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夏休みはゲーム三昧  作者: 竪川杼緯


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52. 目指せ100%

 イベントに参加している時間以外では、広樹と晴樹は薬草の採取とスライムの乱獲に励んでいた。

 そうしてイベントが開始してから6日目。

 彼らは生産者ギルドで生産部屋をレンタルした。クランハウスの生産部屋を使えばただで借りられるが、ほかのプレイヤーにはまだ知られたくなかったため、借りたメンバーしか入れない個室を選択したのだ。

「まずはリータさんに教わった成功率70%のやつからかな?」

「だね。えーっと、まずオーガの角を結晶化して粉砕する――と」

「次は薬研を使ってさらに細かくするんだったな」

「その粉結晶を、緑色のスライムゼリーの重さの半分の量を用意する――と」

「おっと、薬草も粉薬草にするんだったわ。こっちは4分の1の量か」

「これらを水色のスライムの魔石で挟んで調合――と」

「よし! 70%のHP全回復ポーションができた」

 二人はできあがったHP全回復ポーションを鑑定して、まずは教わった通りのものができたことを確認した。

「ここからどう改良していくか、だね」

「定番でいくと、薬草を錬金術でランクアップさせるってやつがあるな」

「ハルは薬草担当ね。僕はスライムの魔石を試してみるよ。せっかく中級の錬成陣を買ったんだし、成功率が上がってるかもしれないからね」

「そういえば中級錬成陣買ってたわ。忘れてた。俺もそれでやってみるわ」

 結果。

「お。『高級薬草』ってのができたわ」

「僕のほうはゴミができたよ」

 晴樹は満足そうに笑い、広樹は眉を寄せた。

「それじゃ俺はこの『高級薬草』を使ってさっきの方法を試してみるわ」

「りょ。その間に僕はこのゴミを片づけるよ」

 生産部屋の隅には台車に乗せられた専用のゴミ箱が用意されている。広樹はそれを台車ごと作業台の近くに移動させた。次に備え付けの専用手袋をはめてからゴミをつかんでその中に捨てる。このゴミ箱は錬金術で作られた特殊なゴミを処理する能力がある。中へゴミをいれてふたを閉めておけばあとは自動で処理されるのだ。

 次はなにをしようかと広樹は考える。

「今度は緑色のスライムゼリーかな?」

 試してみるが、これもゴミができあがった。

「3色混ぜてみるとか……?」

 3色混合で、スライムゼリーとスライムの魔石それぞれを試してみる。

 スライムゼリーはゴミになったが、スライムの魔石のほうは3色に輝く『スライムの魔輝石』というものができた。これをもう一つ作成する。

「ハルのほうはどうだった? 『魔輝石』ってのができたから、今度はこれも使ってみてくれる?」

「『高級薬草』だけだと80%にしかならなかったわ。今度は『高級薬草』とその『スライムの魔輝石』ってやつを使って試してみるか」

「うん、頼むねー」

 晴樹が試しているあいだ、さらになにかないかと広樹は考える。スライムゼリーのなれの果てはもちろんゴミ箱の中だ。

「そういえば……」

 広樹はつぶやき、中級錬成陣を見つめる。

 今は材料だけを錬成して、製作は調合を使っている。

 中級錬成陣の円は5つ。材料は4種類。枠は足りている。

 広樹は『高級薬草』と『スライムの魔輝石』を含めてHP全回復ポーションに必要な材料を揃えて中級錬成陣に載せた。

「錬成」

 予想は的中し、広樹の目の前には成功率100%のHP全回復ポーションができていた。

「できた……」

「こっちもできたわ」

 晴樹のほうも同じように100%のものができたらしい。

 だがこれらは錬金術を併用したものだ。調合のみでこれを作るためにはどうすればいいのか。

「ハル、『高級薬草』を作るのに、薬草何本使ったの?」

「ん? 3本だけど、それがどうかしたのか?」

「いや、うん、調合だけで作るのはどうすればいいかなーって思ってさ。錬成に3倍の量を使ったのなら、例えば粉薬草の量を3倍にして、スライムの魔石の数も3倍にしてから調合したらどうなるかなーって」

「へえ、おもしろそうだな。試してみようぜ」

 いそいそと晴樹が準備を終えて調合する。できたものは。

「残念。75%だわ」

「そう簡単にできるわけなかったね」

「だな」

 リーシャとリータとキアーラとフィオレッラ。この4人の薬師見習いがずっと頑張っているのに100%に届かないのだ。広樹たちがちょこっと挑戦して成功するはずもなかった。

「んじゃ残りは錬金術も併用して100%のHP全回復ポーションの量産に移るか」

「だね。明日はイベント最終日だからボス戦だし、作れるだけ作って持っていこうよ」

 『ヒール』がどの程度使えるかわからない。『リジェネ』を併用したとしても、きっと回復量は不足するだろう。

 広樹と晴樹はレイドメンバー全員が使えるようにと、せっせとHP全回復ポーションを作成していったのだった。


 リータは薬師見習いなので錬金は使えないと言っていたが、錬金術師の協力を得ることができるのなら、またそれを彼女たちがよしとするのなら、なんらかの役に立つだろうと、広樹たちが見つけた100%のHP全回復ポーションのレシピをメモして渡すことにした。

 彼らはドリッテにあるポーション屋を訪ねた。

「すみません、こちらにキアーラさんか、リータさんか、リーシャさんはいますか?」

 さすがにドリッテではリータやリーシャに会えないようだ。キアーラは在席しているということだったので、面識はなかったが、念のため名前を名乗って面会できるかどうか確認してみた。

 応接室へ案内されようとしたが、今はイベント――いや、住人にとってはスタンピードという大事件の最中だ。受付窓口まで出てきたキアーラに簡単に説明してメモだけ渡してポーション屋を出てきた。

「余計なおせっかいだったかもしれないけど、なにかの役に立つといいね」

「だな」

 晴樹は頭の後ろで腕を組んで空を見上げた。

「とりあえず約束は果たしたんだから、俺たちの役目はこれで終わり。あとはイベントを楽しもうぜ」

「そうだねー。あー、明日はなにを着せられるんだろう?」

 Dresser(ドレッサー)たちのテンションは日々上昇している。3日目はおもちゃの兵隊さんのような赤い衣装を着せられた。4日目は海賊ファッション。5日目はウエスタンファッション。そして6日目の今日は、ファンタジー感マシマシに布や宝飾品をふんだんに使ったマントやローブやチュニック等を重ね着したような衣装だった。

 そして翌朝、クランハウスに足を運んだ広樹と晴樹を迎えたのは、最初に戻ったような『直衣』だった。


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