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第十三話 最速との対決

名前の由来は春菊です。


「この人はわたくしの兄で、名前はシュン。わたくしの知る限りでは、最速の能力者でしてよ」

「へぇー! すっげぇ!」

「マジ!? やっぱおれっちの凄さに、気付いちゃった感じ?」

「あ、はい……」


 なんか、思ったよりチャラチャラしてるな……。

 俺は唖然とした。

 そんな俺に気付いたのか、お嬢様が話し出す。


「コホン……、それで、この方はトキマさん。わたくしの同僚ですわ」

「どうも! トキマです」

「うん! 噂は聞いてるよ。なんでも、おれっちの可愛い妹をボコっちったヤツだっけ?」

「えーっと……、ごめんなさい」


 俺はなんだかいたたまれない気分になり、謝った。


「いいんですわ! 兄特有の皮肉ですの。無視していいですから」

「えっ……?」


 お嬢様がいつになく辛辣で、俺は面食らう。


「ちょっち酷くねー? おれっちはシュン! 最速の能力者でしてよ?」

「ま、真似しないでくださいまし!」

「それよりさー! こいつ、いつからこんな話し方になったと思う?」

「ちょっ……、お兄さま!?」

「ガキの頃にさ、なんかテレビっていうレトロな箱で見たんだってさ。そんで、真似するようになったんだわ!」

「もう! バラさないでくださいまし!」

「は、はぁ……」


 何だ? このふざけた人は……

 でも、油断は禁物。こういう人が強いってのは、アキレアで学習済みだ。


「で、強いんですよね?」

「強いよ」

「ええ。強いですわ」


 口を揃えて言う。

 兄妹揃ってすごい自信だな……。


「なんなら戦ってやるか? うん、それがいいな!」

「えっ?」

「急すぎますわ! わたくしたちは……」

「いや、やろう!」

「えっ?トキマさん?」

「いいね! そんじゃあ、社長が作った模擬戦用の場所にしよっか」

「はい!」

「もう……」


 最速の能力者か……。

 どんなものか、試してやろうじゃないか。


 模擬戦用施設に向かう途中で、俺たちは社長と遭遇する。


「おっ、社長!」

「どーも、社長!」

「おお、シュン君じゃないか」

「うっす! いまからトキマっちと戦うんで、よかったらどうすか?」

「うむ、わかった。同行しよう」

 

 トキマっち……?

 俺は、社長と仲が良いのが意外で、お嬢様に訊いてみる。


「あのさ……、シュンさんって、社長と仲良いのか?」

「はい。わたくしを『PASTS』に誘ってくれたのも、兄なんですの」

「へぇー……」


 ということは、お嬢様の家での収入源だったわけか。


「我が家の収入源ですわ」

「えっ……!?」


 お嬢様が言うのかよ。

 ……やっぱり少し辛辣だな。兄妹なのに、仲悪いのか……?


 こうして、模擬戦用施設に移動する俺たち。


「よろしくな! トキマっち!」

「う、うす!」

「トキマさん! 頑張ってくださいませー!」

「トキマ君! 彼を甘くみるなよ! アキレア君を倒したのも彼だ!」

「えっ!?」

「そうでしたの……」


 そうだったのか……

 そりゃ、強いわけだ。


「いわば、『PASTS』最強の社員だね」

「……まあ、実力だけで見るのなら、そうでしょうね」


 二人にここまで言わせるとは……

 ……面白おもしれぇ!


「よろしくお願いします!」

「うん! そんじゃあ行くかんな!」

「は、はい!」


 返事を言い終わった瞬間、俺は腹に四発喰らった。


「がはっ……!」

「……いやー、初見なのにごめんな! でも、あのとき妹を殴ったわけだし、これでチャラな!」

「………………速い……!」


 口調は軽いのに、パンチは重い。

 それにボディって……。

 ……俺、しっかり構えてたよな?


「もしかしたら、スバルさんより強いかもな……」


 そうだ。彼は「PASTS」最強。

 実力はスバルさんクラスなんだ。

 ……俺は気持ちを切り替える。


「よし! 俺も本気で行くぞ!」

「おう! 来い来い!」

「行きます……」


 再び台詞を言い終わった瞬間、胸と両前腕を二発ずつ殴られる。

 計六発だ。

 こりゃあ、もう二、三発喰らえば、まともに腕が上がらなくなりそうだ。

 

 ……それにしても、どんな能力だ?


