65. 生産職組のこだわり
広樹と晴樹はクランハウスへ飛んで生産部屋へ入る。
「ドレッサーさん、こんにちは」
「こんにちは」
生産部屋には生産職組が揃っていた。
「あ、みなさんもこんにちは」
「こんにちはー」
Dresserがこちらを向いて片手を挙げた。
「おぅ、こっちだ」
いつものようにそこには2体のトルソーがおかれていた。広樹用と晴樹用だ。
広樹にはどうしても狩衣を着せたかったらしい。今回は指貫も穿くようだ。単と小袖も用意されている。ただしかなり改造して装飾も過多のため、なんとなく面影がある程度になっている。かっこいいことはかっこいいデザインなので、ありがたく装着する。
Dresserたちはそれを腕を組んで眺めて、自分たちの仕事に満足したように何度もうなずいていた。
「みなさん、ありがとうございました。これ、とってもかっこいですね!」
広樹がお礼を言うと、Dresserは照れたように笑った。
晴樹用は、意外なことにアラビアン風な衣装だった。シャツを着ているので胸元は隠しているし、こちらもファンタジー風にアレンジして装飾過多なため、高貴な感じがしてかなりかっこいい。
「ハル、かっこいいよ」
「――さんきゅー」
広樹が褒めたら、晴樹はちょっと照れていた。
次は武器だ。
広樹の片手剣は見た目は大きく変わっていない。防具に反してこちらはシンプルにまとまっている。実用剣らしさがあった。もっとも見た目装備で刀を設定しているため、こちらの姿を目にすることはほぼないだろう。しかし攻撃力はかなり上がり、性能の向上はたしかだった。
晴樹の杖も、いかにもな長杖だった。飾り気もない。むしろそれがいいといった感じの杖だ。
しかしそこでまた生産職組のこだわりが発揮された。Chadが見た目用のダガーを取り出したのだ。短めで腰帯に挿せばさらにアラビアンっぽくなるだろう。
「ハルは剣を使わないから、見た目だけならこのくらい短くても問題ないだろう?」
もちろん見た目装備なので、衣装に合わせてきらびやかな装飾が施されていた。Cecilもにこにこ笑顔だ。武器担当なので、この二人が協力して製作したのだろう。どちらもいい表情をしている。
「ハル、諦めが肝心だよ」
今回は広樹が晴樹の肩をぽんと叩いた。
晴樹も諦めたように肩を落としてうなずいた。イベントが終われば着せ替えモードも終了かと思っていたが、彼らの製作欲とこだわりは終わりそうになかった。
ドリットダンジョンで拾った、コカトリスのドロップ品の『鶏の羽』と『コカトリスのくちばし』、そしてロックゴーレムのドロップ品の『ロックゴーレムのコア』。ドリッテの北と北西でドロップした『蝙蝠の被膜』と『蛇の牙』。これらを生産職組に買い取ってもらった。使い道のわからない物は、預けておいてあとで金額がわかってから清算してもらうことにした。つまり『ロックゴーレムのコア』のことだ。
装備を受け取った広樹と晴樹は、いよいよ武器のオーバーエンチャントを試すべく生産者ギルドへ向かう。
依頼窓口で武器の強化をおこないたい旨と、『イーデン』を指名したいが可能かどうかを尋ねた。
確認を終えた受付嬢が戻ってくる。
「お待たせしました。2時間ほどお待ちいただければ指名可能となっております。強化依頼料とは別に、指名料が10000Gかかりますがよろしいでしょうか?」
「はい、だいじょうぶです。それでよろしくお願いします」
強化する武器と、強化素材、必要なゴールドを全部預けてチャット札をもらう。
もちろん『祝福の武器強化素材』もすべて渡しているので、オーバーエンチャントを試してほしいと伝えた。
次に冒険者ギルドの資料室へ向かい、ディーターへドリットダンジョンの情報を伝える。
4階のコカトリスは見せてもらった資料の内容と変わらなかったこと。
5階のロックゴーレムとマップについての説明。
6階のキラービーと草花やマップについての説明。
それらを伝えて、お礼チケットを5枚もらって帰ってきた。
ちょうどドリットダンジョンへ向かおうとしたときにCecilからメッセージが入り、『ロックゴーレムのコア』をあと10個ほど欲しいと言われたので、5階へと飛ぶ。
今回は階段を探す必要がないので、道を無視して近い魔物から順に狩っていった。
集まればクランハウスにいるCecilへ届けて、再度ドリットダンジョンに戻る。今度は7階だ。
ドリットダンジョン7階は『オテサーネク』だった。食人木だ。
環境は森というより――。
