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セーラー服と雪女Ⅳ 「雪子の第零章」  作者: サナダムシオ


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17/18

チャプター18 国会

 照和54年6月某日。

 雪子は国会の傍聴席に居た。

 何を隠そう、今は修学旅行の途中なのである。


 当時の修学旅行は、3日間常に制服で行動。

 学校指定のジャージ上下をパジャマ代わりに着て、旅館で二泊三日。

 目的地は東京と日光。

 主な見学地は、国会と東照宮と相場が決まっていたのだ。


 移動手段は新幹線またはクラス別の専用バスで。

 私服で体験学習することも無ければ、班別の自由行動も無い。

 東京ディズニーランドは、この世に存在すらしていないのである。


 それらを当たり前のこととして受け入れていたあのころ。

「今年も絶好調ね。我らのヒーローさん。」

 雪子は、たまたま隣の席に座った杉浦に小声で話しかけた。


「やめてくださいよ。あんまりな仕打ちですよ。」

「でもアレ以外に、あの場面を切り抜ける方法は無かったでしょ?」

「村田さんと二人でグルになって…僕は、お口アングリでしたよ。」


「でも、あれっきりクマに遭遇しなくて良かったわね。」

「ホントですよ。二日目のハイキングも、三日目の民芸教室も、また出るんじゃないかってビクビクしてたんですから。」

「死体が無かったから、まだ生きてたようだし…手負いの野獣は怖いものねえ。」

「…。」


「きっと最後にダメ押ししたアナタのこと、恨んでるわよ。」

 雪子はジト目で言う。

「何かあったら、また助けてくださいよ?」

 杉浦もジト目で返す。


「それはまあ、将来の副所長のためだしねえ。」

「…アノ話、本気なんですね?」

「そうよ。私はいつだって本気なの。」

「そう…なんだ。」

「いつでもお返事待ってるから。」


「おいそこ!静かに職員さんの話を聞きなさい。」

 今年も生徒指導の係になった、水野先生に叱られてしまった。

 二人は慌てて口をつぐんだ。


 雪子の「並行宇宙攻略」への道は順調だ。

 まずは精神体…魂とかソウルとか呼び名はどうだっていいのだが。

 とにかく入れ物たる物理的なボディの、中身だけを別の宇宙に飛ばす。

 これで別の時空を観測することは、可能になりそうだ。


 コレは案外簡単そうだった。

 その現象が起こっている時の脳波の記録を残し、同じことを再現できるようにする。

 何しろ実験の証明には、再現性が不可欠だ。

 …まあ、研究結果を外部に発表する気はサラサラ無いのだが。


 次に別の時空の自分に、今の自分の精神体をシンクロする。

 そうすることで、現場での色々な活動が可能になるはずだ。

 精神体だけでは、相手に認識してもらえても、お互い触れあえない。

 …いや、ヘンな意味じゃなくて。


 そして問題は、自分の同位体が見当たらない時空に行く時だ。

 その場合は現場の材料を使って、人工的に物理的なボディを構築し、そこに精神体をシンクロさせなければならない。言わばアバターだ。

 その時空を去る時には、同時にそのボディを破棄しなければならない。


 雪子の理論では、精神体はデータ化して送信できても、物体の送信は、まだまだ難しい領域だった。


「今度、まじめに杉浦君に相談してみなくっちゃね。」

 無意識に小さくつぶやく雪子。

「えっ、何か言った?」

 ひそひそと杉浦君。

「何でもない。何でもない。」

 ほくそ笑む雪子であった。


挿絵(By みてみん)



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