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夏休みはゲーム三昧  作者: 竪川杼緯


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71. ラッヘルダンジョン2階~3階

 ログインした広樹の左肩に精霊スライムがちょこんと座っていた。

『おかえり、マスター』

「ニートリヒ、ただいま。また分裂したんだね。おめでとう」

『うん。レベルアップした。マスターのおかげ』

「ははは、さっきのスライムとか多かったもんね」

『次はどこ?』

「残りは左右のブレスレットだったよね。んーじゃあ、左のブレスレットにするよ。『体力上昇』ね」

『わかったー』

 やや遅れて晴樹もログインしてきた。

『マスター、おかえり』

「お? セイ? ただいま。――そっかレベルアップしたんだな。おめでとう」

『ありがとう。次はどこ?』

「えーっと、残りはどこだっけ? ああ、ブレスレットか。それじゃ右のブレスレットにするか。セイ、『攻撃力上昇』で頼むわ」

『わかったー』

 準備を終えると、今度は妖精を呼び出す。

 氷姫人形はログインした時点ですでに肩の辺でふよふよ浮いているので、呼び出す必要はない。

 広樹は冒険者ギルドで購入した2階のマップを取り出す。

 妖精がいるので必要ないともいえるのだが、どんな感じになっているのか確認したかったのだ。

「へえ、2階って結構入り組んでる感じ? あ、でもここに草原タイプって書いてあるね。道なりに進まなければそれほど複雑でもない? 道がある理由ってなんだろう?」

「なにかが採取できるポイントでもあるんじゃないか? 点々としたそれらをつなぐとこんな道になるとか?」

「それはありかも」

 広樹たちは妖精に、採取ポイントがあればそこに寄りながら進んでほしいと案内を頼んだ。妖精たちも広樹たちと一緒に紙のマップを覗き込んでいたので、状況はわかっているだろう。

「なにが採取できるのかなー? 楽しみだね」

「スライムのゼリーと魔石が大量に手に入ったから、薬草もあるといいんだけどな」

 妖精の案内に従い道に見えなくもない道を歩いていく。

 多くの人が通ることによって、土が固まってできた道。そういう風に見えても、実際はダンジョンの中の道はダンジョンが作ったものなのだろう。誘導路のようなものか。

 最初に道が分岐しているところに到着した。ここまで魔物にはまったく遭遇していない。

 その場所には『高級薬草』が採取できるポイントとなっていた。

「ここでも『高級』がきたね」

「スライムのドロップだけじゃなかったか」

「これで魔力ポーションを作ったらどうなるんだろうね? 高級魔力ポーションとかになるのかな?」

「あとで試してみようぜ。俺もそろそろ今までの魔力ポーションじゃきつくなってきてるんだよなー」

 結局この2階には魔物はいないようだった。

 『高級薬草』のように草花タイプの素材が採取できるだけだった。

「こういうダンジョンって珍しいよね」

「よくあるパターンだと、魔物を避けたり倒したりしながらって感じだよな」

「そそ」

 いろいろ試せるだけの薬草などが採取できて楽しみが増えた。

 だがこの2階には隠し部屋も宝箱もなかったので、それはちょっと残念に思った二人だった。

 一通りまわり終え、3階への階段までたどり着いたころには、もう夕食の時間になっていた。

「結構時間かかったね」

 広樹は苦笑する。

「収穫はじゅうぶんだったんだから、良しとしようぜ」

「だね」

「じゃあ、続きはまた夜になー」

「うん、またあとで」

 妖精たちにいったん戻ってもらって、忘れずに階段へマップピンを挿してからログアウトする。

 このあたりはもう流れ作業になりつつあった。マップピン挿しはそれだけたくさんやってきたということだ。


 夕飯を食べて、日課の散歩を終え、入浴まで済ませて、あとは寝るだけという状態にしてから、広樹は再びゲームへログインする。

 スマホで連絡を取ってタイミングを合わせているので、同じように準備を終えた晴樹もすぐにログインしてくるだろう。

 紙のマップを取り出して3階の確認をする。

 外周をなぞるように丸い円が描かれ、その中に十字の線が引かれている。

 これは道というより、エリアを分けているようだった。

 右上が森林、右下が湿地、左上が岩石、左下が砂漠エリアと書かれている。

 階段は南から北へと向かえばいいだけなので、あとはどんな魔物がいて、ドロップがなにかということか。

 階段の端に腰かけてマップを見ていると、時々ほかのプレイヤーが横を通って階段をおりていく姿を見かける。そういえばここはマルチエリアだったと思い出す瞬間だ。今まであまり人に会うことがなかったことのほうが不思議だった。なにか配慮があったのだろうか。