「初見殺しじゃつまんねーから、解説するわ! おれっちの特殊能力は【倍速クイック】。簡単に言えば、全部を速くする能力だ!」

「ぜ、全部ですか?」

「そう! 足や神経の伝達速度。あと、ちょっち秘密があるんだけど、これは後で話すから! ちなみに、会話の速度は速くならんけどね!」

「は、はぁ……」


 やっぱりノリが軽い……。

 ゾーンには頼らない戦術を見つけようと思ってたけど、またゾーンに入らないといけなくなりそうだ。


「お嬢様!」

「は、はい? 何ですの?」

「刀貸してくれ!」

「もしや、またゾーンに……?」

「トキマ君! やめたまえ!」

「なになに? 強化イベント? いいね! 刀だったら、俺のを貸すよ! 配られたけど、使ってねーから!」


 そう言うとシュンさんは、背中に隠し持っていた刀を投げ渡す。


「あざっす!」

「で、何かすんの?」


 俺は、左手に刀を突き刺した。


「……何やってんだぁ!!」


 シュンさんが怒鳴った。

 俺は少し身体が萎縮する。


「トキマさん! 兄は自傷行為が大っ嫌いなんですの!」

「そうだよ。なんで傷つける? 大切にされることが大切(・・)だって、トキマっちにわからせるしかないな、こりゃ!」


 俺は集中する。

 ……体温が低くなったのを感じた。

 そして、世界が遅くなる。


「見える……けど……、速い……!」


 シュンさんは、ゾーン状態に入っている筈なのに、お嬢様やスバルさんと同じくらいの速さで動く。

 ……何なんだ、この人? 本当に同じ人間か?


 俺は瞬時に後ろにのけ反って、攻撃すると同時に回避する。


「あ……、当たる」


 シュンさんがそう言うと、俺の蹴りがシュンさんの顔面に当たった。


「やるねぇ。久しぶりに喰らったわ。でも、時間差酔いさせっから、関係ねっか!」

「…………時間差酔い?」


 再びシュンさんが移動する。


 ……また普通の速度に見えるぞ?

 どんだけ速いんだよ……。

 こうなったら、またギリギリで避けてやる!

 

 そう決心して攻撃される俺。

 でも、攻撃が当たる瞬間に、何故か動けなくなる(・・・・・・)


「何だ……?」


 一発、二発、三発、四発……。

 やっぱり一瞬で攻撃してたか!

 ……だけどこれって、痛みを感じる時間も遅くなんのかよ。


「ぐっ!」


 俺はダメージを受ける。

 ただ、普通の状態で受けるよりも深刻なダメージを負ってしまう。


「説明はしてやらね! 馬鹿につける薬はねぇからな!」

「くそ……」


 時間差酔いって何なんだ?

 俺はまたシュンさんに攻撃を受け、動けなくなる。


「があああ!!」


 太ももに一発、二発、三発、四発……。

 俺はまともに立てなくなり、転んだ。


「ふっふっふ……、教えてやらねぇかんな!」


 なんで殴られる直前までは動けるのに、途中から動けなくなるんだ……?

 ん? ……殴られる直前(・・・・・・)

 ……そういや、それまでは普通に動けたよな?


 まるで、周りの空気が味方しているかのように……。

 そうか! なんとなくわかったぞ!


「空気も加速する……」

「へぇー、気がついたか。そう、空気も加速対象だ! でも、それだけじゃあ五十点だな!」

「五十点……?」


 空気が加速対象……。

 空気も加速……。時間差酔い……。

 時間差……、空気……、加速……。


 時間差酔いの「酔う」って、何のことだ?

 ……もしかして、感覚麻痺ってことなのか……?


 細胞が混乱する的な感じか。


「わかった。細胞の混乱だ……」

「へへっ、当たり!」


 そう言うとシュンさんは攻撃体勢に移った。


 つーかこれって、シュンさんも似たような感覚なのかな……?

 そんなことを考えていると、俺の方へ向かってくる。


「でも、それがわかったところで、感覚は掴めないぜ!」


 いいや、そうでもない。

 もしも周りの空気も加速対象なら、シュンさんが俺に近づいてきた瞬間に、俺は止まる筈だ。

 ……そうならないってことは、おそらくシュンさんの加速する速度にはブレがある。

 もしくは、加速できる速度に限度があるに違いない。

 それになにより、俺はすんでのところで避けようとしすぎていた。


 多分だけど、加速中はシュンさんも事前に行動を決めているに違いない。

 じゃないと、当てられるわけがないからな。


 俺はシュンさんの攻撃を、事前に避けた。

 しかし、シュンさんは、俺が避けた場所に攻撃してくる。

 

「がはっ!」


 ……そうか! 前提として間違っていた。

 伝達速度が速くなるのなら、思考速度も速くなるんだ!


 つまり、シュンさんは実質、常に超集中ゾーンに入った状態ってことか。

 そりゃあ強いわけだ。


 そして俺は、一発ボディに入れられる。


「い、痛え……」


 俺は軽く吹き飛ばされ、シュンさんは、攻撃の予備動作に入っていた。

 ……このまま追撃する気か!


 こんなの、どうやって勝つんだよ。


 俺は壁に激突しそうになる。

 しかし世界が遅いので、受け身をとって、そのまま蹴りに移行する。


 すると、その蹴りがシュンさんに命中した。


「ぐっ!」


 もしかして壁は動かないから、あまり慣れてないのか?

 ……試してみる価値はあるな!

 俺はわざと吹き飛ばされようと試みる。

 そう、あのときのアキレアみたいに、事前に跳べばいい。

 すべての動きが遅くなってるから、できる筈だ。


 俺は壁に手を当ててから、少し前に反動で跳ねる。

 そしてとにかく攻撃を見切る体勢を取る。


「かなりやり手じゃん? でも、それでも勝つのが、おれっちなんだよね!」


 シュンさんはさらに加速する。

 …………限度があるわけではないのか?

