犯罪者夫婦ですので捨て置いて結構ですよ。私が魔法も使わず腕力で叩き斬りましたので魔力捜査をしても無意味なのです。


さて、目的を失った途端に次に思い出したのはキルシュお嬢様です。もちろん弟様のことも気になりました。お二人は気が塞いでいた弟様の気分転換にとピクニックへ行っていたはずなのに、帰宅したら両親が血まみれになっていたとなれば、どれだけお心を痛めるのか、想像もつきませんでした。そしてその隙をマルガリータに突かれてしまうのではないかと不安に圧し潰されそうになったのです。


急いで、そして誰にも見つからぬように屋敷へ戻ると、異様な空気に包まれており、静まり返っておりました。私は自分よりも下っ端の庭師を捕まえて話を聞き出しました。その男は私が誰かもわかっていない様子で、妙に怯えておりました。皆おかしくなったのだと震える声でその身を小さくしていたのです。


私は驚きました、キルシュお嬢様が地下の倉庫に捕らわれているというのです。


マルガリータは私が逃走した後に、周囲へ義姉たるキルシュお嬢様が私ペルノ騎士に命令して両親を殺させたのだと吹聴したらしく、ピクニックより帰宅したキルシュお嬢様をとらえたというのです。もちろん冷静に考えればそんなことはありえませんが、マルガリータは洗脳のため魔法香水を身に纏っていて、しかも私の逃走時に周囲へ振りまいていた状態でした。あの類は魔力の弱いものからよく効く。


マルガリータは弟様とキルシュお嬢様を引き離し、その間に弟様から家宝を奪うつもりなのだと気づき、迷った末に私はキルシュお嬢様を助けるために地下へ向かいました。地下の倉庫の前には見張りが立っておりましたが倉庫ではなく私室への監禁と変更になったと云えば安心したようにキルシュお嬢様を解放しました。彼らは私を見て旦那様たちを本当に殺したのかと疑っていましたが、私は何も答えることはありませんでした。


倉庫で蹲っていたキルシュお嬢様は私がこのまま逃げましょうと耳打ちすると混乱した様子でした。ですが、弟が心配だと気丈にも顔を上げ、私に知っていることがあるならば教えて欲しいと懇願されました。命令ではなく、縋るようにお願いをされたのです。この期に及んで浅ましい私は、キルシュお嬢様に両親を殺したのが私だと知られたくないと思ってしまい、何も言えませんでした。ただ、マルガリータが家宝を狙っているということだけお伝えしました。


キルシュお嬢様は納得した様子と同時に焦燥感を露わにして、やはり弟の元へ行くと言いました。私は制止することはできず、弟様の部屋へ向かいました。マルガリータに出くわしたらいけない、と私が先導しておりましたが屋敷はいっそ不気味なほどに静まり返っており、すんなりと弟様の部屋までたどり着けたのです。そして、嫌な予感がしました。キルシュお嬢様もそうだったのでしょう。扉を開ける瞬間に手が止まりました。


扉を押し開けようとして、開きませんでした。扉の前に何かある。キルシュお嬢様がひきつった悲鳴とともに、泣き出しました。扉を押し開く役目を代わり、ずず、と引きずった感触とごとっと何かが床に落ちる音。私は無心となりました。弟様が扉の取っ手で首をつっておりました。


泣き崩れるお嬢様をどうすればいいのかわかりませんでした。私は真っ先に洗脳が影響しているのではないか、弟様の意志だったのかと疑いましたが、キルシュお嬢様は己のせいなのだと嘆いておられました。


曰く、両親の死に動揺し、家宝を使いたいと泣くので、お嬢様が弟から家宝を取り上げた。そのせいで自死を選んでいてもおかしくない。


私が納得できるものではありませんでしたが、お嬢様はワッサー公爵家のものとしてよそ者に自死と知られるわけにはいかないと、弟様をベッドへ運びナイフで首を刺しました。キルシュお嬢様自身の手で弟様は殺人の被害者となりました。


