第8話:『最初の試練(?)』
──ザッザッザッ
「ここら辺本当に草が多いな……」
依頼場所に向かうため、俺らは少しだけ射し込む木漏れ日を頼りに森の中へと歩みを進めていた。
だが……あまりにも草木が多すぎる。
草が肌を切り、切り傷が手足に刻まれる。
「ポーション貰っておいて良かったね、兄様!」
「あぁ、そうだな」
少し開けた所で回復用ポーションを傷口にかけ、「冷たい!」とみんなで笑顔で笑っていた。
回復用ポーションは普通、買わなければ当然手に入らないのだが、母さんのスキルで回復草さえあればその後の過程を全てとばせるため、俺らは普段より少し安めに回復用ポーションを手に入れることができていた。
ポーションを使いながら回復草を探しに行く……自給自足とはこういうことを言うのだろうな。
そういうことができる人達は本当に凄い、尊敬する。
──ガサッ
「……!?」
そんなことを考えてきた矢先、俺の右手側にある草の奥から物音が聞こえる。
ここには魔獣や魔物は少ないはず……つまり、人間の可能性が高い。
シイラが警戒を高め始め、剣先を物音の聞こえた方向に向けた頃、少し遅れて他の3人も臨戦態勢に入る。
イリス、ヒラ、レイの3人はこういう経験が少ないためか、顔が強ばっていた。
──しかしその時、話し声が聞こえ始める。敵意はないようだが……手慣れの可能性もある、油断はできない。
「ちょっと……あなたのせいでこっそりついて行くはずだったのにバレちゃったじゃない」
「す、すまない……」
「え……母さん、父さん!?ここで何をして……?」
物音を立てていたのは魔獣でも魔物でも人間でもなく、よいしょ、という掛け声とともに重そうな足を上げる父さんと、軽快な足運びで草をヒョイっと跳び越えてくる母さんだった。
「流石に心配だからね……こっそり付いて何かあればすぐに駆けつけようと思っていたのよ。
……まぁ、誰かさんのせいでバレてしまったけれど」
そう言いながらジロっと父さんの方へ向く母さんと、絶対に母さんと目を合わせないように明後日の方向へと目を向ける父さん。
「はぁ……本当に魔物だったらどうしようかと思ったよ」
魔物とは、魔獣と違って少なからずの人間に近い知能を持っている魔獣のことを表す。代表的な例でいうとゴブリンやコボルトだな。
知能が高い分、当然同じ大きさの魔獣よりも倒すのはおろか、まともに戦うことすら危ない。
特に大した訓練も受けたことのない、無名冒険者や一般人などは話にならない。
「まぁ、今のところ怪我が無さそうで安心したわ」
「簡単な魔獣とか依頼よりも、そこら辺に生えている草の方が怖いよ。毒があるかもしれないんだし」
「それもそうね……今度は解毒剤でも持っていく?」
「流石にそれは自分達で用意するよ……」
家を買った時とかはふわふわした雰囲気の母さんだが、今はキリッとした、まるで優秀な事務員のようだ。テンションのオンオフが激しい……これを一般的に天然キャラとでも言うのだろうか?
──ダンッ!
「うっ……」
イリス、ヒラ、レイの3人の気が緩んだ瞬間、レイの真横を矢が通り過ぎ、そのすぐ後ろにあった木に突き刺さる。
矢が通り過ぎたところに目線を向けると、そこに居たのはアンデットの魔物……スケルトンだった。
ただ、スケルトンが現れるのは地下のみ。こんな森の中には迷宮崩壊でも起きない限り、出現することは無い。
それにこの近くに迷宮はない。
つまりこれは幻影というのが筋が通る……この状況で何も驚いた様子をしていない父さんと母さんを見る限り、2人の仕業だろう。
ただ、聖女のスキルにそんなものは無かったはず……あぁ、そういうことが。
「父さんもスキル持ちだったんだな」
「母さんほど凄いものを持っているわけではない……ただ、相手の器官に少し障害を与えるだけだ。」
スキルを持っているだけで恵まれているのに、謙遜するなよ……父さん。
ただまぁ、これはいい機会だ。3人が成長する、な。
「レイ、ヒラ、イリス!」
『はい!』
俺の呼びかけに、スケルトンから目を離すことなく返事をする。
「3人で協力してスケルトンを倒すんだ!レイ、今回はスキルは禁止だ。純粋な力だけで戦え!」
「分かりました!」
一通りの指示が終わった後、3人は一度1箇所に集まってから散り散りに分かれ、3方向から攻め立てていた。これは、この3年間で得た柔軟な戦略を考える力の賜物だろう。
「っ……!!」
ただ、実践はそう上手く進むことは無い。
スケルトンの使う矢は魔力の集合体、つまり本数に限りがない。当然スケルトンの魔力が切れたらただの立つ骨と様変わりするが、持久戦に持ち込めばキツくなるのは3人の方だ。
依頼内容は別にあるしな。
「レイ、ヒラ、少し集まってください」
「……?」
埒が明かなくて詰まっていた所を、イリスが2人を呼び集めて何かを話している。
話し終えた時、ヒラは少し不安そうな顔をして、レイはニヤッとどこが楽しげな笑顔を見せた。
これはどこか……
「面白そうなものが見れそうだな」
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