49. オーガを狩りに行こう
少しだけ早めにログインした広樹は、ドリッテの魔法屋に来ていた。
とりあえず考えていた全属性のエンチャントを購入する。
他になにか追加された魔法はないかとリストを見ていく。と、思わず「は?」とつぶやいてしまった魔法があった。
「いかがなさいましたか?」
店員の女性が声をかけてきたついでに、広樹はその魔法について聞いてみることにした。
「あのー、この、『桜吹雪』という魔法なんですけど……」
「はい。そちらは木属性の魔法です。範囲攻撃で、桜の花びらの1枚1枚が相手のHPを5%ずつ削ります。ただしクールタイムが長く、1時間に1度しか使えません」
「持っている武器や、相手の強さに関係なく一律5%なんですか?」
「はい、そうです。ただ、申し訳ございません。ボス種の魔物に対してだけは最大で1枚0.5%までしか削ることができません。これに関しては原因不明となっておりまして、今のところ改善の見込みはございません」
さすがにボスにも適用されるとゲームバランスが崩れ過ぎるからだろうと広樹は納得した。
「わかりました。ではそれももらえますか?」
イベントがどのような形になるのか今はまだ詳細はわからないが、なにかの役に立つこともあるだろうと購入を決めた。
あとは実際にイベントに参加してから考えようと、広樹は待ち合わせ場所である噴水広場へと足を進めたのだった。
噴水広場でパーティメンバーがログインするのを待っている間に、広樹は公式サイトにアクセスしてイベントについてのお知らせを読んでいた。
最初はレベルに関係なく同じエリアで戦うのかと思っていたのだが、どうやらそれぞれの活動エリアで分けられるようだ。イベント最終日のボス戦だけ全レベルのプレイヤーが混ざって協力プレイをすることになるらしい。これならばランカーに魔物すべてを奪われることもないだろう。
ネクストタウンで活動しているプレイヤーは、ネクストタウンで出現するレベルの魔物の相手をし、ドリッテではドリッテ周辺の、王都ラッヘルではラッヘル周辺で出現する魔物を狩るらしい。
広樹たちはドリッテに到着したばかりなのだが、やはりドリッテレベルの魔物を相手にしなくてはならないのだろうか。そのあたりは不明だった。できればイベントエリアでも狩場によって魔物の強さに多少の強弱があればいいなと思う。
そんなことを考えているあいだに晴樹たちがログインしてきた。
パーティを組んでいったんネクストタウンへ戻ってから、オーガが出現する北部エリアへと向かう。
「そういえばオーガについて調べるの忘れてたわ」
向かう途中晴樹がぽつりとこぼす。
「あーそうだった。まあなんとかなるよね。あ、そうそう」
広樹はふと思いついて自身の精霊スライム――ニートリヒに声をかけた。
「ニートリヒ。オーガの弱点とかわかる?」
『目の前で見ればわかると思うよ、マスター』
「じゃあオーガのところに着いたらお願いね」
『わかったー』
広樹とニートリヒのやり取りを聞いた晴樹は、そういえばそうだったと思い出す。精霊スライムは装備しているとほかの装備品と見分けがつかないため、存在を忘れてしまうことがあるのだ。
晴樹も同じように己の精霊スライム――セイに頼んだ。
『マスター、任せて』
返事は相変わらずかわいくて頼もしかった。
そろそろオーガが出現するだろうというエリアに近づいたところで、誰かが言い争う声が聞こえてきた。
「なんだろう? モブの取り合いかな?」
パーティチャットを使って広樹がそっと尋ねる。
全員やや警戒しながら耳を傾けた。状況次第で加勢するか迂回するか考える必要があるからだ。
歩みはそのままで近づいていくと、女性の叫び声が耳に届く。
「ふざけないで!」
「キャハハハ、NPCがえらそうなこと言ってるぜー」
「はいはい、AIおつおつ」
ようやく姿が見えるようになった。聞こえた会話からして、どうやらプレイヤーがNPCに絡んでいるようだ。
そのうえ、「おー、来た来た」という声の主の視線を追えば、多数のオーガを引き連れたプレイヤーが彼らに向かって走ってきていた。見るからに住人にMPKを仕掛けようとしていることが明らかだった。
オーガは巨人とも呼ばれるほどの巨体をしており威圧感は高い。額に角が1本突き出し、爪も鋭い。そんなオーガが何体も迫ってきている。
広樹と晴樹は顔を見合わせ、ついでJudeたちへと顔を向けた。
「どうします? 僕たちは助けようと思ってますけど……」
答えたのはGillianだった。
「もちろん助けるわ。ちゃんと証拠の動画も撮影しているし、スクショも撮ったから、まずはGMコールをしましょう」
Gillianの顔には妖しい笑みが浮かんでいた。かなりお怒りのようだ。
