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プロローグ

初めまして!この作品を楽しんでくれると幸いです!



勇者が魔王にとどめを刺した。


白銀の剣が黒き魔王の胸元に深く突き刺さる。この世界を支配してきた恐怖はその一撃で終わりを告げた。


「これで終わりだ、魔王」


勇者はそのまま剣を引き抜いた。鮮血が床に飛び散り魔王は自らの胸元に視線を落として、力なく崩れ落ちる。魔王城の玉座の間に静寂が訪れた。


「・・・ああ、やっと、か」


床に横たわりながら魔王が小さく笑う。その声には悔しさも怒りもなくどこか安堵すら混じっていた。


「死ぬのね、私は」


「致命傷だ。もう助からない」


勇者は砕けた鎧の胸元を押さえながら、ゆっくりと息を吐く。顔には幾筋もの血が伝い今すぐ倒れてもおかしくない。それでも彼は魔王から目を離さなかった。


「終わりだ。お前の支配も戦いも全部、終わる」


「そう・・・ね。」


魔王は、瓦礫の向こうに広がる空を見上げる。割れた天井から覗く空は、どこまでも青かった。


「助けられなくて、ごめんな。お前を止めることしかできなかった」


勇者が、ぽつりと呟いた。その声に込められていたのは勝者の誇りではなく、救えなかった者への痛みだった。


「恨んでくれ。世界を壊そうとしたお前を俺は斬ることしかできなかった」


「貴方を恨む理由なんて無いわ。悪いのは・・・この世界よ」


「世界・・・か」


「そうよ。私がどれだけ隣に人を望んでも誰も来てくれなかった・・・あなた以外」


魔王の指先が自らの胸をとん、と叩く。


「私は魔王だから。破壊の魔法を持つ恐ろしい存在だから。だからみんな遠くから怯えるだけで、誰も手を伸ばしてくれなかった」


静かに、しかし確かな声音で続ける。


「だったら、そんな世界の方を壊したかった。魔法なんてなくなればいいと思ったの。そしたら私にも友達ができるかなって」


「・・・魔法、消えたよ」


勇者は、外の気配に耳を澄ます。さっきまで世界中に渦巻いていたはずの魔力の奔流が今は嘘みたいに静かだ。


「お前が放った最後の大魔法だ。この世界から魔法の理を壊す魔法。この剣以外にもう魔法を使えるやつはいなくなった」


勇者は力無く笑った。目の前の女の子を殺さないと魔族の支配は終わらなかったからだ。


殺すしかなかったしこれで世界は救われるが目の前の女の子は助けられなかった。一番助けたい人を助けられなかった。


「良かった・・・これでもう誰も魔法に悩まされることなんて無くなる・・・私が願ったことはちゃんと叶ったわ」


魔王は目を閉じる。その顔はどこか満ち足りてすらいた。


「・・・ふざけるなよ」


勇者の声に初めて怒気が混じった。


「そんな顔で納得するな。全部壊して一人で終わろうとするな」


「他にどうすればよかったの?」


魔王が静かに問い返す。その目はひどく寂しそうだった。


「誰も、私のことなんて見ていなかったわ。けど最後に貴方が私を理解しくれた、友達になろうとしてくれた・・・だけど止まれなかった」


「・・・なら」


勇者はその刃先を今度は天へと向けた。


「今世では間に合わなかった。助けられなかった。だから来世でお前を絶対に幸せにする」


「来世、で?」


「そうだ」


勇者は静かに目を閉じる。


「女神様!」


その呼びかけに応じるように、砕けた玉座の間に柔らかな光が差し込む。


「勇者よ。呼んだのは、お前か」


天から響いた声は、勇者と魔王に伝わる。


「約束の魔法を今使わせてください」


「・・・目的を言え」


勇者は一度魔王を振り返る。血の海の中で魔王はこちらを不思議そうに見つめ返していた。


「女神様、来世で俺と魔王が"心からの恋人になる”ようにこの魂を導いてください」


 「え?」


玉座の間の空気がびり、と震える。


「それは世界に干渉する願いだ。相応の代価が要る」


「代価・・・そうだ」


勇者は短く息を吸い込み、迷いなく告げる。


「もしその約束が果たされなかった時は世界ごと滅ぼしてくれて構いません」


魔王の瞳が、大きく見開かれた。


「ちょ、ちょっと待って!? 世界よ!? あなた正気なの!?」


「大きな要求には大きな代価が要る・・・よかろう」


女神の声が淡く微笑む。


「約束の魔法を受理した。来世、お前たちの魂は再び巡り会う。その時お前たちが互いに心を通わせ、恋人となればこの世界は救われるだろう」


「聞いたか、魔王」


勇者は笑った。ボロボロの顔で、それでも子どものような笑顔だった。


「今世じゃ無理だったけど来世では絶対に幸せにする“魔王”じゃなくて、“お前”を好きになる。だから・・・」


「・・・本当に馬鹿ね、貴方」


魔王はゆっくりと手を伸ばす。震える指先が、勇者の手に触れた。


「そんな無茶な約束をしてまで、来世に私を連れて行こうとするなんて」


「お前一人置いていくよりマシだ」


「そうやって、何でも一人で背負うんだから・・・」


魔王は小さく笑い、握った手に力を込める。


「いいわ。そこまで言うなら信じてあげる。来世で、ちゃんと私を口説き落としてみなさい。貴方が本当に勇者なら――今度こそ、私を“普通の恋人”にしてみせなさい」


「ああ、約束だ」


ふたりの手の間で柔らかな光が弾けた。それは契約の証約束の魔法の刻印。


「ではまた来世で会うがよい・・・勇者と魔王よ」


女神の声が遠ざかっていく。


その日、世界から魔法は消えた。勇者も魔王も伝説に語られるすべてがただの昔話になるだろう。


けれどひとつだけ消えなかったものがある。


「来世で、恋人になる」という、馬鹿みたいな約束だ。


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