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夏休みはゲーム三昧  作者: 竪川杼緯


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53. イベント最終日

 イベントの最終日も、ボスが出現する夜までは、これまで通り2時間以内で魔物狩りをおこなう。

 イベント2日目以降は広樹と晴樹、およびDresser(ドレッサー)たち生産職組パーティの計7名は常にお揃いの衣装を着ていてそれなりに人目を集めていた。特に最終日の直衣は目立っていたようだ。ファンタジー世界に和物。とうぜんオリジナルデザインだとわかる。冒険者ギルドやイベントエリアの補給基地などでDresser(ドレッサー)たちの元へは製作依頼を希望するプレイヤーが群がった。

 ちなみに生産職組唯一の女性であるAbigail(アビゲイル)も直衣を着ている。どうやら仲間外れを嫌がり、男性と同じものを着ることを選んでいるらしい。期間中ずっと仲間に入ってお揃いの衣装を身に着けていた。

 広樹たちのところへも声をかけてきた人はいたが、その都度製作者はDresser(ドレッサー)たちなのだと言って押し付け――もとい、案内した。

 そしていよいよボスの登場だ。

 サーバー時間20時。広樹たちがいるサーバーはアジアサーバーなので、日本時間に換算すると21時にボス戦が開始となる。

 時差の関係でグローバルゲームはだいたい五つ程度のサーバーエリアに分けられていることが多い。ワイスシュトラーゼもアジア・南アジア・ヨーロッパ・北米・南米の五つに分かれており、設定で個別指定しなければ時差の小さいエリアのサーバーへと自動で振り分けられる。

 またサーバーのエリアをプレイヤーが個別指定する際も、固定のエリアを選択するか、ログイン時にユーザーの多い地域にインするようにエリアを非固定に選択するかを選べる。仕事などの都合で深夜しか遊べないプレイヤーも、これにより活気づいたサーバーで遊ぶことができる。

 一番最初にボス戦が始まるのはアジアサーバーだ。

 クランハウスで改めてパーティとレイドを組んだ広樹たちは、ボス戦の開始に合わせてイベントエリアへと転移した。

 イベントに参加したプレイヤーたちは、ドリットダンジョンと思しき洞窟の前に集められていた。

 広樹はその洞窟を見つめた。

「スタンピードってことはボスはあの洞窟から出てくるわけだよね?」

「たぶん?」

 晴樹もやや自信なさげに答える。

 というのも洞窟がそれほど大きくないからだ。

 もっと大型のボスが出てくると思っていたため、どうにも違和感がある。

 「あ、でも……」と広樹は思い出したことを口にする。

「今日のイベントエリアに湧いていた魔物っていつもよりも大型だったよね」

「たしかに日を追うごとにだんだんと大型になっていっていたな」

「どう見てもあそこから出てきたような大きさには見えなかったということは、なにか仕掛けがあるのかもね」

「たしかに」

 あれこれ考えても仕方がない。ボスが湧けばわかるだろう。

 広樹たちはJude(ジュード)たちと相談して立ち位置を決めた。

 洞窟に向かって右手側に移動する。ボスが洞窟から出てきたとしたら、ボスの左手側になる。

 洞窟の正面は、装備からして攻略組とかトップランカーとか呼ばれている人たちだろう。

 そこでしっかりとボスを受け止めてほしい。そうすれば広樹たちも攻撃しやすくなる。


 時間になり、銅鑼を叩くような音が響く。

 洞窟の出入り口から淡い光がにじみ出るように湧き出してくる。

 光はやがて大きく膨らみ、双頭の動物らしき形をとる。すると光と入れ替わるようにして姿を現したのはオルトロスだった。

「さすがにしょっぱなからドラゴンが出てきたりはしなかったか」

 晴樹が苦笑する。

 出現したオルトロスも、人など軽く丸呑みしてしまえるほどに大きいのだが、イメージ的にはどうしても「ドラゴンよりは弱そう」と思ってしまう。

 それには広樹も同意なのだが、上位勢が攻撃を開始したので、気持ちを入れ替えてボス戦に集中することにした。

「エンチャントサンダー。サンダースラッシュ」

 広樹はまずは後ろ足に駆け寄って攻撃をしてみた。

「うわぁー、ちょっとしか攻撃入ってないや」

「さすが大規模戦用のボスだな。このチャンネルに何百人参加してるんだろう?」

「どうだろ? まあ数百人以上なのはたしかだろうねー」

 広樹は小声でニートリヒに尋ねてみた。

「ニートリヒ。オルトロスの弱点属性ってわかる?」

『ごめんなさいマスター。僕このボスの情報はわからないの』

「え? そうなの?」

『うん。HPバー以外なんにも見えないの』

 晴樹がセイに尋ねても同じ答えだった。

「イベントボスだからかな?」

「かもなー」

 HPバーは1本。それでも討伐にはそれなりの時間がかかりそうだった。

 オルトロスの攻撃は今のところ薙ぎ払いとかみつきだけだ。これが交互に繰り出されている。

 様子見が終わったのか、正面に陣取っている上位勢から大規模魔法が放たれた。上空に浮かんだ光線が五芒星を描くと、オルトロスへ向けて穿つように勢いよく回転しながら落ちてきたのだ。両手で掲げた長杖をなにかを叫びながら振り下ろした女性の姿が見えたので、きっと彼女の魔法なのだろう。王都ラッヘルに行けば買える魔法かもしれない。

