第十九話 作戦会議とこれからの方針
「でさ、あの目つきの悪いクソメガネがさ、コピー能力持っててさー!」
「それ、スバルさんのことじゃないですよね?」
「うん! たしかに髪青いし、ツリ目だし、目つき悪かったし、メガネもしてたけど、スバルよりは強そうだったから違うわ!」
「スバルさんより強そうでしたの?」
「そいつはちょっとやばいかもな……」
「それで、その子どもとメガネの男性はどうしましたの?」
「どっか行った! いや、マジマジ!」
「本当ですの?」
「マジだって! ね、お姉さん?」
「はい! シュンくんの言ってることは本当です!」
「へー」
「ふーん……」
いま俺たちは作戦会議をしている。
それは「はじまりの世代」の対策でもあり、「新・時空自警団」の活動のためでもある。
「でもどこかへ行ってしまわれたのなら、いまからでも対策できますわね!」
「だな。それで、どんな能力を使ってました?」
「再現とか言ってた!」
「エミュレート、ですの……」
「いやそうじゃなくて、能力です」
「解除とか言ってたので、なんらかの状態を解除する能力で間違いなさそうです」
「アンロック……自己強化系や変体系の無効化が可能なのは確定ですわね……」
「つーか、模倣も無効化されるかもなあ……」
「え? それやばくね?」
「状態異常も解除できそうですわ」
「肝心なのは、永続なのか……それとも、持続時間に限度があるか……だな!」
「つまり、かけ直す必要があるのか……、それとも、一度かけたら対象中か永続的に無効化できるのか、ってことですね!」
「はい。なんにせよ、解除は強敵ですね」
「というか、常用しないのなら、なんらかの制限がありそうですわね」
「いや、無能力者には意味ねーとかだろ! トキマとかいうバケモノもいるし!」
「それに集団戦だと、一手遅れるだけでも命取りです! スバルさんの停止をかけて、集団でボコボコにしちゃいましょう!」
「えー? 集団リンチみたいで嫌だなあ」
「お兄さまの能力だと、コピーされるだけで詰みそうですわね……」
「よし! シュンさんは出禁な!」
「えっ!?」
「最後の切り札だ! だからリーダー命令で出禁!」
「切り札か! いいね!」
「単純ですわね」
「ふふふっ……」
なんにせよ、シュンさんが納得してくれてよかった。
「それじゃあ、スバルさんにも伝えておきましょうか」
「あ、トキマ! ちょっといいかな?」
「はい! なんですか?」
「あのー、『はじまりの世代』を仲間にすんのってあり?」
「正気ですの!?」
「いや、ありだな! さすがシュンさん!」
「えっ? 本気ですの?」
「ああ! だって、その方が楽じゃん!」
「トキマさん?」
「じょ、冗談だっての!」
「マーガレット顔こわ」
「藤さんはどう思いますか?」
「え? うちはありだと! 手段は選んでいられませんし。なにより能力を把握している方とは、連携がうまくいきそうですよね!」
「まあ、藤さんがそう言うのなら……」
「よし! それじゃあサブリーダーの許可も降りたので、積極的に勧誘しましょう!」
「意義なーし!」
「うちも意義なしです!」
「お嬢様は?」
「……まあ、意義なしですわね」
「うん! サンキュー!」
こうして、俺たちは「はじまりの世代」の勧誘を前提に立ち回ることになった。
これが吉と出るか凶と出るか、いまはわからない。
そもそも敵側も味方になってくれるかがわからないけどな!
まだ俺たちは、アキレアたちを勧誘してないから!
「いつか『旧時空自警団』のメンバーも参加しそうですわ……」
「それは社長とボスさんがいるじゃん?」
「それはそうですけど……」
「二人はあくまでも候補だけどな!」
「へー……、自由ですね!」
というかボスはいいとして、社長って仲間候補だったっけ?
