09. 魔法屋へ納品
「まじで一瞬で戻ってこれたなー」
噴水広場に戻ってきたことがわかった広樹の心情と同じような言葉を晴樹が口にする。
その声が弾んでいることまで似ている。
「ワープスクロールも作れるようになりたいねー」
「プレイヤーに作れるんかなー?」
「そういえば買うしかないアイテムってどのゲームでもあったね。まあこれも聞いてみればわかるね」
広樹と晴樹はさっそくクエスト報告のためにまずは魔法屋から足を運んだ。
「こんにちはー、スライムを狩ってきましたー」
今回も晴樹が気軽に声をかけながらドアを開けて店に入っていく。
「おや、遅かったじゃないか」
アデーレは平坦な声で返してくる。
「途中で薬草採取の依頼も受けちゃったもんで、それで遅くなりました。急ぎの依頼でしたか?」
「いや、そういうわけではない。スライム狩りに手こずりでもしたのかと邪推しただけだ」
「スライム狩りは教わった方法で楽勝でしたよ。ありがとうございます」
これは本当のことだったので、晴樹に続いて広樹もお礼を述べた。
納品はシステム経由でサクッと済ませて報酬を受け取った。
こだわりのあるプレイヤーだと実際に品物を出して、金貨を受け取るという工程をわざわざおこなう場合もあるが、二人は使えるシステムは使えばいいじゃないかという感じで、インベントリ経由で軽く済ませていた。
「それで店主さん、僕もハルと同じように全属性の魔法を売ってもらえますか?」
「アデーレだ」
クエスト詳細にて名前はわかっていたが、まだ本人の口からは聞いていないからと『店主』呼びしてみたが、軽い感じで名前呼びを許可された。
そのまま購買画面が出てきたので、広樹は内容と金額を確認してOKを出した。
「ありがとうございます。あとできれば『ヒール』を買いたいんですけど、いくらになりますか?」
「そうねぇ、坊やたちは聖と光を持っているから1000Gでいいわ」
「持っている属性で何か変わるんですか?」
「ええ。光だけでも聖だけでも足りないものをスキルで補わなければいけないから、複雑な処理が必要なスキルになるのよ。スキル名は同じなんだけどね」
「へえー、そういうのがあるんですねー」
「ちなみに、どちらかの属性しか持っていない場合のヒールっていくらくらいになるんですか?」
「5000Gよ」
「たっか! 全属性まとめ買いしててよかったなヒロ!」
広樹は大きくうなずいた。ゲームの序盤でお金を少ししか持っていない状態でこの金額はきつすぎる。
広樹と晴樹はよかったよかったと言い合いながらヒールを購入した。
雑談のついでに、広樹はふと思いついたことをアデーレに聞いてみることにした。
「失礼な質問でしたら答えなくても構わないのですが、納品したスライムのゼリーと魔石って何に使うんですか?」
「魔力ポーションの材料だね」
「え? 魔力ポーション!?」
魔力ポーションの名前に晴樹が食いついた。
「アデーレさん、魔力ポーション作れるんですか? それってどうやって作るのか教えてもらうことってできますか?」
晴樹は魔法職を選んだ。これからいろいろな魔法を使っていけば絶対に魔力ポーションにはお世話になるだろう。
品切れや個数制限等で欲しいだけ買えない事態は避けたい。
「坊やたちは錬金術が使えるのかい?」
「ヒロです。使えないです」
「ハルです。俺もまだ使えないので、そこから教わりたいです」
「基礎からなら、錬金術の入門書と錬成陣のセットで7000Gだね」
広樹と晴樹がそろってがっくりとうなだれた。
「そんなに持っていません……」
「全然足らないわ。アデーレさん、また稼いできますので、お金が貯まったらここへ買いに来てもいいですか? 売ってくれます?」
「いいだろう。ついでに追加クエストも出してやろうかねぇ。ちょうど今は特に材料不足だからねぇ……」
異邦人が大量に訪れたせいですね。わかりますわかります。ご迷惑をおかけします。
広樹と晴樹の二人は心の中で謝罪した。
クエスト種類:納品クエスト
・スライムゼリー 0/50個
・スライムの魔石 0/50個
・薬草 0/50個
内容:東の平原にいるスライムを狩ってスライムゼリーとスライムの魔石を集めてくる。スライムの色は問わない。同様に薬草も採取してくる。必ず専用ナイフを使って長さも揃えること。
依頼主&納品先:魔法屋 店主 アデーレ
報酬:10000G
スライム狩りも、薬草採取も予備はあるが、どちらにしろこの納品には足りないし、どのみち自分たちでポーション作りをするためには材料がいる。というわけでポーション屋で薬草の納品を済ませてから改めてまた東の平原へと向かうことにした。