「ヒロ、おまたせ」

 晴樹がログインしてきたので、立ち上がってマップの説明をする。

「どうする?」

「そうだなー。ミリアムはどう行くのがいいと思う?」

『あなたが行きたいところへ行くのがいい』

「つまりどこでもいいってことか。まあ一通り経験してみるか」

「階段をおりていくプレイヤーがけっこういたから、人を避けながら、様子を見ていこうか」

「だな。ミリアムもそれで頼むな」

「クライナーもよろしくね」

『だったら、こっちから』

 まずは砂漠エリアから行くようだ。

「ニートリヒ、砂の下にいる魔物もわかる?」

『わかるよー』

「じゃあいつものように印をお願いね」

『わかったー』

 精霊スライムも仕事を振られると心なしか嬉しそうな声をする。だから遠慮せず頑張ってもらうことにした。

「うわー。まじで砂の中にいるんだなー」

 逆三角形の印がまばらに浮かんでいる様子を見て、晴樹が半眼を閉じる。

「これどうやっておびき出せばいいんだ? っていうかなんの魔物? サソリとかかな?」

「砂の中にいると鑑定が効かないんだよねー。とりあえずー、アーススピア」

 一番手前の印に向けて広樹が土属性の魔法を放つ。

 効果はあったようで、HPが1割ほど減った魔物――サンドスコーピオンが砂の中から出てきた。

 ハサミを使って広樹を掴もうと襲い掛かってくる。それを剣でいなして切りつける。

「サンダースラッシュ」

 感電して動きが止まったところへ、晴樹のシャドーエッジが放たれて持ち上げられていた尻尾の先の毒針を切り飛ばす。

「シャドースラッシュ」

「アイススピア」

 広樹と晴樹が、それぞれハサミの付け根を切り落として、サンドスコーピオンは倒れていった。

 ドロップは『サンドスコーピオンのハサミ』と『サンドスコーピオンの毒針』と『サンドスコーピオンの毒液』。

「んー、びみょう?」

「毒液か……。セシルさんとチャドさんって、まだ鞠爆弾作ってるのかな……?」

「一応全部持って行って聞いてみようか。余ったら冒険者ギルドにでも買い取ってもらえばいいよね」

「そうだな。なにを欲しがってるのか、俺らにはわからないからな」


 次に向かったのは湿地エリアだ。

 ところどころ魔物を示す逆三角形の印が固まっているところがある。

 広樹は周囲を見渡す。

「ほかのプレイヤーはいないみたいだよね?」

「そうだな――、だいじょうぶっぽいけど、なにをするつもりなんだ?」

「ちょっとね。ここでチェインライトニングを使ったらどうなるかな、って思って」

「ふむ」

 晴樹は腕を組んで周りを見渡した。

「誰もいそうにないし、いいんじゃないか? 俺も一緒にやってみるよ」

「それじゃ、せーの」

「チェインライトニング!」

 一番近くの塊に魔法を撃ち込むと、ウェトランドフロッグが次々とひっくり返ってぷかりぷかりと浮かんでくる。

 さらになにか魔法を放つべきかと思ったところで、ウェトランドフロッグはそのまま弾けて光の粒子になりながら消えていった。

「数が多いところは弱いのかな?」

「そうかもな。さて、ドロップはなにかな?」

 晴樹はもう深く考えることを放棄したようで、すぐにドロップの確認に入った。

 ドロップは『ウェトランドフロッグの皮』だけだった。

「次に行こうぜー、次ー」


 3番目に向かったのは、森林エリアだった。

 ここは遠くに魔法かスキルのエフェクトがちらちら見えているので、狩りをしているプレイヤーがほかにもいるようだ。

『右からくるよ』

 ニートリヒの声に広樹が反射的に右を見ると、『フォレストフォックス』が2体向かってきていた。

「ウィンドカッター」

 手前のフォレストフォックスの鼻先を狙って魔法を放つ。奥の個体には晴樹がシャドーエッジを撃っていた。

 足が止まっているうちにと、広樹はダッシュで走り寄り、サンダースラッシュで切りつける。

 もう1体が晴樹のほうへ向かおうとしているところを、すれ違いざまダークスラッシュで胴を裂く。

 そのすきを狙って最初の1体が跳びかかってきていたので、広樹は慌てて回避するも、フォレストフォックスは樹木に足をついて反転すると、再度跳びかかってきた。

「バンブースプリト!」

 正面からフォレストフォックスの頭に向かって力いっぱい剣を振り下ろす。

 悲鳴のような高い声を上げて、フォレストフォックスはその場に落ちて倒れた。

 一方の晴樹はアイスチェインズで動きを封じて、アイススピアでとどめを刺していた。

 ドロップは『フォレストフォックスの毛皮』と『フォレストフォックスの牙』、そして『フォレストフォックスの爪』だった。動物系の魔物あるあるだ。特に変わったものはドロップしなかった。


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