聞こえた声
優花とは、中学のときからの付き合いだ。
明るくて、気が利いて、誰とでもうまくやってて。私はずっと、そんな優花が「強い人」だと思ってた。
だからだと思う。
たまにふと感じる違和感に、目を向けなかったのは。
話を聞くときの優花の目が、笑っていてもどこか遠いとか。
誰かに合わせてばかりで、自分の意見を言わないところとか。
たまに、空気が止まったような沈黙のあとに、急いで笑うようなところとか。
あれが、彼女の「精一杯」だったなんて、あの日まで知らなかった。
「最近、ちょっとしんどくて…」
その一言に、私は言葉を失った。
だって、あの優花が、「弱さ」を見せてくれたのだ。
今まで、絶対に口にしなかったことを。
心臓がどくんと鳴った。
私は、優花の何を見てきたんだろう。
どれだけ、気づかないふりをしていたんだろう。
でも、そんな私の動揺とは裏腹に、優花はすこし肩の力が抜けたような顔をしていた。
その顔を見て、私はやっと、答えることができた。
「話してくれてありがとう。優花にも、そういう気持ちがあるって、知れてよかった。」
この言葉で本当に良かったのか、今でもよくわからない。
でも、たしかにその瞬間、私の中で何かが変わった。
大事な人が、自分の「ほんとう」を見せてくれた。
それを受け止めるということは、私自身も、ただの「いい友達」から、一歩踏み出すことなのだと感じた。
帰り道、優花がいつもより少しゆっくり歩いているのに気づいた。
「今日は、少しだけ寄り道しようか」
そう声をかけたら、「うん」と優花が笑った。
その笑顔は、今まででいちばん「生きている」顔だった。