63. 新たなドリットダンジョン
閉館ぎりぎりまで楽しんだ広樹と晴樹は、帰宅して食事や入浴などを済ませると、ワイスシュトラーゼへログインした。
ドリットダンジョン1階に出るイルリヒト狩りの続きをおこなうためだ。
『祈りの欠片』を少しでも集めておこうと思いつつも、決して焦ることはなく、1体1体倒していく。ただ、だんだんと脳死プレイになっていくのは止められなかった。もっともその甲斐あってこの日のうちに二人の手持ちの合計が100個へ到達した。
「なんとか、たまったな」
晴樹はやや疲れた感じだ。
さすがに昼間ゲームショーではしゃぎ過ぎたかもしれない。
「それじゃこれを錬成してドレッサーさんへ届けに行こうか」
広樹も疲れを感じていたが、早めに渡しておいた方がドレッサーさんたちも役立てやすいだろうと考えた。
「だな。俺らの装備が完成する前だったら使ってもらえるだろうし。ちゃちゃっと渡して落ちようぜ。さすがにリアルで遊び過ぎたわ。下手したらアラートが鳴るかもしれない」
ワイスシュトラーゼはVRゲームのため、心身に疲労や異常などが現れるとアラートが鳴って強制的にログアウトさせられることがある。そうなる前に自らログアウトすることが推奨されていた。
クランハウスの空きスペースを使って錬成をおこなう。
100個を一度に錬成できるかどうかいまいち自信は無かったが、中級錬成陣を取り出して、5つの円の中にそれぞれ20個ずつ置いて錬成をおこなってみたら、無事『光の玉』が完成した。正式名称は『清められた光の玉』となっていたが、そこは見なかったことにした。
さっさとDresserに預けてログアウトする。
ベッドに横になると、すぐに眠りへと落ちていった。
翌日ログインした広樹は、インベントリの中に見覚えのないものが入っていることに気づいた。
アイテム名は『迎え火の宝箱』と『送り火の宝箱』。
公式サイトでイベントの内容を確認すると、『日本のお盆』となっていた。昨日のアップデートで実装されたもので、今後世界の祭り的なものもイベントとして開催されるようになるらしい。例えば『ハロウィン』とか『イースター』とか『中元節』などだ。もちろん『クリスマス』も『正月』もある。
宗教的な理由などでイベントに参加したくない――もしくはできない――プレイヤーは、設定から『不参加』を選択すれば、ドロップアイテムはただの『宝箱』になり、開封後のアイテムもイベントには関係ない図柄のものとなるそうだ。
『迎え火の宝箱』は魔物からランダムにドロップし、8月13日に自動で開封されるらしい。
『送り火の宝箱』も同様で、開封日は8月16日だった。
なにが出るかはシークレットになっている。まさか焙烙皿にオガラがのったものが出てはこないと思うが、であればいったいなにがもらえるのだろうか。
広樹は考えてみたが思いつかなかったので、開封日まで放置することにした。
いろいろ考えていた間に晴樹もログインしてきて、挨拶を交わす。
「今日はどうする? 2階へ行くか?」
もちろんドリットダンジョンのことだ。
「そうだね。僕らの武器や防具が出来上がるまではいけるとこまで行ってみようか。んで、完成したら、王都目指してベヒモスとミノタウロスに挑戦ってところかな?」
「王都への挑戦は、武器の強化もできてからのほうがいいかも」
「そっか。強化があったっけ。んーいいタイミングでイーデンさんがつかまるといいんだけど」
以前は今使っている武器で王都まで行って、そこで新しい武器を製作する予定だったのだが、1つ上の素材が見つかったため、武器を新調してから王都を目指すことにしたのだ。
今後のことも考えて、ここでオーバーエンチャントも試してみるつもりなので、できればイーデンに頼みたい。
「ま、とりあえずはダンジョン行こうぜ」
ドリットダンジョンの2階へ到着した広樹と晴樹は、セーフティエリアを超えて進んでいく。
「2階はなんだっけ?」
