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夏休みはゲーム三昧  作者: 竪川杼緯


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70. もう勘弁してください

 男の声に驚いた2体の妖精は、即座にそれぞれの主の髪へと宿った。その部分が新緑色に変わる。

 それを見た5人組の男のうちの一人が呆然とつぶやいた。

「やっぱり妖精の宿り木……」

 男たちがなにかを話しているが、一部の男の声が聞こえない。

 よく見ると、以前同じクランにいて広樹に対して『姫プかよ』と言った男だった。ブロックしたため声が聞こえないようだ。

 最初の男が広樹へと向き直る。

「それをどうやって手に入れた?」

「わかりません」

 広樹は空とぼける。

 バカにされたと思ったのか。一人の男が剣を抜く。ほかの男が止めようとしたが、その男は広樹へと剣先を突き付けた。

「とぼけんな! おとなしく教えろ!」

「ヴィントシュトース!」

 とっさに広樹は突風の魔法を使った。攻撃魔法ではないためフレンドリーファイアはおきないが、逆に言えば攻撃魔法ではないからこそその威力はそのまま伝わり、男は突風で飛ばされて転がった。

 そのすきにGMコールをおこなう。

「GMコール!」

 目の前に現れた小さな光に広樹は言う。

「この人たちに剣を突き付けられて恐喝されました!」

 小さな光は数度明滅すると5人組の男たちと共に消えていき、代わりにシステムメッセージが表示された。


 システムメッセージ(GM AI):プレイヤー名『Noah』『Montague』『Timothy』『けいご』『しょうご』は、一般サーバー規約の違反が認められましたのでPKサーバーへ転送しました。ご報告ありがとうございました。


 広樹はほっと息を吐き出して脱力した。

 その場に座り込むと、インベントリからハンバーガーセットを2つ取り出す。

「ハルも食べようよ。はい」

「――さんきゅー」

 しばらく無言でハンバーガーを口に運んで咀嚼する。

「僕らはさ――」

 遠くを見つめながら広樹がぽつりとつぶやく。

「未成年だってのもあるだろうけど、ゲームだからこうやってコール一つで助けてもらえる。でもリアルじゃこんなことないんだよね……」

「まあ相手次第だろうな」

「うん――」

 最後の一口を頬張る。

「よく『ゲームの中でくらい』っていうけど、それに続く言葉は『楽しく遊びたい』ってのと『思いっきり暴れたい』って2種類あるよね」

「あるな」

「どっちが間違ってるってわけじゃないけど、せっかくこのゲームは住み分けができてるんだから、ちゃんと自分に合ったところへ行ってほしいってつくづく思う」

「そうだな」

「うざったいのはもう勘弁んんん――――!」

 広樹は不満を叫ぶと、残っていた炭酸水をがぶがぶ飲み干した。

 気持ちに折り合いをつけ、そして晴樹に向かってにこりと笑う。

「ごめん、ハル。もうだいじょうぶ」

「そっか」

「うん」

 晴樹も残ったハンバーガーを食べ終え、炭酸水を飲み干す。

「それじゃ、探索の続きに戻るか」

「そだね。クライナー、ミリアム、もう出てきてもいいよ」

 妖精たちを見つめて、広樹は困ったように笑う。

「だって本当にわからないんだよね。妖精にあいつらを認めさせる方法が――」

『怖い人は嫌い』

『壊れた人は嫌い』

「これだもんねー」

 晴樹も笑って同意した。

 のちにGillian(ジリアン)に聞いたところ、PKサーバーには悪魔と妖精の両方がいるそうだ。ちなみに一般サーバーは妖精のみだ。

 彼らはきっと悪魔と契約できているであろう。悪魔には好かれそうだったから。


 探索を再開し、4つ目の行き止まりに来た時に、今度はミリアムが右端によって上下にふよふよと浮き沈みした。

「あ、これって……」

「ミリアムが誘導してるってことは、今度は俺か?」

 先ほどは晴樹が扉を開けたので、今度は広樹が岩のボタンを押した。

 小部屋の中には想像通り宝箱があった。

「セイ。この中に魔物はいるか?」

『いないよ、マスター』

「セイ、ありがとうな」

 宝箱のふたは二人で開けた。

 中には『エントの枝葉』が入っていた。緑色のオーラのような揺らめきに包まれている。

「今度は僕が先に試してみるね」

 広樹がそっと手を伸ばす。オーラのような部分に触れた瞬間、広樹は反射的に手を引っ込めた。

「いっ……つ……」

 こういう感じになるのかと思いながら、広樹は『キュア』をかける。すっと引く痛みに一安心した。

「なるほどね」

「だいじょうぶか、ヒロ?」

「うん、平気」

「んじゃ、次は俺な」

 晴樹が同じように試す。先ほどの広樹のように、このアイテムは晴樹を拒まなかった。

 『エントの枝葉』を取り出した晴樹に、ミリアムが持っているように勧めるので、インベントリへ保管した。

「人を選ぶ理由や、使い道はわからないけど、いつかは役に立つみたいだからよかったな」

「これ二人とも拒否される宝箱もあるのかなー?」

『危ないところには連れていかない』

『案内は得意』

「あるけど、そこには行かないってことか」

『そう』

「なら安心だ」

「だね」

 いろいろ見てまわりたいけど、妖精をもってして危ないところというようなエリアへ行きたいとは思わない。なにせ魔物がいるダンジョンなどは平気で案内するのだから、『危ない』という基準が相当高いことは想像にたやすい。

 最後にたどり着いた中央の広場は、モンスターハウスといえるほど多くのスライムがひしめいていた。

「エンチャントウッド、桜吹雪!」

「桜吹雪!」

 広場の中を覗いた瞬間、広樹はこの魔法しかないと思った。晴樹も便乗する。

 広場の中が文字通り桜吹雪に包まれて、次々とスライムがHPを吹き飛ばして消えていく。

 生き残ったスライムへはもちろんこれだ。

「エンチャントサンダー、チェインライトニング!」

「チェインライトニング!」

 最後に、奥の方にいるスライムは、つむじ風の魔法『ヴィルベルヴィント』でまとめて、『アイスプリズン』で核ごと凍らせて討伐を終えた。

 スライムのゼリーと魔石が大量に手に入って、二人はホクホクだ。

 2階への階段まで転移した二人は、そこでいったんログアウト休憩を挟んだ。


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