第一章 期限は短し、青春と戦と恋せよ乙女
「えー、まず中学校のおさらいと行きましょう。まずこの世界の時代は大きく分けて黎明時代、大戦時代、三強時代、調和時代の四つに分かれています。皆さんがよく習ったのは三強時代でしょうが今回は黎明時代から。文明が発展した時代でありそれは摩擦で火を起こし火を作り上げた者によって始まりました、そこから火を使い我々人は文明を発展させていきました。この頃の文献が見つかっている中で最も古く正しく文明の始まりの時代であり暗闇を照らす黎明の時代となりました」
「なんと・・・今ではその様に伝わっておるのか。黎明時代の前には魔王が世界を支配していた暗黒時代があると言うのに」
「・・・」
先生が黒板に書いていく文字と教科書を見てクリカラは驚いた声を上げた。
「本当に勇者と魔王の戦いが教科書に載っておらんとは。どうなっておる?」
「・・・」
「おい、さっきからどうした。授業に身が入っておらんぞ」
「いや、あの状況から集中できると思う?魔王の生まれ変わりが皇さんとか・・・ありえない・・・」
「まだ信じておらんのか。我の感覚は間違っておらん、あの皇舞桜というものがお主の運命の相手だ」
「勝手に決めつけないでよ。てか、女の子どうしなんだけどどういうこと?女神ってガールズラブが好きなの?」
「そんな訳なかろう。約束の魔法には男女になって恋人になるという契約ではなかったからな・・・勇者と魔王の生まれ変わりを同世代にして合わせるだけだったのだろう」
「え、つまり同性同士になる可能性を考えてなかったってこと!?馬鹿じゃん・・・」
「そう言うでない。ただでさえ世界の理に干渉しておるのだお主と皇舞桜が巡り会えただけでも女神様に感謝せねば」
「だから!私はそれを望んでないんだってば!何?恋人同士にならないと世界が滅びるって意味分かんない!誰よこんなふざけた約束したやつは!」
「前世のお主だ」
「前世は前世!今世は今世でしょ!?なんで私が前世の分も背負わないといけない訳?」
「そういう約束なのだ」
「意味分かんない・・・前世の私馬鹿じゃないの?」
心の中でクリカラと会話しながら悪態をつく。
あの後ギリギリで教室について間に合い、今は一時限目。しかしさっきの事があって集中できなかった。皇さんと恋人にならないと世界が滅びる?あまりにも無茶苦茶だ。窓から空を見る、青く澄んだ空は平和そのものだった。これが正月には消えて無くなってしまうのか・・・とても信じられない。
「というか皇さんはこの事知ってるの?恋人にならないと世界滅びるって」
「知らないだろうな。お主は我からその事を知っただろう?我はてっきり女神様がお告げか何かをして知らせているものとばかり思っていたが」
「それじゃあ知らせて恋人になるのが手っ取り早いかな・・・って信じてもらえる訳ないか」
まだ私すら信じられていないのだ。急に他人から私達が恋人にならないと世界が滅びるので付き合ってくださいなんて頭のおかしい奴だと思われる。
「クリカラが話して説得するのは?私と喋れるんだから他の人とも喋れるでしょ?」
「・・・そうしたいが何か女神様の思惑がある様に思える。一度教会へ行っても良いか?女神様と謁見して話を聞きたい」
「そんなことできるの!?すご。てか、女神って本当にいるんだ・・・」
「お主の反応を見るに姿を隠させて随分経っている様だ。我も話すのは数千年ぶりだ、我の事など忘れておるかもしれんが試してみる価値はある」
「分かった、とりあえず教会に行って女神に話聞けるなら聞く。話できなかった場合は世界滅亡の事を皇さんに話すって感じでいい?」
「ああ、構わぬ」
今後の方針が決まった事で少し落ち着いたのか少しずつ授業に集中できた。この先どうなるのだろうか・・・まさか本当に皇さんと恋人になるなんて事ないよね?相手は皇グループのお嬢様だよ?それに魔人だし・・・はぁ、私どうなるんだろう。
そして迎えた昼休み。昨日は入学式で昼前には解散だったので初めての雛高での昼休みだ、まだ人間関係も定まらず決まりきっていないこの時期は昼休みや休み時間をどう過ごすかでどのグループに入るかが決まる時期とも言っていい。私は転勤が多かったから親切な人達に入れて貰ったり自分から入ることが多かったけど今回は自分で作ってみたいのだ!まずその一人は決まっている。
「月僧さん!一緒に食べない?」
「いいよ、一緒に食べよう」
よし!月僧さんゲット!次は・・・気になっている星花さん!
教科書を片付けている星花さんに話しかける。
「星花さん!星花さんも一緒に食べない?」
「お誘いありがとうございます、ぜひご一緒させてください」
凛とした声で星花さんは答えた後微笑んでくれた。黒い眼鏡の奥にあるキリッとしている目元は柔らかくなりポーニーテールにしている白髪の髪が揺れる。
「やった!さあ、こっちに」
よっし!まずは二人!このまま星花さんとも友達になって最高の青春を過ごしてみせる!三人の机を寄せてお弁当を取り出す・・・とり・・・
「あれ、無い・・・あ!」
そうだった!今日クリカラのせいで寝坊したからお弁当準備して無いじゃん!
