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第十四話 しばき合い


「ところでさ、マーガレットも居ないことだし、恋愛トークしようぜ!」

「はぁ……」

「好きなヤツいんの?」

「うーん……、訓練ですかね」

「いやいや、人限定で」

「いないですね……」

「おれっちは、おれっちより強い人がいいな!」

「え? シュンさんより強いなんて、……そんな人いますかね?」

「いるっしょ!」

「お兄さま。そろそろ恥を晒すのは、おやめになってくださいまし」

「お嬢様いるじゃないですか……」


 もしかして、俺の好きな人を聞く算段だったのだろうか?

 でも、本当にいまはいないしなぁ……。


「何だよその言い方? おれはマーガレットのためにだな……」

「トキマさん、もう平気ですの?」

「ああ。心配かけたか?」

「当たり前ですわ!」

「そうか。でも大丈夫! いつか慣れるから!」

「いや、貧血慣らしちゃ駄目っしょ」

「ですわね」


 俺の発言にツッコミを入れる二人。

 やっぱり兄妹だな……。


「冗談はさておき、引き続き、仲間探しするか!」

「おれっちも付き合っていいかな?」

「えっ? おぼっちゃまも来るんですか?」

「その呼び方はやめて? 普通にシュンさんでいいから」

「はい!」

「そうですわね、藤さんはどうでしょうか」

「富士山? 噴火で無くなっちゃったあの?」

「違いますよ。女の人です」

「へー! 可愛いの? その人」

「そうですね……。どっちかというと、綺麗……、ですかね……?」

「では、実際に会いに行きませんこと?」

「おう! 行く行く!」

「えっ、いいのか?」


 お嬢様から提案するとは、意外だな。


 早速俺たちは、藤さんに会いにいく。

 ……でも、どこに居るんだ?


