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夏休みはゲーム三昧  作者: 竪川杼緯


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61. ライトラウペの撚糸

「よっしゃ!」

「やったね!」

 無事にボスを倒すことができて、広樹と晴樹はハイタッチして喜び合った。

「しっかし疲れたなー。ちょっと休憩しようぜ」

 ここの3階では通路には魔物は出ない。出たことはないとされている。なので広樹たちは通路まで戻ってからその場に座り込んだ。

「食事が実装されていたら、ここで取り出すところなんだけどねー」

 広樹が苦笑する。お腹が空いたわけではないのだが、なにかを口にすると疲れが取れた気になることがある。

「そういやぁさっき俺一人で雑貨屋に寄っただろう? その時に見つけたんだよ」

 晴樹が意味深な言葉を発しながらインベントリからなにかを取り出した。

「じゃーん、ハンバーガーセット!」

「えええー!? なにそれ!? そんなの売ってたの!?」

「はははっ、驚くだろー? いやもうまじで俺も驚いたぜ。ポーション以外で、なにか気分的に疲れがとれるもの置いてないか聞いてみたんだよ。そしたらこれ勧められたんだわ」

 広樹の分も買ってきたということで、二人仲良くハンバーガーと炭酸水を飲み食いした。

「おいしい!」

「まじでちゃんとハンバーガーだったわ」

 広樹も晴樹も気分転換できて、先ほどの戦闘の疲れも吹き飛んだ気がする。

 狩りを再開して、また小部屋ごとにいるライトラウペを1~2体ずつ倒しながら時間まで過ごした。

 残り時間が5分の時と、1分の時にアナウンスが入ったので、それに合わせて戦闘を調整することもできた。どういう仕組みかは不明だが、まあゲームだからと思っておこう。初めてのドリットダンジョン3階での狩りは十分な成果をもって終了した。

 冒険者ギルドの前に転移で戻ってきた二人は、まず冒険者ギルドへ行って納品依頼を済ませた。

 オーブリーがいたので話が早く済み、広樹と晴樹がそれぞれ1点ずつ『ライトラウペの撚糸』を納品すると大変喜ばれた。

 報酬は『光玉』1つ。これを『ライトラウペの撚糸』を使った装備を作る際に同時に使用すると、闇属性耐性がつくそうだ。

 次にクランハウスへと向かう。

 いつものようにDresser(ドレッサー)は生産部屋にいた。

 『ライトラウペの撚糸』と『光玉』を渡して装備の依頼をすると、Dresser(ドレッサー)は狂喜乱舞した。

「なんてこった! おまえたちは、ほんと俺の女神だぜ!」

 次々と新しい素材を持ち込む広樹と晴樹は、生産職組にとってはありがたい存在だった。しかも二人は無茶な要求はしないし、過度な見返りも求めない。練習用の素材だって提供してくれる。それによって経験値は爆上がりだ。

 イベント中にDresser(ドレッサー)たちが毎日次々と衣装を作っては二人に提供していたのは、そうした日頃のおこないに感謝していたからだ。『姫プ』などでは決してない。こっそりと女神扱いはされていたとしてもだ。