「それよりも、まずは目先の敵ですわ!」
「だな! 頑張るぞー!」
「おー!」
「おーですわ!」
こうして、結束を深めた俺たち。
そんな中、藤さんがとある案件を申し出る。
「トキマさん! マーガレットさん!」
「どうかしましたか?」
「じつは未来の方で、ちょっとしたゴタゴタがあるんです! 『はじまりの世代』の方たちを仲間にしてからでもいいので、聞いてもらってもいいですか?」
「いまからでもいいですわよ? 目的があるに越したことはありませんもの」
「だな!」
「ありがとうございます! では……」
「ちょっと待って! お姉さんって、未来人なの?」
「そうらしいですわ! わたくしもいま知りましたけど!」
「リアクション薄~……トキマは知ってたん?」
「はい! 以前試合したときに知りました!」
「ふーん……」
「シュンくん、話してもよろしいでしょうか?」
「あ、いいですよ!」
「藤さんには甘いですわね」
「藤さんもな」
「え? どういう意味ですか?」
「いやなんでも!」
「無自覚ですのね……」
「え? どういう意味?」
「シュンさんも気づいてないのか……」
どうやら、シュンさんに藤さんが甘いことは、俺とお嬢様だけの共通認識なのかもしれない。
スバルさんも気づいてそうだけどな。
「それで? 未来でなにが起こっているんですか?」
「はい。未来では、FとPが分かれています」
「トキマはいないんですか?」
「トキマさんは知りませんね……。おそらく、死刑になったのか……もしくは捕まったのか……」
「というか、藤さんっていつの人間ですの?」
「十年くらい先の人間です!」
「てことは、いまは十五くらいか……」
「お姉さんがガキ……いや、子どものころか……」
「自分好みに育てるつもりですわね?」
「いやちげーし! おれはいまのお姉さんが好きなの!」
「年上好きってことですね!」
「ちっがーう! いやそうだけど!」
「どっちですの……」
「とにかく、いまの藤さんには頼らない方針でいこう!」
「ですわね!」
それにしても藤さんの未来って、意外と近いんだな……
「それで、未来でなにが起こっているんですか?」
「はい! いまのFとPとは名前が変わっていて、フォースとパーソナルって呼ばれています!」
「ふーん……」
「フォースと……」
「パーソナルですの……」
「それで、いまとは違い秘密結社ではなく、戦争業者です!」
「過激だな……」
「戦争業者って、なにするんですの?」
「主に戦争を止める組織と、戦争を進行させる組織ですね!」
「それってなにが違うの?」
「要は戦争をやめさせる組織と、戦争を過剰に進行させてやめさせる組織ですわね?」
「はい! 大体は!」
「それってなにが悪いの? 戦争止めてるじゃん」
「いや、戦争を起こさせるのは間違ってますわ!」
「でもさ、戦争のこわさを教えるのも大事じゃね?」
「いや、それだと人が死にます」
「そうですわ!」
「いやいや、人なんて毎日病気とかで死んでるじゃん!」
「いやいや、自然死と殺人じゃあ、全然違うでしょう?」
「同じだ!」
「いーや違いますわ! 悪意があるのとないのでは……」
「だからぁ、戦争に無理やり付き合わされたり、感覚が麻痺してる人もいるわけで……そこに悪意とかなくない?」
「いやいや、それは極論でしょう」
「ですわね。結局のところ、同じ人殺しですわ」
「それってつまり、戦争だね?」
「望むところですわ」
「いえ、お二人のは論争です!」
「話が進まないから、その話はまた後日ってことで」
「ですわね」
つーか戦争を止めるのはいいとして、止めるために起こすのはズレてるよな。
「なーんかおれって、後者側の人間ってことかなぁ……?」
「それでどっちがフォースで、どっちがパーソナルですか?」
「前者がフォース、後者がパーソナルです! シュンくんの予想は、皮肉にも当たってます!」
「え!? 十年もこんな会社に勤めないといけないわけ!?」
「驚くとこそこですの?」
「それで、藤さんはどっちですか?」
「フォースです! いまもF所属でしょう?」
「ああ、だからFってことですね?」
「はい!」
ん? 待てよ……?
Fがボスで、Pが社長だろ?
