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第十七話 シュンの杞憂

珍しく主人公以外の視点です。

これから増えるかもしれない。


「ふう……」


 おれはトキマや藤さんに負けてから、トキマと訓練することが多くなっていた。

 …………なぜかいつもマーガレットもいるけど。


 やれやれ……わが妹ながら、不器用なヤツだな。

 おれみたいに、当たって砕けろって感じでいかなくちゃ!

 …………でも、そういう精神ってのは、結構大事だと思う。

 大事なときに手遅れってのは嫌だからな。


 そんなことを考えながら、トキマたちにウザ絡みする。

 やっぱ人生明るくいかないと!!


 すると、藤さんとスバルって人がキスしていた。


「あ、キスしてますわ」

「本当だ。……ん? シュンさん……?」


 おれは怒りで震えた。


 あの野郎……、おれの(・・・)藤さんに手を出しやがって……!


「あの野郎……、おれの(・・・)藤さんに手を出しやがって……!」

「いや、べつにお兄さまの藤さんではありませんわ」


 妹が冷静にツッコミを入れる。


 だが、そんなことはどうでもいい。

 大事なのは藤さんの方からキスしていたことだ。


 許さん……!

 おれはスバルってヤツに怒鳴り散らす。


「おいくそ野郎! 藤さんから離れろ……!」

「顔こっわ」

「あの、どうかしましたか?」

「藤さん、べつに気にしなくていいですわ」

「は、はぁ……」


 藤さんが困ってるじゃねぇかよ……!

 おれはスバルってヤツにこう続けた。


「おいくそ野郎! 羨ましい……じゃなくて、けしからんことをしやがって! おれとしばき合いしろ!」

「しばき合い……?」

「実戦形式の試合の提案ですわ」

「面白い。受けてたとう」


 おれたちは模擬戦用施設に場所を移す。


「ところで、けしからんこと(・・・・・・・)というのは……?」

「スバルさんとのキスの件ですわ」

「いや、頭についたゴミを取ってもらっていただけだが」

「……ですって」

「よかったですね、シュンさん」

「いや、それはあいつの妄言だ! 言い訳にしかならない!」

「いや聞けよ」

「お兄さまは、昔からこんな感じでしたのよ……」

「へー」


 トキマと藤さんが口を揃えて納得する。


 だけど、言い訳はいい! 大事なのは納得することだからな。

 おれは納得していない。


 トキマたちは会話しながら、和やかに模擬戦用施設へ向かった。

 おれは怒りで頭がおかしくなりそうだったがな。


 そうして目的地に着くと、おれはスバルってヤツに交換条件を言い渡す。


「おれが勝ったら、あんたはおれに謝れ!」

「どう謝れと言うんだ……?」

「……おいシュンさん! シュンさんが負けた場合はどうするんだよ?」

「…………そうだな、仲良くやんな……」

「なんですのそれ」

「ふふっ……相変わらず、面白い人ですね」


 はじめから負けることを考えてどうする。


 ……なんてかっこいいことを言いたかったが、いまのおれにそんな余裕はなかった。

 普段のおれなら言っていただろうけどな。


「わたしに謝れというのは実に不可解だが、いいだろう。土下座でもなんでもしてやる」

「じゃあ土下座な!」

「贅沢な方ですわね」

「だがシュンとやら……君は藤くんの尊厳も踏み躙る行為をしていることを……」


 ヤツがくどくどと講釈を垂れようとしたので、おれはお得意の速攻を仕掛ける。


 すると四発放った拳は、貫通して(・・・・)通り抜ける。

 メガネもなぜか貫通した。

 たぶん、触れてるものすべてが貫通するようになってるな。


 さすがトキマの師匠……だった気がする男……!

 やり手だな。


「にしても、アキレアより速いとは……!」

「その能力、電子化だろ? すけっちの親族か?」

「ほう……!」

「すごいな……。シュンさん! どうしてわかったんですか?」

「この間からすけっちを何回かおどかしてたら、途中から物が貫通してびっくりしたんだわ! びっくり箱のおもちゃが貫通してさー!」

「なんですのその理由……」

「しょうもな……」


 おれがそんなことをのたまってると、スバルってヤツが口を割る。


「たしかに、これは介広すけひろの能力と同じだ。だが、それだけではわからん筈だが?」

「たしかに……」

「どうしてわかったんですの?」

「すけっちに聞いたら普通に話してくれた!」

「マジか」

「単純ですわね」

「説明終わり! そしてあんたは藤さん並みの速度で動けない! そうだな?」

「……たしかにそうだが?」

「そうなのか」

「意外ですわね……」


 ハッタリのつもりだったが、当たりのようだ。


「だが覚えておけ。速いだけが勝因でないと」

「いや違うね! 速いから勝てるんだ!」

「違う。勝負とは技術テクニックだ」

「へぇ……、ならやってみな!」


 おれはすかさず顔面を殴る。


 だが再びすり抜けた。


まだ駄目か(・・・・・)……」

「まだ?」

「どういうことですの?」

「…………まさか、貴様気づいてるな?」

「……なんのことかな?」


 どうやら当たりのようだ。


「気づいてる……?」

「なんのことですの……?」

「電子化の弱点ですね」

「弱点……?」


 ほらな! やっぱり弱点がある!