「今度はどんな装備が希望だ?」

「ドレッサーさんにお任せしますよ」

 十二単を着せられたりもしたが、広樹はDresser(ドレッサー)のセンスを信頼している。

 晴樹もお任せにした。自分たちはあまりそういうセンスは無いからと。

 ゲーム内の衣装は、リアルとは違う。リアルと同じ感覚でいると逆に浮いてしまうことがあるので、こういうのが得意なプレイヤーに任せられるなら任せたい。

「任せろブラザー!」

 Dresser(ドレッサー)は胸を張って請け負った。


 クランハウスを出た広樹と晴樹は、これからどうするか話し合った。

 ドリッテ周辺はとりあえずぐるっと回ってだいたいの状況は把握した。

 ドリットダンジョンはまだ3階だけしか行っていないが、優先度はさして高くない。

 なにか忘れていることはないかと考えて、ふと一つ思い出したことがあった。

「そういえばハル、ゴブリンが3体1組で出現することってまだクラウスさんへ報告してなかったよね?」

「ああ、ホブゴブリンの手前にいたゴブリンか。一応言っておくか? お礼チケット貰えるかもしれないし」

「だよね。僕ら魔法をよく使うから、知力は少しでも上がるほうが助かるもんね」

 他にも資料に載っていなかった情報は無いかと考えた。

「資料には載っていなかったけど、コンラートさんから聞いたホブゴブリンのドロップで幸運を上げる『幸運のネックレス』についてはどうする?」

「まあコンラートさんから聞いた情報だということを伝えたうえで、一緒に報告してみればいいんじゃないかな? あとの判断はクラウスさんがするだろうし」

 結局この2つしか思いつかなかった。それでもいいだろうとネクストタウンへ飛んでクラウスの元へと行く。

 『クラウスのお礼チケット』はそれぞれ2枚ずつもらえ、知力を追加で2%上昇させることができた。


 特に新しい情報もなく、やりたいことも思いつかなかったため、広樹たちは夕食の時間まではドリットダンジョンを1階から順に見てまわることにした。

「あ、その前に、あの『ハンバーガーセット』ってまだ買えるのかな? いくつか確保しておきたいし、ジュードさんたちにも教えてあげたい」

「それはいいな! まだまだ買えたはずだぜ。行ってみようぜ」

 二人は雑貨屋に寄り道して、ハンバーガーセットを20個ずつ購入した。

 他にもなにか扱っていないか確認してみたが、ようやくハンバーガーを1種類だけ製品化できたところだということで、これからの開発次第だということだった。

 ただ広樹たちの食いつきっぷりを知って、売れることに期待が持てるようになったということで、今後は開発が進む可能性が高いとは言ってもらえたのだった。

「それは楽しみだね」

「おぅ、期待しまくりだわ。やっぱりファーストフードだよなー」

「ダンジョン内でも気軽に食べれるもんねー」

「そういえば串焼きも定番だったよな。そのうちこのゲームでも魔物肉の串焼きが売られるようになるかもな」

「それもいいね」

 そんな会話をこっそりと聞いていた住人は、『異邦人』にはそういうものも売れるのかと心の中でメモを取っていたのだった。


 ようやくドリットダンジョンについた広樹と晴樹は、気持ちを切り替えて中へと入っていく。

 資料によれば、1階に出る魔物は『イルリヒト』だそうだ。

 1階には森や湿地があり川が流れている。その川のほとりに出る鬼火だ。

 広樹も晴樹も聖属性に装備を整えて川沿いを進む。

 薄暗い森の中、ゆらりふわりと火が漂う。

「あれかな?」

「あれだな」

 精霊スライムが示す逆三角形の印がその火の上に浮かんでいる。

 アクティブになった魔物はHPバーを。パッシブの魔物は逆三角形の印を。わかりやすくするために今後はこれで統一してもらうように精霊スライムには頼んでおいた。

 いつものように広樹が『ダッシュ』で近づき『スラッシュ』で切りつける。聖属性をエンチャントした剣は、物理攻撃を受け付けないイルリヒトにも効果があった。HPが7割ほど削れている。

 続いた晴樹が『ホーリーレイ』の魔法を放ってとどめを刺した。

 晴樹の白銀の杖は強化をしていないのだが、1階の魔物相手であれば通じるようだ。

 ドロップは『祈りの欠片』だった。

 説明を読むと、『祈りの欠片』を100個集めて錬成すると『光の玉』が1個できるそうだ。あの『ライトラウペの撚糸』を冒険者ギルドに持ち込んでもらった納品依頼の報酬だったものだ。

「これを100個か……。どうするヒロ?」

「撚糸を納品して報酬をもらった方が早いよね……?」

 「でもまあ」と広樹は続けた。

「せっかくだから二人で100個貯まるまでは狩り続けてみない? 自分で錬成したら、また違うものができるかもしれないし」

 もしかしたら高品質のものができるかもしれないということだ。

「それもそうだな。たいして難しい狩りじゃないし、100個ドロップするまでって決めてやるのはいいな」

 とりあえずクランボス開始時間まではイルリヒトを狩って、続きは明日へとまわした。


 夜になってクランボス討伐へと向かった広樹たちを迎えたのは、Dresser(ドレッサー)から渡された女神をイメージしたという白い衣装だった。

「お任せにした装備、だいじょうぶかな……」

 二人はちょっと不安になった。


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