ドリットダンジョンで出る魔物についてはざっと名前を見ただけだ。詳しく調べたのは3階のみ。だからあまり覚えていない。
実際に来てみて、イベントで出現した魔物との違いを楽しもうとしている。たまにはこういうのもいいだろう。
索敵範囲に入った魔物の頭上に精霊スライムがつけた逆三角形の印が浮かぶ。
鑑定をおこなうと『サラマンダー』と出た。サンショウウオによく似た姿をしている。腕の長さくらいありそうだ。今はパッシブのため火をまとっていないのか、もしくは火魔法で攻撃してくるのか。いずれにせよ『火』に関係した攻撃はありそうだ。
そっと近づく。
「アーススピア」
攻撃を受けたサラマンダーの体にボッと広がった炎がまといつく。
「シャドーエッジ」
「サンダースラッシュ」
防御の炎だったのかもしれないが、広樹は特に火傷のデバフを受けることなく剣でとどめを刺すことに成功した。
ドロップは『サラマンダーの炎』だった。これは鍛冶師がかまどで使うものらしい。
「俺らには直接は関係なかったな」
「セシルさん行きかな?」
「だな」
3階、もしくは4階への階段を探して歩き、その道行きで遭遇した魔物だけを狩って先へ進む。
4階の魔物は『コカトリス』だった。
広樹たちはいったんセーフティエリアへ戻った。
「コカトリスって石化のやつだよな? キュアで治るかな?」
「これはちょっとまずいかもね。いったん戻ってちゃんと調べてからにしない?」
「やっぱ無策でいくのはダメだな」
二人はこのまま進むのを諦めて一時退避することにした。
今のところイベントで出てきた魔物とは違うものばかりだ。スタンピードであふれてきた魔物という設定だったはずなのにと、以前にも思ったことをまた思い返して広樹たちは苦笑い。
クランハウスへ寄って、Cecilに『サラマンダーの炎』をすべて渡してから、冒険者ギルドにある資料室へと向かう。
カウンターにディーターがいたのでそこへ向かった。
「ディーターさんこんにちは。ドリットダンジョンの4階にいるコカトリスについて詳しい資料ってありますか? 石化の有無や、石化した場合の解除の方法などが知りたいんですが……」
「こんにちは。ドリットダンジョンついては以前お見せした資料に書かれている内容がほとんどなんですよねー」
そう言いつつも手元の端末でなにかを調べているようだった。
「ああ、過去の資料にコカトリスが載っていました」
「過去の資料とは?」
「ドリットダンジョンは、スタンピードが起こると魔物の生態がよく変わるんです。3階だけは固定なんですが……」
ディーターは申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
「つきましては新たに資料を作り直す必要が出まして……。差し支えなければお二人が得た情報を提供していただけませんでしょうか?」
広樹は晴樹と相談してわかる範囲で教えることにした。
1階は資料の通り『イルリヒト』だったこと。
2階は『サラマンダー』で、4階が『コカトリス』。ただしコカトリスは名前を確認しただけで詳細はわからないこと。むしろコカトリスについてこちらが知りたくてここへ来たこと。
「そうでしたか。それでしたらコカトリスに関するものだけお持ちしますので、少々お待ちください」
ディーターは奥の部屋へと入っていった。たぶんあそこに過去の資料が収められているのだろう。
戻ってきたディーターは広樹たちへコカトリスの記述があるページを開いて渡す。
その際に、お礼ですと言って見たことのあるチケットもそれぞれに3枚ずつ渡された。
アイテム名:ディーターのお礼チケット
効果:資料室のディーターへ情報を提供するとお礼に貰えるチケット。知力を1%上昇させる。ほかのチケットと合わせて最大50%までスタック可能。
広樹たちが席について資料を見ていると、ディーターはすでに過去のものとなってしまった資料室の棚に置いてあるドリットダンジョンについての資料本を回収した。そしてカウンターに戻ると新しい資料を作成する作業に入った。