 広樹は晴樹たちへと視線を交わすと、木属性のエンチャントを付与した。

「せーの。桜吹雪!」

 レイドメンバー10人で声を揃えて魔法を撃った。

 ほかのプレイヤーからもいろんな魔法やスキルのエフェクトが乱舞し、なんとかボスのHPも1割ほど削れた。

 するとオルトロスの右側の頭が上を向いて大きく吠えた。

 ボスの周囲に影のような暗い渦が生まれ、そこからブルドックにそっくりな魔物――ダークブルドックが30体ほど湧く。

「エンチャントサンダー。チェインライトニング」

「エンチャントダーク。シャドーボール」

「エンチャントダーク。ダークスラッシュ」

「エンチャントウィンド。アローレイン」

「エンチャントサンダー。チェインライトニング」

「アーススピア」

「アーススピア」

「アイススピア」

「アイススピア」

「ウィンドカッター」

 とりあえず魔法を放てとばかりに、近くに出現した配下の魔物に向けて攻撃していく。

 接近されてしまった魔物に対してはTheodore(セオドア)がタゲを取る。とにかく生産職組のところにだけは近づけないようにしなくてはあっという間に死んでしまう。

 ゾンビアタック前提とはいえ、死なないに越したことはない。

「ヒール。リジェネ」

 一応全員が『ヒール』と『リジェネ』は購入しておいたので、各自で対処する。それでも間に合わなくなれば、広樹たちが作って配ったHP全回復ポーションを使ってもらうことになっている。

 配下の魔物がすべて倒されると、今度はオルトロスの左側の頭が上を向いて吠えた。

 また配下を呼んだのかと思ったが、今度は上を向いた口からいくつもの火の玉が吐き出されて周囲にまき散らされた。

「サンダーシールド!」

 広樹と晴樹が同時に叫んで向かってきた火の玉を防ぐ。

 Theodore(セオドア)も盾で防いでおり、こちらのメンバーには大きな被害はなかった。

 ここからまたボスへの直接攻撃に戻る。

「ライトニングストライク」

「シャドーボール。おっ!?」

「ハル? なにかあった?」

「ようやくシャドー系が進化したぞ。『シャドーウォール』と『シャドースコーピオン』ってのが使えるようになったわ」

「名前だけだとわかったようなわからないような魔法だね」

「だな」

 そうは言いながらも晴樹はとても嬉しそうだった。

 さっそく使ってみることにしたようだ。

「シャドースコーピオン!」

 晴樹が力強く魔法名を唱えると、オルトロスのそばに影で作られたような大型のサソリが現れて尻尾の先端にある毒針を突き刺した。

「お! 見ろよ、ヒロ。ボスに毒が入ったぜ。めっちゃ使えるじゃん『シャドースコーピオン』」

 楽しそうに大口を開けて晴樹は笑う。

「ほんとだ。オルトロスって毒耐性低いのかな? にしてもボスを毒らせたのはすごいよね」

「だろぉ。あ、でも、魔力消費すごいわ。さすがに連発は無理だわ」

 そう言って晴樹は魔力ポーションを飲んだ。

 以後は長期戦を考えた配分で魔法を撃っていく。

 広樹は魔法だけでなく、ときおり剣で切りつけにも行く。近接職は後ろ足付近に集まっていることもあり、人が減るなどして空きができた時だけだが。

 そうこうしているとボスのHPもようやく3割を削ることができていた。

 双頭が上を向いてうなってから小さく吠える。すると今度は尻尾が1本にまとまって蛇へと姿を変えた。

 オルトロスの背後から攻撃していたプレイヤーたちをその蛇が襲う。

 どちらかというと戦力の低いプレイヤーが後ろの方に集まって、ボスの後ろ足やお尻に攻撃をしていたため、蛇の攻撃で一気に死に戻りが増えた。

 尻尾の蛇は、かみついた際はもちろんだが、それ以外でも毒液を飛ばしてくるので、距離を取っていても毒にやられる者はいた。

「あの蛇やっかいだなー」

「先に蛇を集中して攻撃かな?」

「まあそうだろうな」

「おっと」

 こちらにも毒液を飛ばしてきたので、晴樹は会話を中断して避けた。

「キュア!」

「サンキューヒロ。避けたつもりだったのになー。まじでこの蛇うぜぇ」

 毒自体もかなり強いようだ。すぐに広樹の『キュア』で解毒したはずなのに、かなりHPが削られていた。晴樹は躊躇せずHP全回復ポーションを服用した。

「ドレッサーさんたちはもう少し離れたほうがいいかも」

 最初は後ろ足近くで戦っていたのだが、蛇の毒を避けるためにやや胴体寄りへと移動することにした。どのみち魔法主体で戦っている現状では、魔法が届く位置であれば極論どこでも構わないだろうといえた。もっともボスの攻撃が届かない範囲でというのは言うまでもないことだ。

 広樹はレイドメンバーを見渡し、毒に侵されているメンバーに『キュア』をかけていった。

 そうやってしばらくは離れた位置から攻撃を続けていたのだが、やはり蛇が非常にやっかいらしく、ゾンビアタックを続けている者もいるが一向に蛇を倒せそうにはなかった。

「んん……、やっぱり蛇を先に倒さないとまずいよねー」

「ボスのHPの減りが少なくなってる気もするし、なんとかして切り落としたいよなー」

 その時オルトロスの上空に、開戦間もないころに見た光線が描く五芒星が現れた。今度は蛇の尻尾の付け根が目標のようだ。高速で回転する五芒星がそこに到達したとき、はじめて蛇が悲鳴のような叫びをあげた。

 弾かれたように広樹とJude(ジュード)が飛び出す。

 晴樹もやや黒ずんだ蛇の付け根に向けて『シャドースコーピオン』を放った。

 広樹は剣に魔法をまとわせるような気持ちで剣を突き出しながら『ライトニングストライク』を撃ち。

「リーパーズサイススラッシュ!」

 Jude(ジュード)は大鎌に闇の鎖を巻きつかせながら振り下ろして蛇の尻尾を本体から断ち切った。


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