「それなら社長は闇落ちするってことですか?」
「ああ、そうなんのか」
「ですわね」
「いえ! 社長さんは十年経つ前に変死して、代わりにシュン……あ、未来のシュンくんが社長さんになります!」
「ですって」
「シュンさんって地味に危険人物じゃね?」
「シュンって呼び捨てにされんのもありだな……」
「聞いてませんわね……」
「でも、ボスの能力で全員皆殺しにできますよね?」
「あ、そうですわ! ボスさん強いですし、どうしてそれをなさらないのでしょう」
「いえ! ボスも変死します!」
「えっ!?」
「ぜってぇ暗殺されてるだろ……」
「…………かもしれません」
「マジか」
「未来は厳しいって、そういう意味でしたのね……」
「いえ、おそらく違うと……」
「でもさ、おれが藤さんにフォーリンラブしてないってことだよね?」
「えっ?」
「いや、おれがお姉さん好きなのは、お姉さんも知ってるでしょ?」
「い、いえ! 初耳です!」
「そういうの、いまはいいですわ」
「だな。後で話してください」
「なんか扱い悪くね?」
「それで、未来のシュンさんが恋に落ちていないということでしたよね?」
「は、はい!」
「でも、それだとわたくしは?」
「マーガレットさんはPの幹部でした!」
「い、嫌ですわー!」
「心外だな! なんだよその反応!」
「だって……わたくしがトキマさんとくっつかないってことですわ!」
「いやそもそも脈ないだろ」
「いや、俺とお嬢様がくっつくかどうかは別として、出会ってないってのはそういうことだろ」
「だな! おれだって藤さんとくっついてないし!」
「まあ、恋愛話はその辺にしておきましょう」
「『はじまりの世代』は?」
「おそらく、辿り着かなかったんだと思います!」
「なにそれ?」
「過去は軸が安定しているので楽に戻れますが、未来だと話が違います!」
「へー……」
「どう違いますの?」
「具体的に言うと、日によって行く世界が違うんです」
「パラレルワールドってことですね」
「はい!」
「へー、そんなこと考えて使ってなかったな……おれはてっきり、未来全部がそうなのかと」
「Fだと教えられるんですけどね」
「でもさ、おれがF選んどけば違ったわけじゃん?」
「そんなたられば、通用しませんわ」
「それより、それで俺たちにどうしろと?」
「『はじまりの世代』を倒して未来に来てもらいます! 社長さんの開発した道具でリンクさせれば、マーガレットさんとかも行けますよ!」
「楽しみですわ! 旅行用の着替えとかも用意すべきですわね!」
「いやそういう旅行じゃないから。マーガレットは悠長すぎるだろ」
「なら、お兄さまはどう思いますの?」
「よっしゃ! 藤さんと一緒だぜ! とかかな?」
「単純ですわね」
「お前が言うな」
「兄妹喧嘩はそのへんにして……それで藤さん、Fのトップは?」
「もちろんスバルさんです! いい上司ですよ? ご結婚もなされてます!」
未来のスバルさんは結婚してるのか。意外だな。
「あ、よかった。クソメガネにお姉さんを取られちゃうとこだった!」
「いや、まず付き合っていませんわ」
「まあまあ……それで、過去からスカウト……もとい、潜入してこいとスバルさんが」
「有能っぽいですわ!」
「いや実際有能だろ」
「有能だな。クソメガネのくせに」
「そもそもそのスバルさんがいないと、シュンさんと藤さん出会ってませんから」
「ああ、そっか! ありがとなクソメガネ!」
「変わり身早っ」
「それで、いつ向かいますの?」
「いつ行ってもいいんですが、十三年後の6月です!」
「でも藤さんとあのバッジで同調すれば、一瞬で行けますよ!」
「たしか五個くらい量産されてた筈ですわ!」
「トキマ、マーガレット、アッキー、オグちん……あとは、すけっちかな?」
「そこはスバルさんで……」
「あー! クソメガネ死ね!」
「主語がでかいですわね」
「マーキングをしたのがかなり前の筈なんですが、大丈夫ですよね?」
「たしか元の時代には、マーキングなしで戻れます!」
「過去だから、こっちに行き来するときもマーキングする必要ないですわね。……もちろん、藤さん限定の話ですけども」
「だな! 『はじまりの世代』のメンバーからも選出したいし、こりゃあ忙しくなるぜ!」
「あれ? 既にすけっちは戦力外通知か……!?」
「不憫ですわね」
「でも楽しみです! うちもはやく皆さんと、元の時代で大暴れしたいです!」
「藤さんって、たまに言葉が荒々しいよな……」
「でもそこも好き」
「べつに聞いてませんわ」
こうして、「新・時空自警団」の最初の任務が決まった。
正直言うと不安だ。
アキレアも秘書の人も仲間に加えてないのに、勝手に仲間扱いしていいのだろうか。
…………それでも、「はじまりの世代」の人が一人でも多く仲間になってくれたら、考慮する必要はなくなるだろう。
そう密かに思いつつ、士気を高める俺たちだった。