第十話 回復のための訓練
小説の書き方というのを、いま一度勉強しました。
これからも頑張って書いていきたいと思います。
気がつくと、また俺はベッドの上にいた。
「気がつきましたの? トキマさんはまた気絶してしまいましたのよ? 少しは自覚していただきたいですわ」
何の自覚だよ……と、俺は思ったが、口にはしなかった。
いや、できなかったのだ。
俺の唇は、貧血と痛みでプルプルと震えて、話すこともままならなかった。
「自業自得ですわね。少しは反省してくださいまし」
心の中で、わかったよ……と、思ったのも束の間。
気がつくと、ベッドの脇に社長とボスが並んで立っていた。
「トキマ君。君は何も学ばないのだね」
どういうことですか? そう思ったが、やはり話せないのでしようがない。
俺はまた、このまま動けないまま過ごすのだろうか。
嫌だなぁ……とも思うが、お嬢様の言う通り自業自得だ。
仕方がない! 受け入れてやろうじゃないか。
そう覚悟すると、いつの間にか怪我が治っていた。
「あれ!? なんでだ? 怪我が治った!」
「トキマ。社長さんは三日前に新しいものを開発したんだよ」
「新しい開発? 一体、何を発明したんですか?」
「うむ。その名も、『治癒力増幅!超強力超絶回復スプレー』だ!」
「社長さん、相変わらずネーミングセンスがないんだね」
「うるさいわい!」
「その『回復スプレー』で、一時間前にプシュっとしたんですわ」
「プシュっと……? その割に、回復するのが遅かったな……」
「意識が回復するまで、効果が出ないみたいなんですの」
「なるほど……、ありがとうございます! 社長!」
「うむ。ただし、これは治癒力の前借りに過ぎん。血液などは回復せん。頼りっぱなしにはならんようにな」
「わかりました! よし、お嬢様! 早速、スパーリングに付き合って……」
「ならん。トキマ君、君は血が作られるまでの時間、訓練禁止だ」
マジか……。でもそれじゃあ、身体を治した意味がないではないか。
「えぇ〜……、どうにかして社長を説得してください! ボス!」
「いや、僕も賛成だ。トキマは身体を大切にね」
「そんなぁ……」
「ふふっ……」
お嬢様がクスクスと笑う。そんなに俺をいじめたいのか。
そう思ったが、俺は諦めて部屋から出る。
「仕方ないな。今回は戒めとして受け入れよう」
でも、それじゃあ何のために起きたのか、わからなくなる。
「あー! 暇だ! 訓練がしたい!!」
「うるさいぞトキマ」
この声は……! と、パッと隣を見ると、スバルさんがいた。
「スバルさん! お久しぶりです!」
「ああ。見舞いに来たのだが、元気そうで安心したぞ」
「でも、訓練できないんですよね……」
「なら、身体を鍛えたらどうなんだ?」
「それが……、そういうのをすると、無性に闘いたくなると言いますか……」
「ははは、お前らしいな」
珍しくスバルさんが笑う。
でも、それどころではない。
「あ、そうだ! 人工血液とかいうので回復すれば……!」
「その権限はマーガレットくんにあるんだがな」
「げっ……! マジですか?」
「直接マーガレットくんに訊いてみろ」
スバルさんがそう言うので、お嬢様の方へ向かう。
「駄目ですわよ?」
後ろから突然声がしたのでドキッとする。
「……な、なんだ。お嬢様か……。びっくりさせるなよ」
「人工血液は、戦闘狂の人には使いませんわ」
「戦闘狂……?」
誰のことだ……? そう思って周りをキョロキョロと見渡す。
「お前しかおらんだろう」
「えっ?」
「そう言うことですわ。もし戦いたければ、わたくしからこのケースを奪ってごらんなさって」
「ケース……?」
「これですわ」
腕を軽く振るお嬢様の右手には、小さなケースがあった。
そして、その中には赤色の液体が入っていた。
「よ、よこせ!」
「【動作予測】、発動ですわ!」
スッ……と避けるお嬢様。
どうやら、お嬢様も本気のようだ。
「こ、こうなったら……! お嬢様がバテるまで付き合って……」
