56. トレントのドロップ
クランハウスへ移動した広樹と晴樹は、いつものように生産部屋へ行く。
「セシルさんかチャドさんいますかー?」
扉をノックして、晴樹が声をかける。
中から「入れ」と返事があったので気軽に入室した。ずいぶん慣れてきたものだ。
目的の人物は奥の鍛冶場にいた。
「トレントのドロップ品を持ってきました。ドロップは『トレントの葉』『トレントの枝』『トレントの幹』なんですけど、使えそうですか? 俺の杖が欲しいんですけど……」
Chadがテーブルに近づいてきたので、晴樹はそれぞれを数個ずつ取り出して並べる。
Chadはそれらを順に鑑定していく。
「『トレントの枝』でも作れるけど、こっちの『トレントの幹』のほうが強い武器ができそうだよ。これどれくらい持ってる? んーそうだなー最低5本は欲しいなー」
「あ、これは、俺とヒロの分を合わせてちょうど5本あります。これなかなかドロップしないんですよね」
晴樹は参ったという感じで頭をかいた。
「それなら足りない部分ができたら『トレントの枝』を使う感じでいいか?」
「そうですね……、またこの後も狩りに行くつもりだから、ドロップしたら追加で提供するってことでいいですか? とりあえず今持ってる枝と幹は全部渡しておきますんで。余った分は買い取りが可能なら買い取りでお願いします」
晴樹は手持ちの枝と幹を全部。広樹は幹だけを渡してからまた狩りに戻った。
広樹が提供した幹は、買取価格がわかったらゴールドで返済する予定だ。
「今度は剣も使ってみるね」
広樹はそう言って、片手剣に『エンチャントウィンド』を付与してトレントに向かって駆けていく。
飛んできたトレントの葉は、避けたり、剣で切ったり、『ウィンドシールド』で防いだりしながら本体へとたどり着く。
鞭のように振るわれる枝をすり抜けて、本体である幹へと『スラッシュ』を叩き込んだ。すぐにサイドステップで避けると、入れ替わりで晴樹の『ウィンドカッター』が木こりの斧のように幹に突き刺さる。再び広樹が剣で切りつけるとトレントのHPは0になった。
広樹はゆっくり息を吐き出すと、晴樹へと顔を向けた。
「お、ヒロ、顔ケガしてるぞ。ヒール」
「え? ありがとう。やっぱり葉っぱを全部避けるのは無理だったかー」
広樹は頬を撫でて苦笑する。
けれど今のドロップ品を確認して、すぐにうれしそうな笑みを浮かべた。
「あ、『トレントの幹』が落ちてる」
「まじか!?」
すぐに晴樹も履歴を確認したが、枝と葉しか拾えていなかった。
「うぁあー、俺は無かったわー。ちくしょう」
「本体に物理攻撃したほうが落ちやすいのかなー?」
「可能性は無くはないけど、魔法だけでも倒せるんだから無理しなくてもいいぞ。さっきも一応落ちてたし」
「そうなんだけどね……。んー。やっぱ攻撃を避ける練習にもなるから、しばらく試してみるよ」
「そういうことなら止めはしないけど、無理はするなよ」
「わかった」
広樹は攻撃の仕方や避け方をいろいろ試しながら、夕飯の時間までトレント狩りを続けた。
最終的に『トレントの幹』は、広樹が7本、晴樹が4本となった。
これもとうぜんChadへと預けて、二人はいったんログアウトした。
夕飯や入浴などを済ませて、広樹はログインした。
『マスター、起きた』
「あれ? ニートリヒ? そっか、また分裂したんだ」
『うん。レベルアップした。今度はどこに行く?』
残りはサークレット型の知力上昇と、ブレスレット型の攻撃力上昇・体力上昇だ。
しばらく悩んでいた広樹だが、魔法をよく使うので知力上昇を選択した。
「ニートリヒ、知力上昇のサークレット型でお願い」
『わかったー』
そこでふと広樹は考えた。
今はイベント前に作ってもらった狩衣を着ている。
和装にサークレットってどうなのか。
「ねえ、ニートリヒ。サークレットだけ見えなくすることできるかな?」
『できるよ、マスター。サークレットだけでいい? 全部見えなくすることもできるよ?』
「あ、できるんだ。よかった。じゃあ、ニートリヒ。全部見えなくしてくれる?」
『わかったー』