「なんかジャングルっぽくない?」
精霊スライムに頼んでいつものように魔物に印をつけてもらう。逆三角形の印はちらほらと見えた。
「切り株のオテサーネクとは別になんかいそうだな……。1種類だけじゃないかもしれないから気をつけろよ」
「りょ」
スタンピード前の資料によると、大きく左に寄ってから中央へ戻り、ちょっとだけ右に膨らんでまた左に斜めに進んでいくと階段があった。
ここでは下を見ても、洞窟の形跡のある道は見えない。
「要するに11時の方向ってことだよな。方位磁石って無いのかな?」
「どうだろう? あるとしたら雑貨屋かな? 方位を知る魔法ってあるかなー?」
「どっちも行ってみようぜ」
そしてまたドリッテへ戻って雑貨屋と魔法屋に向かう。
結果として、方位磁石は無く、指定した方向を示す魔法はあった。まんま『コンパス』という魔法だ。スタート地点で1~12時の方向もしくは東西南北を指定すれば、解除するまでその方向を示し続ける魔法だった。解除はそのまま魔法の使用を止める場合のほかに、転移したり、ダンジョンなどで階層を移動した場合には自動で切れるそうだ。まさにほしかったものだ。
広樹も晴樹も購入しておくことにした。そうすれば2方向を知ることができる。
再び7階へ戻って探索の開始だ。これはもう狩りというより探索だろう。
「それじゃ僕が11時の方向を担当するね」
「んじゃ俺は北ね」
同時に『コンパス』の魔法を使う。
広樹が示す光は11時の方向を指し、晴樹の魔法は12時の方向を指した。
「へえ、7階だけかもしれないけど、ちゃんと正面が北なんだな」
「そうだね。これならマップピンを挿したところから続きを始めても、そんなに迷わずに済みそうだね」
「な。これは助かるわ。まじ魔法様様」
「ぷっ、なんだよそれ。魔法様って……」
晴樹の言い様に、広樹は思わず噴き出した。
「いや、たまにはちゃんと感謝しておかないとな」
そう言って晴樹はパンパンと柏手を打った。
『呼んだ?』
「ぅえ!?」
「ハル? どうしたの?」
「ヒロ、おまえもパンパンってしてみ?」
「どうしたの?」
「いいからやってみてくれ」
広樹は首をかしげながらも、晴樹の言うとおりに柏手を打ってみた。すると。
『今呼んだよね?』
「えええー!?」
「やっぱ聞こえたよな? 聞こえただろう?」
「うん、呼んだとかなんとか、声が聞こえた。え? ニートリヒ?」
『ボクじゃないよ、マスター。あれは妖精の声』
「え!? 妖精? どこにいるの?」
『あそこー』
『ここー』
精霊と妖精から返事があって、広樹もプチパニック状態だ。「ちょっと待ってちょっと待って」と言って、深呼吸を始める。
「えっと、お待たせ? それで、どこにいるのかもう少し詳しく教えてもらえるかなー?」
広樹がお願いすると、目の前のジャングルの中から小さな光玉のようなものが近づいてきた。広樹の顔の前までくると、ぴたりと止まる。よく見ると光玉のようなものは、羽の生えた小人が光っているためにそう見えたようだ。
晴樹のところへも別の妖精が現れている。
つまり今ここに2体の妖精がいるということだ。
「君が妖精?」
『そう』
「呼んだとは?」
『手を叩いたでしょ?』
「うん」
『だから』
広樹が横を見ると、晴樹はいつの間にかしゃがんで頭を抱えていた。
広樹は唾を飲み込んだ。
「えーっと、だね。8階への階段まで行きたいんだけど、君たちは道はわかるかな?」
『わかる。案内は得意』
「それじゃ頼んでもいいかな? あと君の名前は?」
『名前は無いわ』
「それじゃ、『クライナー』って呼んでもいいかな?」
『いいわ』
そう妖精――クライナーが返事をした直後、シークレットクエストの画面がポップアップした。
クエスト種類:シークレットクエスト
・妖精と会話する 1/1回
・妖精に名前を付ける 1/1回
内容:妖精に名前を付けて親密度を高めよう。
依頼主:精霊王
報酬:名前を付けた妖精に道案内をしてもらえるようになる。
「ハル」
「なんだ?」
「シークレットが出た」
「ん?」
「妖精に名前を付けたら、シークレットクエストの画面が出た。ハルもその子につけたほうがいいよ」
「まじか」
晴樹は目の前に浮かぶ妖精を改めて見つめた。
「名前、つけていいか?」
『いいわ』
「それじゃあ……『ミリアム』ってのはどうだ?」
『いいわ』
「それじゃ、ミリアム、これからよろしくな」
晴樹のほうにも無事シークレットクエストの達成画面が表示された。