「無駄だぞトキマ。マーガレットくんはわたしとの訓練で、最低限の時間しか動作予測を発動させないよう訓練したからな」
「なに余計なことしてるんですか!」
「ゾーンに入ってはいかがですこと? どうせ無駄ですけどね」
「くそ、勝ち誇りやがって……」
初めてお嬢様を憎む俺。
だけど、お嬢様は俺の身体を思ってのことなのだろう。
「ほら。大切にしてもらえるというのは、ありがたいことなんだよ」
「ぼ、ボス!」
またもや背後から声を掛けられて、ビクッとする。
「ボス! お世話になっております!」
「そう硬くならなくてもいいよ、スバル。それで、トキマはどうだい?」
「相変わらずの訓練馬鹿と言いますか……」
「そうか。トキマ」
「は、はい!」
「こないだの僕の台詞を、忘れちゃ駄目だよ。今も言ったよね? 大切にしてもらえるというのは、ありがたいことなんだよ」
「うぅっ、わかりましたよ……」
「そうかい」
「はい! 大切にしてもらえる人に応えられるよう、全力で訓練します!」
「……君は変わらないね。でも、その変わらない心を、大切にね」
「……はい?」
どういう意味なのかわからないボスの発言に、俺は困惑する。
「じゃあね、トキマ。休むことも訓練だよ」
「いえ、訓練は身体を動かしてこそなので!」
「それじゃあな、トキマ」
「はい! スバルさんもお元気で!」
去っていく二人を見送り、見えなくなるまで頭を下げる俺。
「珍しいですわね。トキマさんが礼儀正しいだなんて」
「そうでもない……ぞ!」
お嬢様を振り向き様に捕まえようと、お嬢様を掴もうとする。
しかし、お嬢様はすぐに身を屈め、俺をかわした。
「ふふふふっ……。もしかして、抱きしめようとしてくれましたの?」
「くっ……、速い!」
成長した動きをするお嬢様に少し心を動かされたが、それはそれ。
俺は悔しくて、頭に血が上る。
「折角の貧血ですのに、勿体なくってよ。トキマさん」
「は?」
「どうせでしたら、超集中……。つまり、ゾーンに入ってみてはいかがでしょう。出来るものならですけど」
そうか! その手があったか!
俺はお嬢様の助言に則って、体温を感じ取る。
「でも、そうはさせませんわよ!」
「何っ!?」
お嬢様が殴りかかってくるので、つい反射で避ける俺。
「くっ……!」
これでは、体温を感じ取れない……!
それどころか、体温が上がってしまう。
一体どうすればいいんだ……。
「体温を下げなければ……!」
そう思いつつ、俺はお嬢様から距離をとる。
そういえば、ここは医療施設だったな。
ということは……! 俺は施設内を走り回り、鋏やメスなどを探す。
だが、そんなものはどこを探しても見当たらない。
「無駄ですわ! 治療のための医療器具は、全て廃棄されたんですの!」
「社長の発明のせいか……!」
「その通りですわ! 諦めて、血の回復をお待ちになってください!」
「嫌だね! それに、お嬢様の助言通りだ!」
「……はて? 何の話ですの?」
「これは超集中に入る訓練だ! 血が回復するまで付き合ってもらうぞ、お嬢様!」
「これは失言でしたわ……」
さっきから、ちょくちょくヒントを出していたがな。
もしかして、お嬢様流の冗談だったのだろうか……?
「こちらも、本気でいきますわ!」
お嬢様はそう言うと、左ポケットに人工血液の入ったケースをしまう。
「俺から見て右側のポケットか」
「さあ、捕まえてごらんなさい!」
「これは強敵だな……!」
俺は気がつくと、口角が上がっていた。
そういえば……と、ふと左手を見る。こっちを刺したんだったっけ。
爪も伸びてる……。そうか! おそらく、『回復スプレー』をかけられたから、爪も伸びたんだな。
……待てよ?
俺はとんでもないことを思いつく。
「ぐっ……!」
「どうかしましたの? トキマさん? なっ……!?」
「いってぇ!」
「何をしていますの!?」
俺は右手の甲に伸びた爪を突き刺し、血を出した。
「さあ、いくぞ! お嬢様!!」
ここからが、俺の本当の戦いの始まりだ。