「一回手合わせしただけで、趣味とか知らないしな……。そうだ! スバルさんなら藤さんの居場所を知ってるかも!」

「そうですわね。藤さんはたしかFの最高幹部ですし、丁度いいですわ」

「そうだったのか」


 初耳だ。

 ……どおりで強いわけだ。


「トレーニング施設に行ってみませんこと?」

「へー! そんなの出来てたのか! 実戦と気絶ばかりしてて、知らなかった!」

「トキマって、意外と変人だよな!」

「お兄さまには言われたくありませんわ……」


 そんなことを話していると、藤さんを見かける。


「あ! 上の階にチラっと見えた!」

「え? 何が?」

「あれは藤さんのスカートだった!」

「え……? 見えたってそういうこと?」

「いや普通にズボンでしたわ。ハーフパンツ!」

「いやでも、スカートの中見えるのってエロくね?」

「藤さぁーん!」


 俺は大声で藤さんを呼び止める。

 すると、藤さんがこっちに気付く。


「あっ、トキマさん! いまそちらに向かいますね!」

「えっ?」


 そう言うと、藤さんは上の階から飛び降りてくる。

 そして、シュタッと着地した。


「すっげー!」

「かっこいいですわ!」

「藤さん! いまのって、トレーニングの成果ですか?」

「はい! トキマさんに言われた弱点は、うちが未熟だったからなので……このひと月、みっちり鍛えました!」


 藤さんは、意外と努力家なのかもしれない。

 そんなことを考えていると、シュンさんが藤さんに提案する。


「お姉さん何歳ですか! おれっちは十九歳っす!」

「に、二十五です……」

「そうなんだ……」

「お若いですわね……」

「一緒にしばき合いませんか!」

「しばき合い?」

「お嬢様、しばき合いってのは……?」

「兄流の、実戦形式の試合の提案ですわ。普段なら、強そうな方にしかしない筈なのですけど……」

「いいですね、やりましょう!」


 藤さんが笑顔で試合を受ける。

 そうして俺たちは、模擬戦用施設に場所を移す。


「お姉さん! 殴りかかるんで、いまのうちに降参してもいいですよ!」

「はい! 大丈夫です! こっちも殴りかかるんで!」

「そんで、おれが勝ったら付き合ってください!」

「ふふっ、いいですよ」

「えっ?」

「いいんですのね……」

「あざっす!」

「……面白い方ですね」


 藤さん、絶対冗談だと思ってるな……。


「つーか、なんでこんな事になったんだっけ?」

「完全にお兄さまのペースですわ……いっつもこうなんですの」

「そうなのか……」


 言うに及ばずといったところか。

 俺はお嬢様の表情で、大体察する。


「先に言っておきますが、お姉さん、強いですね!」

「へぇ、わかるんですか?」

「歩き方に体重移動の音……あとは、おれっちの勘です」

「へぇ……! でも、貴方もなかなか強そうですね!」

「強いですよ! とくに、女性には負けたことないです!」

「では、今日が女性に対して初めての黒星ですね!」

「……言うね。面白い……!」

「それでは来てください!」


 お互いに構える。

 ……俺とお嬢様は、息を呑み観戦する。


「では、いきますね!」

「はい!」


 藤さんが返事を言い終わるまでに、シュンさんが走り出した。


「おっ、今度は見えるぞ! シュンさんやっぱり速いな! な? お嬢様!」

「えっ? なにがですの? 動作予測コンピュータを発動していないので、わかりませんわ……」

「……そっか」


 お嬢様は見えていないのか……

 ……俺は自分が成長したことを実感する。


 そして、シュンさんは一発、藤さんのボディに喰らわせる。

 だけど、藤さんはその後残りの三発を受け止めた。

 …………なんて速さの戦いだ……!


「へぇ、これを受けたか。ここまでやる人は、トキマ以来ですよ! ……って、さっき戦ったんだし、当たり前か」

「貴方こそ速いですね! ここまで速い人は、貴方で三人目です!」

「えっ……」

「三人目なのか」

「藤さんって、凄いんですのね! トキマさんと戦ってるときから凄かったですけど」

「ああ、お嬢様は知らないのか。藤さんの能力は……」

「トキマ! 少し黙ってくれ! おれはこの人とフェアにやりたい!」

「……あ、すんません」


 怒られた……。

 ……でも、俺だって初見の人とはフェアに戦いたいしな。

 今回は、シュンさんが正しい。


「貴方、良い人ですね!」

「いやいや、普通です! では、今度はそっちからどうぞ!」

「いいんですか? ありがとうございます!」

「はい! どうぞ!」

「では、いきます!」


 藤さんが走りはじめる。


「さすがに、攻撃の方は遅いな……」

「……えっ?遅いのか?」

「兄からしたら、どんな攻撃も遅いんですの」

「ああ、そういうこと……」


 走り始めた藤さんに対して、迎撃体勢をとるシュンさん。

 だけど、藤さんはこの動きに対して反応しない。


「ふーん、真っ向勝負か」

「【動作予測コンピュータ】、発動ですわ! トキマさん! 試合が終わったら、膝枕を頼みますわね!」

「おう! 任せとけ!」


 俺がお嬢様と会話しているうちに、試合は動く。


 藤さんの攻撃が命中する寸前で、藤さんはその腕を引っ込め、もう片方の腕でボディを狙う。


「フェイントか!」

「藤さん、上手いですわ!」

「だな……」


 さすがに反応しきれず、シュンさんはダメージを負った。


「やるな……! わくわくしてきた!」

「こっちこそ……!」


 (この人、強い……!)


 (この人、強い! だけど、うちだって……!)


「お嬢様は、動作予測コンピュータ無しじゃ見えないのか?」

「はい。動作予測コンピュータは、動きを予測して行動に移すんですの。要するに、動きが見える速度が上がるのではなく、動きを予測する能力に磨きがかかるんですわ」

「ふーん」

「でも、これほどまでに速い場合には、予測した動きだけが鮮明に見えるんですの。わたくしには反応できない速度なので、初速以外は見切れないのですけど……」

「なるほどな! お嬢様の見てる世界か……」

「あっ! 兄が仕掛けますわ!」


 お嬢様が言い切る前に、シュンさんが動く。

 このとき、まだ藤さんは構えていない。


 …………つまり、とてつもない反応速度ってことか。

 すげぇな。今の俺なら、どう戦うかな……


「ふっ!」


 今度はシュンさんが攻撃を当てる前に藤さんのガードが決まる。


「速すぎますわ……!」

「だな……」


 そういえば、時間差酔いが発動していない。

 ……きっと、藤さんの反応速度は見てから動いてるわけじゃない。

 事前に動いてるんだ(・・・・・・・・・)