もちろん広樹と晴樹は逆らわずに受け入れた。
「ジリアンさんに任せます」
「任せて。GMコール」
GillianがGMコールを宣言すると、彼女の目の前に小さな光が現れた。
「あそこにいる彼らが住人にMPKを仕掛けています」
小さな光は数度明滅すると迷惑プレイヤーと共に消えていき、代わりにシステムメッセージが表示された。
システムメッセージ(GM AI):プレイヤー名『SnakesTail』『pirate king』『Dark Master』『4p0st1e』『godofdestruction』は、一般サーバー規約の違反が認められましたのでPKサーバーへ転送しました。ご報告ありがとうございました。
Gillianは人差し指を口に当てて「ふふっ」と笑う。
「PKサーバーではMPKも認められているんだから当然の結果よね」
一般サーバーでしかイキれない彼らがPKサーバーでどこまで生き残ることができるのかわからないが、こちらには知ったことではない。ただ彼らのプレイスタイルに合った場所へ移動になっただけのことだ。
これで一安心と思えたのだが、彼らが消えても釣ってこられたオーガは解散することなく住人の女性たちへと襲い掛かろうとしていた。
「ハル」
一言呼びかけるだけで広樹はオーガに向かって走り出した。すぐに晴樹も広樹の後を追う。
広樹は走りながら補助魔法を唱える。
「エンチャントウッド」
オーガの集団へ追いついたところで範囲魔法を放つ。
「桜吹雪!」
買ったばかりの魔法。『桜吹雪』。
広樹が抜いた刀からほとばしるように桜が舞う。
100枚ほどの桜の花びらがオーガを襲った。
続けて。
「エンチャントサンダー。チェインライトニング」
「チェインライトニング」
やや遅れて晴樹も同じ範囲攻撃を撃つ。
Theodoreたちも応援に駆けつけており、すぐに『挑発』を放ってタゲを取ってくれた。
そんな中、広樹の耳にかわいい声が届いた。
『マスター、オーガ、雷と氷に弱いよ』
晴樹のところのセイは。
『マスター、オーガ、氷と闇に弱いよ』
どうやら契約相手が持つ属性で教えてくれるらしい。
「サンダースラッシュ」
広樹はHPの残り少ないオーガを切り捨て、さらに次のオーガへと切りかかる。
「シャドーボール。アーススピア」
「チェインライトニング」
「アローレイン」
「アースインパクト」
範囲攻撃や単体攻撃を織り交ぜて、徐々にオーガは殲滅されていった。
広樹は周囲を見渡して狩り漏れがないか確認してから、住人の女性へ視線を向けた。
「大丈夫ですか? あ、あれ? もしかしてティアナさんとリーシャさんですか?」
「あ」
住人の女性――ティアナにかばわれるように背後にいた少女――リーシャが口元に両手を当てて目を瞠った。
「ヒロさんとハルさん……。どう、あっ、いえ、あり、えっと、助けてくれてありがとうございました!」
「いえ、無事でよかったです。それよりどうしてネクストタウンに? 以前会ったときはファーストの町にいましたよね?」
これに答えたのはティアナだった。
「ドリットダンジョンがスタンピードを起こしたのは知っているかしら?」
「はい。明日からの殲滅戦に参加する予定です」
「それなら話は早いわね。つまりそのスタンピードによって薬草が踏みつぶされないように今のうちに手分けして採取することになって、ファーストの町からも薬師が総出で応援に来ているのよ」
「そういうことでしたか」
「あなたたちはとても丁寧に採取してくれてたからよかったらまた手伝ってもらいたいのだけど……」
ティアナはそう言って広樹たちの後方にいるGillianたちをちらりと見た。
広樹も一度振り返ってパーティメンバーを見てから考え込むように腕を組んだ。
以前のように晴樹と二人だけならすぐにでも了承していたのだが……。
悩む広樹にJudeが声をかけた。
「ブラザーヒロ。大丈夫だ。私たちもずっとオーガを狩るわけじゃない。ドロップがそれなりに集まれば解散すればいい」
「そうだね。それじゃティアナさん。先にオーガを狩りに行くけど、そのあと僕とハルが薬草採取を手伝いますね」
「ありがとう。助かるわ」
そこで広樹と晴樹にだけクエストが発生した。
クエスト種類:納品クエスト
・薬草 0個
内容:専用ナイフを使って丁寧に切りとった薬草を集める。新葉から根元に向かって25cmくらいのところを切りとって長さをそろえること。それより短い丈の薬草には手を出さないこと。モンスタースタンピードで踏みつぶされる前にできるだけたくさん採取しよう。
依頼主:ファーストの町 ポーション屋 薬師 ティアナ
納品先:ドリッテ・ネクストタウン・ファーストの町 いずれかの生産者ギルド
報酬:薬草30束につき6000G




