73. ラッヘルダンジョン4階
晴樹がログインしてきた。
インベントリを確認していた晴樹が、そういえばと言いながらなにかを取り出した。
「ヒロ、これ、もう確認したか?」
「それなに?」
「例の『迎え火の宝箱』ってやつだ。今日自動開封されてる」
そういえば今日は8月13日だった。完全に忘れてた。広樹は慌てて自分のインベントリを確認した。まさかの焙烙皿にオガラがのったものだった。
説明を読むと、オガラに火をつけると10分間幸運がアップするというものだった。狩りでも生産でも使えるらしい。ドロップ率アップや成功率アップにつながるのだろう。けっこうな数がインベントに入っていた。
Dresserたち生産職組はこのアイテムを持っているのだろうか。そもそも『迎え火の宝箱』は魔物からのランダムドロップだったはずだ。
「ドレッサーさんたちは、この迎え火は持っているんですか?」
「俺らはほとんど狩りをしないから、Judeたちからいくらか買い取ったくらいだな」
「それじゃ、これ100個ほど渡しておきますので、使ってください」
「あ、俺も同じだけ渡しますんで、生産職組で分けてください」
晴樹も便乗した。
「足らなくなったら、また持ってきますのでどんどん使ってくださいね」
「使いきれないくらいあるんで、気にせず使ってください」
念押しするような晴樹の一言に、Dresserたちも折れて受け取ってくれた。
どんどん使ってぜひいい装備を作ってもらいたいものだ。
さて、今日はとりあえず広樹たちも生産作業をおこなうつもりなのだが、例のごとく人にはあまり知られたくないため、生産者ギルドへ行って作業用の個室を借りた。
さすが『高級』とついているだけあって、少ない素材の量で、『高級魔力ポーション』や『HP全回復ポーション(成功率100%)』などができあがった。
使うスライムの色が決まっている『HP全回復ポーション(成功率100%)』を先に作り、残った素材で『高級魔力ポーション』を作っていく。
余った端数の素材は販売システムに登録しておいた。
インベントリがすっきりしたところで、いったん休憩を取り、その後ラッヘルダンジョンの続きを探索していくことにする。
ラッヘルダンジョンの4階は、廃墟が広がっていた。
もともとは屋根に設置されていた怪物をかたどった彫刻で、ガーゴイルと呼ばれていた屋根の雨水を排水する雨樋の役割を持っていたものが、ダンジョン内で魔物化したものが出現する。魔物の名前はそのままガーゴイルだ。
「建物の中に入ったら崩れそうだよね?」
「中にはそういうギミックのある建物もありそうだな」
広樹と晴樹は、セーフティエリアから周囲を見渡して考える。
こういう廃墟も景色としては結構好きな部類だったので、広樹は数枚スクショを撮っておいた。
手元に視線を移す。紙のマップには一応道は書かれている。1本道をたどれば次の階段へとたどり着けるようになっていた。
ただ脇道の存在が気になる。
「んー、ハル、どうする? この道をたどってさっさと階段に行く? それとも妖精に案内されながらあちこち見てまわる?」
「そもそも見るところってあるのか?」
広樹は妖精のクライナーに尋ねてみた。
「ねえクライナー。例えば、このフロアに宝箱があったりする? もしくは行っておいたほうがいい場所とかあるのかな?」
『宝箱はある。訪れる必要がある場所もある』
「そうなの? 行く必要がある場所ってどういうこと?」
『近くまで行くとわかる』
広樹は晴樹のほうを向いた。
「行ってみる?」
「行かないという選択肢はないな」
「だよね。それじゃ、クライナー。案内よろしくね」
『こっち』
クライナーはマップに書かれていた道とは反対の右方向へ広樹たちを誘った。
「スタートから違うんだね」
広樹はちょっと笑って、晴樹と一緒にクライナーについていった。
ガーゴイルがいるのはセーフティエリアからも見えていたので、動向に注意しながら進んでいく。今はまだ屋根に留まっているが、いつ飛んでくるかわからない。
「ニートリヒ、ガーゴイルがくるのがわかったら教えてね」
『わかったー。わかったら教えるー』
晴樹もミリアムとセイに同じように頼む。仕事をもらえなくて拗ねられると困るからだ。
『上からくるよ』
バッと見上げると、ガーゴイルが羽を広げて滑空しようとしているところだった。
「アイススピア」
「ウィンドカッター」
「シャドーエッジ」
魔法でHPを削り、落ちてきたところをサンダースラッシュで切り裂いて終了。
「どの属性でもだいじょうぶそうだね」
その後もときおり襲われたが、落としてスラッシュで片づけていく。
ドロップは『ガーゴイルのコア』だった。生産職組に渡すと、またなにか飛行するものを作り始めるかもしれない。たぶんゴーレムのコアよりはよく飛ぶものができそうな気がする。
宝箱は元は屋敷だったと思われる建物の中に1つ。元宮殿みたいな建物の中に1つあった。中に入っていたのはいずれも『鍵』だった。
肝心の『訪れる必要がある場所』というのは、その元宮殿のような建物の最上階だった。廃墟となる前はどれほどきらびやかだったのか。見てみたかったと思わせるほどに、朽ちてわずかに残るそれですら見事としか言いようがない装飾だった。
『ここで使う』
一つの扉の前でクライナーが告げた。
「なにを?」
『あなたが持っている鍵を』
「ああ、宝箱に入っていたやつね」
『そう』
広樹は元宮殿にあった宝箱に入っている鍵を持っている。
取り出して使うと、扉はゆっくりと開いていった。
「扉の仕掛けはまだ生きてるんだね」
部屋の中は執務室のような雰囲気だった。
なぜかここだけきれいなままだ。本棚に並んでいる本でさえ、きれいに並んでいる。
今度はミリアムが、執務机の横にある本棚の前まで行って留まる。
『ここで使う』
今度は晴樹の番らしい。晴樹は元屋敷で見つけた宝箱に入っていた鍵を持っている。
この部屋の主の屋敷だったのかもしれない。
本棚のすぐ横の壁をよくよく見ると、装飾に紛れて小さな鍵穴があった。ここに使えばいいらしい。
鍵を使うと予想通り本棚が横へスライドして階段が現れる。
3段ほどおりた先には、ボスエリアでよく見かける空間のゆがみがあった。この先はインスタンスエリアになっているらしい。
「ボス戦になるのかな? 二人でいける?」
『戦闘はないわ』
『二人でも問題ない。必要なものは揃っている』
広樹と晴樹は顔を見合わせて頷きあうと、意を決してその先へと足を進めた。




