06. 魔法屋
「とりあえず全属性の魔法を使える準備だけしたいんだけど、全部揃えるといくらになりますか?」
晴樹が店主に声をかけながらカウンターへと向かっていくのに、広樹もついていった。広樹も同じものが欲しかったので、店主からの視線を受けて一緒だと示すためにうなずいた。
「全属性だと一人10000ゴールドだね」
「高っ!」
確かに高い。10000Gということはチュートリアルで貰った報酬がすべて消えてしまう。
「負けてもらうことは……」
「無理だね」
「ですよねー……」
晴樹は頭に手を置いて上を向いて考える。広樹は口元にこぶしを当ててやや下を向いて考えた。
晴樹がへらりとした笑みを浮かべながらささやくように「分割払いは……?」と尋ねてみるも、やはりすげなく断られた。
広樹は小さくうなずくと顔を上げて晴樹に向ける。
「今回はハルだけ買いなよ。なにか必要なものが出てきたら僕がお金を立て替えておくから。それでお金が貯まったら、次は僕が魔法を買う。それでどう?」
「ヒロはいいのか?」
「僕はこれがあるからね」
広樹は『これ』といいながら腰に吊るした片手剣をぽんぽんと叩いた。
「サンキュー。んじゃ、そういうことで、店主のおねえさん、俺の分売ってください」
商品やお金の受け渡しは、システムでサクッと済む。
これでようやく狩りに行けるかというところで、広樹はふと店主に尋ねてみた。
「おねえさんすみません。この辺で稼ぎやすい狩場ってどこでしょう?」
「そっちの坊やの杖は氷属性だろう。付与スキルはアイスニードルか?」
「あたりです。見ただけでわかるんですか?」
「氷の気配がしたからな。スキルは勘だ。まあそういうことなら東門を出た先にいるスライムがいいだろう。最初にアイスニードルで攻撃して、剣でとどめを刺せば簡単に倒せるはずだ。ドロップしたスライムゼリーと魔石をこの店に持ってくれば買い取るぞ。色の指定は無しにしてやろう。どうする?」
広樹と晴樹は顔を見合わせると同時に答えた。
「お願いします!」
二人の視界の隅に納品クエストの受領を知らせるシステムウィンドウが映った。
クエスト種類:納品クエスト
・スライムゼリー 0/30個
・スライムの魔石 0/30個
内容:東門を出た先の平原にいるスライムを狩ってスライムゼリーとスライムの魔石を集めてくる。スライムの色は問わない。
依頼主&納品先:魔法屋 店主 アデーレ
報酬:3000G
この報酬が高いのか安いのか。
まだ一度も狩りの経験がない二人にはわからないが、とりあえず初めての戦闘だ。胸を弾ませながら二人は東門へと向かった。
東門を抜けた先でいったん立ち止まった二人はあたりを見渡す。
ほとんどのプレイヤーは冒険者ギルドで登録を済ませると南門へと向かっていたが、東側もそれなりには人がいた。
リリース直後の混雑時のためチャンネル数はかなり用意されているだろうが、どうやらプレイヤー側からはわからないような仕様らしい。
「あー、チャンネルは選べないのかー」
晴樹も同じことを思ったらしい。
「そういえばハルは全属性の開放は終わったの?」
「おう、歩きながらやったぞ」
「全部でいくつあったの?」
「火、水、土、風、木、光、闇、氷、雷、聖、時空の11個っぽい」
「重力はないのかな」
「たぶん闇あたりに統合されてるんじゃないのかな? 回復も聖っぽいし」
「あー確かに言われてみれば回復もあったね。そういえばヒールのスキル、買っておけばよかったね」
「どうせ納品クエストでまた魔法屋に行くんだから、おいおい買い揃えていけばいいんじゃない?」
「そうだね。で、どこで狩る?」
「リリース直後のこの時期に横殴りでいちゃもんつけてくる奴は少ないだろうけど、ドロップするのはどうせラストアタックしたパーティだけだろうから、ちょっと歩くけど、奥のほうへ行ってみるか」
無用な争いを避けるため、二人は他のプレイヤーの狩りを邪魔しないように気をつけながら奥へと進んでいった。