他にもいろいろクエスト報酬とかのアクセサリーをつけているため、デザインに統一性がないうえに衣装とも合っておらず非常にちぐはぐな状態だ。見えなくできるならそれに越したことはない。クエスト報酬のアクセサリーも非表示にできればいいなと考えてメニュー画面を確認すると、ちゃんと項目があったので、アクセサリーはすべて非表示に設定した。
オンラインゲームでは実装されていることが多いこのシステム。VRでも採用されていて助かった。
見た目用の武器や衣装を身に着けることができるのは、Dresserから課金アイテムを譲られて実際に使ってみたからわかっていた。しかし上書きではなく、見えなくする機能は確認していなかった。もっと早く気づいていればとちょっと後悔した。
時間を確認すると、集合時間まではまだ少し余裕があった。
クランハウスへ向かう前に、いったんスキル屋に寄って『サイドステップ』を購入する。スキルが無くてもサイドステップ自体はできていたが、スキルを使うとバックステップ同様に移動距離が大きくなるのだ。
とりあえずはこんなところで大丈夫だろうと、広樹はクランハウスへと飛んだ。
玄関口に転移した広樹はざっと周囲を見渡した。
目ざとく広樹を見つけたDresserが手招く。
「ドレッサーさん、こんばんは」
「こんばんは、ヒロ。ちょっとこっち来てくれ」
生産部屋に連れていかれた広樹に、当たり前のようにDresserから新しい見た目用の衣装が渡された。
「直衣……ですか?」
直衣はイベントの最終日にも着ていた。どうして同じものを渡されたのかと広樹は困惑する。
「直衣をベースにした衣装だな。前回のとはいろいろ変わってる」
そういってDresserは両手を広げた。つまりDresserが今着ている衣装と同じだということだ。
発言通り以前貰った直衣とは少し違う。なんというか軽くなっているのだ。見ただけでわかるほどなので、着用してみるともっと違いがわかりそうだ。色柄も華やかになっている。前回は全員同じ色で、しかも無地だった。たぶん製作時間が短かったためそこまでこだわれなかったのだろう。
「お揃いのデザインなんですね。ありがとうございます」
たぶんこうなるだろうと思っていたし、イベント中で慣れたので、広樹は素直に受け取って装着した。
以前のものより動きやすくなっている。そう伝えるとDresserは嬉しそうな顔をした。
本来は色柄及びデザインにいろいろな規定はあるだろうが、ここはゲームの世界。ただのお遊び。趣味の領域。なので専門家が見れば小言を言いたくなる部分はあるかもしれないが、その辺はガン無視して好みを優先したようだ。
Dresserの直衣の色柄は『松』。広樹と晴樹は『桜』。Bradleyが『柳』。CecilとChadが『楓』となっているらしい。
そんなことを話しているあいだに晴樹もログインしてきた。
Chadに連れてこられた晴樹も、Dresserから直衣を受け取りすぐに装着する。聞いていたとおりに広樹と同じ桜の柄だった。お揃いだ。
晴樹の左肩に乗っているセイを見て、広樹は晴樹にも非表示にできることを教えた。
「俺もそのシステム忘れてたわ。セイには悪いけど全部非表示になってもらって、アクセも全部非表示に設定するわ。サンキュー、ヒロ」
『マスター、ボク、今度どこ?』
「あー悩むなー。やっぱ防御力が先かなー? よし、チョーカー型で頼むわ」
『わかった、マスター』
セイはチョーカーに姿を変えると、すぐに見えなくなった。
晴樹は首元を触って、持ち上げた両の手の甲や手首を見つめてからうなずいた。
「うん。すっきりしたわ」
落ち着いたところを見計らったのか、たまたまなのか。ちょうどその時Cecilから声がかかった。
「Dresser、ハルヒロ、蹴鞠しようぜ」
Cecilの手にはなにかの革で作られた白い鞠があった。
「もしかして……」
広樹はDresserへ顔を向けた。
「このために直衣を新調したわけじゃ……無いですよね?」
Dresserはそっと顔をそらした。
どうやらそういうことらしい。