「嘘、弁当忘れた・・・」
「そういえば今日ギリギリだったね」
「寝坊ですか?」
「あはは、アラームかけてなくって」
確か旧校舎の一階に購買があったはず。雛高のパンフレットは擦り切れるほど読んだから位置も覚えている。
「ごめん!ちょっと購買で色々買ってくる!直ぐに戻るから」
「うん、待ってるね」
「ゆっくりで構いませんよ、廊下は走らない様に」
「はーい!行ってきます」
教室を出て新校舎の二階の廊下を早歩きする。
流石は多種族高校、すれ違う人達は本当に様々だ。ありきたりな種族から珍しい種族の人もいる。でも同じなのは制服だろう、濃紺に近い黒のジャンパースカートは雛高の色だ。
「ん?あれは・・・」
目の前を重そうな荷物を持ったテングルドの女の子がいた。あの子は同じクラス人だったはず。あのミディアムボブのワインレッドの髪と背が高く触手を折りたたんでいる為少し膨らんであるスカートは間違いない。名前は確か長船・アルメリア・凪沙さんだ。
「長船さん、大丈夫?持とうか?」
「あ、蓮護さん。大丈夫です。先生に頼まれて職員室に運ぶだけなので」
長船さんは柔和な笑みで答えてくれた。優しそうな顔と落ち着く声は感じるだけで心が柔らかくなるようだ。長船さんはとても背が高く180、いや185センチは絶対にある。私は153cmなので約30cm差だ。
「さっきの授業で使ったやつだ。重くない?」
「テングルドですから大丈夫ですよ。先生も私が力持ちだから任せたみたいですから」
テングルドは体が大きく力の強い種族だ。人間よりも筋力が発達しており一番の特徴は腰についているその触手で前、横、後ろに2本ずつあるのが一般的でこれらは補助触手と呼ばれる。補助があると言うことは支えるものがあると言うこと、テングルドの足は実は触手で脚触手と呼ばれている。脚触手は人間の様な骨は無いが軟骨の様な支えがあり歩行を成立させている。テングルドはタコの擬態と同じ様な仕組みで触手の色を変えることも可能であり多くのテングルドは脚触手を人の脚の様に見せている。触手は乾燥に弱い為専用のスカートの中に入れて湿度を保っている。
「そうなんだ・・・でも私に一つ分けてくれない?力が強いからって手伝わない理由にはならないから。それに購買と職員室は同じ方向だし」
「・・・ありがとうございます。重たいですが大丈夫ですか?」
「大丈夫!これでも力はある方よ。任せて!」
長船さんが少ししゃがんで私は荷物を取る。荷物は少し重いがどうって事はない、職員室まで運べそうだ。
長船さんとお話ししながら職員室まで運び終え先生にお礼を言われる。職員室を出ると長船さんは教室に戻る様だ。
「なら、私達と一緒に食べない?今、月僧さんと星花さんも誘ってるんだ。どう?」
「え、いいのですか?」
「もちろん!長船さんの事もっと知りたいな」
「はい。わたくしでよければ・・・」
「ありがとう!私、昼ご飯買ってくるから先に戻ってて!」
長船さんと別れた後小走りで購買に行く。購買は思ってたより人がいた、私の様に遠くから来た人も多いのだろうか流石雛高だ。綺麗な列の一番後ろに並ぶが直ぐに先頭になった。
「メロンパンと、アバダンサンド、塩おにぎり、フィッシュバーガー、リッセイジュースください」
お金を渡して商品を受け取ると教室に戻る。
「アバダンと聞いたが中々珍しいものが売っておるのだな」
「珍しい?アバダンが?あの黒い体に白い毛があって角があるあのアバダンでしょ?珍しくなんかないよ」
「ん?そうなのか?昔は珍しく牛の方をよく食べておったが」
「へぇ、数千年前はそんなんだ。今じゃアバダンの方が食べられてるよ。牛はその分高級志向になっちゃってお金持ちしか食べられないよ」
「なんと!アバダンは臆病で家畜には向かないと思っておったが」
「遺伝子操作でなんとかしてきたんだっけ?歴史の授業で習った様な気がする」
「色々変わっておるのだなぁ・・・リッセイも我々の時代では野生で見かけたら運がいい程度だったが・・・」
リッセイは紫の大きな果実で栄養価がとてもあるが独特の爽やかな味が特徴だ。
「それも今ではジュースになるくらいいっぱいあるよ」
「これが科学というやつか・・・建物も高くなっておるし我の時代とは随分と違う」
「そりゃあそうでしょ。数千年経てば変わるよ」
クリカラの時代には魔法があったのだろうが今の時代には化学がある。




