04. 初クエスト
的に向けて剣と魔法を何度か試した広樹は、やはり最初は片手剣を使うことにした。魔法は補助的に覚えていくことにする。
神殿に行けばいつでも転職できるということだし、あまり考えこまないことにした。
両手剣が使いたくなればいつでも転職すればいいのだと考えれば気が楽になった。
職業を変更すれば、種族によって決まるパラメーターはそのままで、ステータスが武器に合わせて自動で変更されるという。
ただしレベルアップ時に獲得したステータスポイントはリセットされるので、改めてポイントの割り振りをしなくてはならない。これは手動でも自動でもどちらでも可能だ。広樹は自動に設定した。
こうして最後までチュートリアルを終えた広樹に、サディアスからこぶし大の巾着袋が渡された。
「これはアイテムボックスだ。中に片手剣と皮の胸当てとブーツが入っている。他に必要なものがあれば自分で買って揃えていってくれ」
巾着袋を受け取った広樹はアイテムボックスを開いて装備の一括装着を選択する。一瞬で片手剣が腰に吊り下げられ、胸当てとブーツの装着も完了した。アイテムボックスの巾着袋も腰ベルトに括りつけられている。
それからと言ってサディアスはさらに一枚の紙を取り出してサインをしてから広樹に渡した。
「これがチュートリアル修了証明書だ。ギルドの窓口に提出するとクエスト報酬が出る。忘れずに受け取れよ」
「ありがとうございます。お世話になりました」
一礼して窓口に戻った広樹は、受付嬢から修了証明書と引き換えに10000ゴールドを受け取ってギルドの外へと出た。
噴水広場の周辺はいまだにプレイヤーでごった返していた。
どこか人の少ないところへ移動して晴樹に連絡を取ることにして、さてどこにしようかと見回していると、少女が何かにつまづいて転ぶところを目撃してしまう。
広樹は慌てて少女のもとへと駆けて行った。
「どうしましょう!? 私ったらだいじなポーションを壊してしまったわ!」
その途中に少女の叫びが耳に届く。どうやら少女は転んだ拍子に持っていたものを壊してしまったらしい。
「えっと……君、大丈夫?」
座り込んでいる少女に勝手に触れるわけにはいかず、広樹はとりあえず声をかけてみた。
ちらりと少女が見つめる先に視線をやると、割れた瓶の欠片から判断して初級ポーションではないかとあたりをつけた。
ちょっと考えてインベントリを開いてみる。
予想通りリリース記念として初級ポーションが30本入っていた。
(えーっと、割れたのは2本かな?)
広樹は自身が持っている初級ポーションを2本取り出すと、少女の目の前に差し出した。
「これでいいのかな? だいじなものだったんでしょう? これでよかったらどうぞ? 2本で足りる?」
少女はぼんやりと広樹の手の上に乗る初級ポーションを眺め、広樹の顔を見て、また初級ポーションへと視線を戻す。そこでようやく我に返ったようだ。
「え? 本当に貰っていいの?」
「うん、いいよ。困ってるんでしょう?」
「ありがとう!」
ポーションを受け取ろうとした少女は、小さく「あ」と声を上げてワンピースの腰ポケットの中を探り出した。
そこからハンカチで包んでいた一つの小瓶を取り出す。
「よかった、これは割れてなかったわ。このポーションは私が作った試作品なんだけど代わりに貰ってくれる? 試作品だから性能は保証できないんだけど……」
へにゃりと眉を下げて言う少女。広樹はありがたくそれを受け取った。そのほうが少女が負い目に感じずに済むと思ったからだ。
「よかったなリーシャ」
槍を持った兵士が近づいてきて少女に声をかけた。それから広樹に向かって礼を言う。
「私は門番をしているトラヴィスという。君は異邦人だろう? 初対面のリーシャに親切にしてくれてありがとう」
「いえ、たまたま見かけて、たまたま持っていたものを出しただけですから。あ、僕はヒロといいます。困ったときはお互い様なので気にしないでください」
「そうか、なら君も困ったことがあったら遠慮なく私に声をかけてくれ。ちなみにもうファーストの町への登録は済ませたのかな?」
「えっと、冒険者ギルドへの登録なら済ませましたが……」
「ああ、そちらではなくワープポータルの登録だ。そこの噴水に一か所だけ光っている石が埋まっているのが見えるかな? そこに手を触れて登録を済ませると、他の町から瞬時にファーストの町へ移動することも、アイテムを持っていれば平原・森・ダンジョンなどからも一瞬で登録した町へワープすることが可能になるんだ。まだだったら忘れずに登録していくといい。大変便利だぞ」
「それはすごく便利ですね! ありがとうございます! 今から登録してきますのでこれで失礼します」
広樹はトラヴィスとリーシャに軽く頭を下げると、噴水へと向かい、教わった光る石に触れて無事ファーストの町を登録することができた。