私が代わるべきでした。一家を皆殺しにした犯人として私が捕まるべきでした。ですが、お嬢様は私のことを、両親を殺した犯人だとは思っておりませんでしたし、弟様を赤の他人が傷つけるのを許したくないとナイフを手放しませんでした。

そして私にある任務を言い渡しました。


その任務がなにか、お分かりですか。

どうです、マルガリータ、いいえロホ殿


「ううむ、ううん!」


あぁ、ははは。すみません。口元だけほどいてあげましょう。


「ふざけるな、私の家族を殺した殺人鬼が言うことなど誰が信じるか!皆様!私が家宝を得て必ずやワッサー公爵家の名誉を回復いたしますわ!どうかご協力を!さぁこの縄を解きなさい!ペルノ騎士をすぐに処刑しなければ!」


・・・この国は賢明で忠誠心溢れる稀有な公爵家を失いました。きっと国は揺らぐでしょう。それを引き起こした大罪、私は何度死んでも償うことはできません。ですが、私がキルシュお嬢様の騎士として、本懐を遂げて死ぬことをお許しください。


キルシュお嬢様は私の首へ刺青を明け渡しました。

ひどい激痛でした。


これが家宝なのだと、この刺青は魔法の陣となっており同時に呪いでもある。

ワッサー公爵家の血縁者のみが自由に移譲できる魔方陣の刺青。


血縁者でない私が受け入れるには魔力も体力も足りず、ひどい苦痛となります。

それでも一時的に渡したいとおっしゃいました。


キルシュお嬢様は既にマルガリータだけでなく国さえも家宝たる魔方陣を私物化しようという勢力に気づいていたのでしょう。国の上層部は血縁者だけが受け継いでいると知っているのだから、血縁者でない私が持っていることが安全なのだと。


私が痛みに気絶している間に、キルシュお嬢様は弟殺しとして捕まり、裁判さえまともにされず早々に処刑がされてしまいました。きっとそれはお嬢様自身も予想外でしたでしょう。お嬢様はワッサー公爵家の血を絶やすような真似は流石にしまいと考えていたはずです。ですが、あなた達はお嬢様に刺青がないと知り、そうそうに口を封じる判断をした。


きっと、誰かが家宝を持ったまま死んだのだと思った。だから旦那様も奥様も弟様も中々葬儀を行われることがなかった。そして、公爵夫妻を殺したであろう私の話をこんなにも熱心に最後まで傾聴してくださっているのでしょう。


なんですかその顔は、マルガリータ、貴女は噂を鵜呑みにして豪華な魔法道具や宝石を想像していたのでしょうが残念ながら魔法の刺青ですよ。これが何か教えてあげましょう。弟様は命を絶ったのはその身に刺青がまだあると思ったからでしょう。キルシュお嬢様がいうには錯乱状態でしたから、勘違いしてもおかしくはありません。


この刺青は確かに願い事を叶えてくれる魔法。

ご両親の命を救いたいと願えば、弟様の命を差し出せば可能だったのかもしれません。


あぁ皆様、逃げないで、逃げないで


私のお嬢様から言いつけられた任務を教えてあげましょう。

家宝の死守、そしてそれが不可能な場合、家宝の破壊です。


私の命を捧げて、願います。

私の命を対価の分だけ、この国の破滅と破壊を。




騎士の命も死体も存在も全てを捧げたので刺青は残りませんでした。騎士を中心に爆発したかのように蜘蛛の巣状態の土くれと残骸が広がっておりました。ですがたかが騎士の命一つでは国を完全に破壊することはできません、失われたのはせいぜいその場にいた数十名の命程度でした。

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― 新着の感想 ―
国は滅びなかったか……残念
最後が虚しい。でも騎士は結果を知らないのが余計に。 でも貴族達が一つの家を潰してまで欲した家宝は消えた上に実行犯のマルガリータは確実に巻き添えに出来たからまぁ。
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