 決まった動きをすると決めている場合、時間差酔いはしないんだろう。


「凄まじいな……」

「貴方も、やりますね!」

「さっきから貴方貴方って……、おれっちは、シュンと言います!」

「そうですか。なら、うちが勝ったら、名前で呼んであげますね!」

「……お姉さんも、おれが勝ったら、名前で呼んであげます!」

「意地の張り合いですわね……」

「なんの言い争いだ……?」


 お互い負けず嫌いなんだなぁ……。

 そう考えていると、二人はさらに速く動き出す。


「目で追えない……!」

「わたくしもですわ……。二人とも凄いですわね……!」


 藤さんは、俺と戦ったときのように、攻撃の相殺をしている。

 速すぎて、攻撃を相殺したタイミングしか見えないけどな。


 攻撃の相殺が四回続くと、今度は藤さんが仕掛けた。


「おれっちが受け身になるとは……」

「鍛えた後の最初の試合がこれとは……骨が折れます」


 仕掛ける前に会話する二人。

 ……これって、事前に相手の動きがわかっていないと出来ないよな?

 会話にすら技術を使うだなんて……、すげぇ。

 

 藤さんはまたもやフェイントを織り交ぜる。

 しかし、さすがのシュンさんも慣れてきたのか、今度のフェイントは普通に受け止めた。


「お姉さん、強いですね!」

「貴方もなかなか強そうですね!」


 試合前の会話の再現……?

 なんだかんだで、似た者同士なのかもしれない。


「つぎはおれのターンです!」

「はい、どうぞ!」


 自信満々に攻めるシュンさん。

 でも、この試合はつぎの一撃で終わりを告げる。


 なんと藤さんは、シュンさんに見えない角度で拳を構えている。

 …………これってもしかして……


「俺との試合の再現!?」


 俺がそう言い切る前に、シュンさんは攻撃を仕掛けていた。

 だけど、藤さんは完全に動きを読んでいる。

 

 ぶんっ!


 ガッ……と、鈍い音が響く。

 なんと藤さんのアッパーは、シュンさんの顎にクリーンヒット。


「……楽しかったです!」

「ぐ……」


 シュンさんはその攻撃を受け、意識を失う。


「シュンさん!」

「トキマさん! シュンくん(・・・・・ )によろしく言っといてください!」

「は、はい……」


 そう言い残して、去っていく藤さん。


「とんでもない方ですわね……」

「ああ。シュンさん、色んな意味で(・・・・・・)完敗だな……」

「じゃあ、わたくしも五分休みますわね」

「えっ……? そんな少ししか経ってなかったのか……!?」


 そうして、お嬢様も眠りにつく。

 シュンさんは、三分したら起き上がった。


「……あれ?お姉さんは?」

「ああ、『シュンくんによろしく言っといて』って言ってました!」

「へぇ……! じゃあ、今度会ったときはこう言うか。付き合ってくださいって」

「シュンさん、諦めないんですね」

「いや、惚れたぜ! フォーリンラブ!」

「……マジか」

「うーん、なんの騒ぎですの……?」

「惚れたぜ、藤さん!」

「なんですの? あの馬鹿騒ぎしてるお馬鹿さんは……」

「うーん、何なんだろうな……」


 こうして、藤さんに惚れてしまったシュンさん。

 シュンさんの恋は、実るのだろうか……。


 ん? そういえば、何か忘れてるような……


「あ! 勧誘すんの忘れた!」

「あ! 本当ですわ……!」


 どうやら藤さんを誘うのは、一筋縄ではいかないようだ。

 こうしてシュンさんと藤さんのしばき合いは、藤さんの勝利で幕を閉じるのであった。

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