 なにが技術テクニックだ!


「でも……」


 そうなると、おれが得意な短期決戦が封じられたことになる。

 なぜなら、弱点はおそらく……


永続電子化(・・・・・)は、短期じゃ無理だな」

「永続電子化!?」

「……なんですのそれ?」

「スバルさんが前に教えてれたんですが……」

「いや、大丈夫だ藤くん。自分で説明する!!」

「ほう、あんたの方から教えてくれるとはな」

「…………それで、なんですのそれ?」

「永続電子化とは、介広以外が電子化を使いすぎると起こる現象だ。介広以外直せない」

「おそらくだが、電子化が永遠に続くんだろうな……」

「こわすぎますわね、その現象……」


 つーか、技術云々言ってた割にはみっともねぇな……


「技術云々言ってた割にはダサいな。逃げ回るばかりか?」

「なんだと?」


 乗ってきた……!


「だってそうじゃん? 逃げ回るだけで攻撃しようとしないし、漢なら攻めろよな!」


 われながら、いいこと言うぜ。


「わかった、いいだろう。受けて立ってやろ……」


 おれはこいつが言い切る前に攻撃を仕掛けた。


 だけど、また攻撃がスカされる。


「またかわした……!? この感じからして、今度は電子化じゃないぞ……?」

「貴様は不意打ちばかりか?」

「おれっちはいいんだよ!」

「卑劣な男だ……」


 なんとでも言え。


「勝てばいいんだ!」


 おれは再び攻撃を繰り出すが、また攻撃がスカされる。


「くそっ……」

「さあ、考えろ。トキマを追い詰めたというその実力でな」


 なんで知ってるんだこいつ……?

 たぶん、社長か誰かから聞いたんだろう。


 つーか、なんで当たらない?

 考えられる可能性は三つだ。

 まずコピーは確定として、その中で三つの候補を枝分かれさせよう。


 一つ目は、当たってない。


 これは自己強化系能力もコピーできるという可能性だ。

 だがその場合、なんらかの条件があると見た。

 なぜなら、おれの能力を使わないわけだからな。

 でも、電子化以前に当たってないから、これはないな。


 二つ目は、そもそも実体がない。


 これは幻影を見せるとか、そういう視覚のみを惑わす能力をコピーした可能性だ。

 この場合、おれはまんまとハマっている。

 この場合は簡単に騙すこともでき、尚且つコントロールもできる。

 よって、これがもっとも有力だ。


 三つ目は、能力の効果ではない。


 これは正志ただしちんみたいに、なんらかの副次的な効果で起こったという可能性。

 これなら騙されやすいうえに本人にもコントロールできないので、ほかに能力を警戒しないといけない。

 これも考えておくべきだが、いまは騙し合いの最中だからいいや。

 一応、頭の隅に入れておこう。


「よし!」

「考えはまとまったか?」

「おうとも!」


 思考速度は【倍速クイック】で加速させたからめちゃくちゃ賢いやつみたいになってるだろうな。


 問題は反応速度だ。

 反応速度を上げないと意味がない。

 だけど、これはさすがに上げられないな。おれも人間だし。


 さて、どうしたものか……


「さて、どうしたものか……」

「なんだ? お悩みか?」

「当たり前だ! あんたは能力を逃げるために使うからな」

「なら、攻めてやろう」


 そう言うと、おれは死角から攻撃される。


「な、なんだ!?」


 いま、後ろから攻撃が当たったような……?


「よし、シュン。貴様の実力はわかった」

「は?」

「貴様の分析力をテストしていた。能力も知らんが、大方予想できる」

「そうかい。でも、おれはあんたの能力の数を知らない」


 つーか、藤さんとキスしたこと謝れよな。


「ここで、藤くんから君に大切な言葉だ」

「えっ?」

「え? なんですか!? お姉さん(・・・・)

「藤さん……!」

「あ、そうですわね。さっきのことを言うべきべすわ」

「…………さっきのこと?」


 さっきのことって、一体何なんだ……?


「あっ……! あれですね。えっと、シュンくん」

「はい! なんですか?」

「さっきは、頭についたゴミを取っていただけですよ」

「え? スバルのことですか?」

「いえ、違います……!」

「つーか呼び捨てかよ」

「お兄さまらしいですけどね……」

「改めてよろしくな、シュン」

「おう、くそ野郎」


 こうして、おれは納得できて安堵した。

 なんだ、ただゴミを取ってただけだったのか。

 …………いや知ってたけどな!

 気に食わないやつをとっちめようとしただけだし!


 こうして、今日も一人嫌いなヤツができたおれっちだった。


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