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境界の文箱  作者: 華燕雀
1/5

名前のない文通

〇〇〇の間は基本手紙の内容です


世界は、まだ壊れていなかった。


だから今日も剣を握る理由があり、

だから今日もここに来る必要はなかった。


国境に近い丘の上。

崩れかけた石壁と、半分落ちた屋根。

かつて祈りの場だったらしいその建物は、今では風の通り道になっている。


誰もいない……

それだけが、この場所の取り柄だった。


奥に古い文箱が置いてある。

木製で角は丸く削れ、鍵はとうに壊れていた。


――前に来たときも、ここにあった。


理由は分からない。

捨てられたまま、誰にも触れられず、ただ残っている。


箱の前に立ち、少し迷ってから、腰を下ろした。

剣を壁に立てかけ、外套の内側から紙を取り出す。


書くつもりはなかった。

本当は、祈るつもりだった。


けれど、祈る言葉よりも先に、文字が浮かんでしまった。


⚪︎⚪︎⚪︎

この手紙が誰に届くのか、分かりません。


もし読まれたら、気まぐれだと思ってください。


最近、自分の役目がよく分からなくなることがあります。

逃げることはできません。

でも、進む先が正しいのかも、分かりません。


こんなことを書いても仕方がないですね。

返事はいりません。


⚪︎⚪︎⚪︎


折りたたんだ紙を、文箱に入れる。

蓋を閉めた瞬間、少しだけ胸が軽くなった。


馬鹿げている。

誰かが読むはずもない。


そう思いながら、教会を後にした。


♦︎♦︎♦︎


次にその場所を訪れたのは、三日後だった。


戦いの帰り。

血と土の匂いを落とすために、無意識に足が向いていた。


文箱の前に立ち、何の期待もせずに蓋を開ける。


――紙が入っていた。


自分の字ではない。

少し癖のある、整いすぎていない文字。


一瞬、罠を疑った。

それでも、手は止まらなかった。


⚪︎⚪︎⚪︎


返事はいらない、と書いてありましたが、

それでも書きます。


役目が分からなくなることは、悪いことではないと思います。

分からなくなったまま進む方が、

何も考えずに進むより、ずっと誠実です。


逃げられない立場について、

私は答えを持っていません。

ただ、あなたが立ち止まれる場所があるなら、

それだけで救われる人もいるはずです。


⚪︎⚪︎⚪︎


読み終えてから、しばらく動けなかった。


知らない誰かの言葉だ。

優しいとも、正しいとも限らない。


それでも、不思議と否定する気にはならなかった。


返事を書くかどうか、少し迷う。

迷ってから、紙を取り出した。


⚪︎⚪︎⚪︎


立ち止まれる場所、ですか。


もしそれがこの教会のような場所なら、

私は今日、少しだけ救われたのかもしれません。


あなたは、どうして返事を書こうと思ったのですか。


⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎


箱に入れ、蓋を閉める。


名前は書かない、

立場も、日付も。


それでいいと思った。


教会を出ると、空は曇っていた。

雨の匂いが、微かに混じっている。


次にこの箱を開けるとき、

それが誰からの手紙なのか、

知らないままでいたいと思った。


それでも、

返事があることを、期待している自分がいた。

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