 まあいいや、能力(その)の話は後で聞こう!

 今は勝つ! 勝ってみせる!!


 でも、見切る体勢のおかげか、どう動くのかがわかる。

 俺は軽業を真似て、わざと吹き飛ぶ。


「トキマさん!」

「……大丈夫だ! いまいい所なんだ!」

「やるね。マーガレットが熱を上げるわけだ」


 俺は壁に受け身をとって、一瞬だけ壁を走る。


「すげぇ! 反動を利用してんのか? 初めて見た!」


 そうだ。

 吹き飛ばされたとき、人は衝撃が一方向に傾く。

 それを分散させないでおけば、走れる筈だ。

 もっとも、ゾーンの集中力がないと出来ない神業だがな。


 そして、シュンさんを倒す方法がわかった!

 それは加速だ。

 シュンさんは加速のタイミングをいじってる。


 たぶんシュンさんは、当たる瞬間だけ加速させていない。

 速ければ速いほど、当たった時の反動もでかいだろうからな。

 つまり、本来常時加速済みなら、当たる瞬間に衝撃でシュンさんの骨が粉々になってる。

 

 だからその理屈でいくと、俺に近づいてきた時にすべての細胞が混乱しないのも辻褄が合う。

 加速を止めさせればいいんだ!

 壁に当たる瞬間を狙えばいい。そのときだけは加速していない筈だ。

 そうすれば勝てる!

 ただ、それをしていないということは、かなり能力を使い慣れてるということだ。

 相手もかなりのやり手!


「使い慣れてますね!」

「ふーん、気がついた? この能力が目覚めたころは、よく社長の副業の製品にお世話になっていてね! そのときスカウトされたのさ!」

「そうだったのか」


 社長は見る目があるな。

 だが、勝負には関係ない。


「いきます!」

「来い!」


 ……そういえばこの人、攻めてばかりだな。

 それが弱点なのか?

 …………うーん、たしかにそれは弱点になりうる。

 なりうるが、骨がかなり丈夫な筈だ。あまり関係ないだろう。


「耐久力もあって、攻めるのがうまい。スバルさん以来の強敵だな」

「スバル? 誰だっけ?」

「俺の師匠だ。シュンさんと同じくらい強いぞ!」

「へぇー、会ってみたいな。おれっちより強いヤツには、必ずリベンジして、全部勝ってるからな!」

「そいつはこわいな」

「その顔、勝つつもりか。こわいねぇ」


 右フック、左ストレートの順で繰り出すも、避けられる。

 常時ゾーンってことは、こうなるよな普通……

 でも、それって脳に異常とか出ないのか?

 使い慣れてるし、そういうのは克服してるか!

 なら……


 俺は飛び上がり、シュンさんを足場にする。

 本来なら速すぎてできないんだろうけど、いまの俺はゾーンだからな。

 ん? ……ということはつまり、俺もシュンさんの速度に慣れてきてるってことか。

 なら、見切ろうとすれば、いけるかもしれない!

 俺はシュンさんを踏みつけようとするが、跳ね除けられる。

 

「させねぇよ」


 俺はスタッと着地する。

 そのとき、口角が上がっていた。


「いいツラだな! おれっちも楽しいぞ!」

「そりゃどうも!」


 俺はシュンさんの隙をどうしたら突けるか考える。

 そこで、俺にしかできないことを思いつく。

 ……そうか! これなら……!

 よし、シュンさんを油断させてやる!


「来い!」

「カウンター狙いかな? でもいいぞ! 受けてやる!」


 乗ってきた! チャンスは一度だけだ。

 そして、これが通じなかったら、俺の負けだ。


 突っ込んでくるシュンさんの攻撃を見切り、受けとめる俺。

 ここで、右の拳を左手で包み、視線を誘導する。


「なんだそれ? でも、おれっちの速さなら……! ん? 動けない……?」


 左足で、シュンさんの右足の甲を踏む。

 動かないなら、攻撃は絶対に当たるからな!

 俺は全力で拳を突き出し、ボディブローを狙う。


「しまっ……」

「終わり、だ…………」


 しかし、俺は貧血状態で目眩がして、ボディブローは決まらずに倒れ、気を失った。


「……トキマさん!」

「…………シュン君、どうだったかね? 彼は」

「完全に読まれてた。もし最後のが決まっていたら、おれの負けでした」

「うむ。私もそう思う」

「トキマっち……いや、トキマか。面白いヤツだな」


 この試合の数時間後、俺はベッドで目が覚めた。


「またここかよ……」

「トキマ」

「……あ、シュンさん」

「おれっちは、認めた相手には呼び捨てなんだ。あの試合は、完全におれの負けだった」

「シュンさん……」

「『新・時空自警団』だっけ? 話はマーガレットから聞いたぜ。おれっちも、創立メンバーにしてくんない?」

「……はい! よろこんで!」


 こうして「新・時空自警団」に、新たなメンバーが加わった!

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