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39. ネクタウダンジョン5階

 ネクタウダンジョン5階。

 そこにはダンジョンボスしかいない。

 広樹が階段を見下ろすと、5階フロアの入り口に空間のゆがみのような膜が見えた。

「インスタンスダンジョン……」

 4階まではマルチエリアだったが、5階だけは違うようだ。

 ふと思いついた広樹はこの階段へマップピンを刺そうとした。

「あ、できちゃった」

「どうしたヒロ?」

「この場所にマップピンが刺せたらまたベア狩りに来れるなーって思いついて試してみたら、問題なくピンが刺せたんだよ」

「お。ほんとだ。俺も刺せたわ。これラッキーだな」

「ね」

 二人がわいわいやっているとGillian(ジリアン)がいぶかしげな顔をする。

「ハルヒロはなんの話をしているの?」

 いつの間にか二人の名前を呼ぶときは、『ハルとヒロ』ではなく『ハルヒロ』という二人まとめて一つの名前的な呼ばれ方をするようになっていた。まあいいんだが。

 これは流れ的にまたここで説明することになりそうだ。

 教えること自体はかまわない。

 あとで、という話になると、忘れてしまう可能性もある。

(んー、まあいっか)

 急いでボスを倒さなくてはいけない理由もないしと、広樹はここで話すことにした。

「『マップピン』っていうスキルがあるんですけど、これをマップの任意の場所に刺す――というか、使った場所にピンが刺さる感じなんですけど、それをしておくと、次からはその場所へ『転移』スキルを使って移動できるようになるんですよ。そのスキルがこの場所でも使えたので、次からは4階のベア狩りの際に、1階から順におりてこなくても直で今いるこの場所へ来れるようになったから助かったって話です」

「『マップピン』スキルに『転移』スキル、ね。初めて聞くわ」

「やっぱり」

「どうやって手に入れたかは聞いてもいいのかしら?」

「だいじょうぶですよ。これもクエスト報酬なので。えーっと」

 広樹が話している間にクエストログを調べていた晴樹が説明を引き継ぐ。

「ファーストの町の露店の中にある雑貨屋で売り子をしていたベティーナさんのクエスト報酬だな」

「そうだった。露店の雑貨屋だったね。ハルと、マーキングした場所にワープできたらいいのにって話しながら歩いてたら声をかけられたんだった」

「そうそう。住人のほうから会話に入ってくることもあるんだって驚いたよな」

「へえー。それはぜひ手に入れたいわね。どうせファーストの町には戻らないといけないし、ついでに探してみるわ。二人とも教えてくれてありがとう。今度なにかでお礼をさせて?」

「僕たちからしたら、こうやって一緒にパーティを組んでくれているだけで助かってるんですけどね」

「そそ。野良は事故りそうであまり組みたくなかったから助かってるよ」

「二人とも欲がないのね」

「僕たちにとっては情報料よりも楽しむことのほうがだいじだから」

「そういうこと」

「任せとけ、ブラザー。一緒に楽しくボスを倒そうぜー」

 Jude(ジュード)が明るく口をはさんでこの件はここで終了した。

 言うべきことは伝えた。後は実際にクエストが発生するかどうかだが、その検証は3人に任せるしかない。多少の条件が異なっていても発生しそうだが、そこは試してみないことにはわからないからだ。


 晴樹は杖を白銀のものへと交換する。

 広樹は自分の片手剣を含めて全員の武器にエンチャントホーリーを付与した。武器そのものに聖属性が付与されていてもエンチャントホーリーの重ねがけができたからだ。

 Gillian(ジリアン)は矢じりに聖属性が付与された矢に装備を変えた。

 Theodore(セオドア)は聖属性が付与された盾に交換する。メイスも取り出して背中に装備した。

 Jude(ジュード)もバトルアックスに聖属性が付与されたものと交換し、さらにリストバンドのような装備を取り出して両手首に装着した。

 準備を終えた5人は階段をおりてボス部屋へと入っていった。


 ボス部屋はかなりの広さがあった。

 さすがにこれまで通った1~4階ほどの広さはないが、その4分の1くらいはありそうだ。

 もっとも見えるエリアがすべて戦闘エリアというわけではないだろう。たぶん周囲に安全地帯(安地)――敵のダメージを受けないエリア――があるのではないかと思う。

 逆に言えば安地に逃げ込めなければ大ダメージを受ける可能性があるという意味でもあるのだが。それはさておき。

 中央を見れば、資料にあった通りにデュラハンが馬にまたがった状態で立っていた。

「行くぞ」

 Theodore(セオドア)が一声かけて、デュラハンに向かって走っていく。

 セーフティエリアを抜けたあたりで、馬がいななき、それが戦闘の合図となった。

 デュラハンがランスを突き出しTheodore(セオドア)の盾と衝突する。

 と、同時に残りのメンバーが駆けだし、デュラハンを囲むように配置に着く。

 いつものようにTheodore(セオドア)から見て左手にGillian(ジリアン)。反対側に広樹と晴樹。デュラハンの後方にJude(ジュード)だ。

「挑発!」

 Theodore(セオドア)がスキルを放つと、メンバーそれぞれが攻撃を開始する。

「ダブルショット」

「ホーリースラッシュ」

「スラッシュ」

「アイスニードル」

 序盤はランスの突き出しと、馬の左前脚による蹴りつけの繰り返しから始まった。

 デュラハンに対するダメージは順調に重ねることができ、HPも1割ほど削れたところで、デュラハンの攻撃に新たにランスによる薙ぎ払いが加わる。

 Theodore(セオドア)は盾とメイスを使って、時に攻撃を受け止め、時に受け流し、時に打撃を食らわせたりしていた。

 そうしてHPが5割に達したとき、馬がいななきながら棹立ちになる。

 その直後持ち上げた両前足をTheodore(セオドア)に向けて叩きつけた。

「ガードスタンス」

 Theodore(セオドア)はとっさに防御力を上昇し一時的に自身の周囲にバリアを張るスキルを使った。

 広樹と晴樹は反射的にサンダーシールドを飛ばしそうになったが、すんでのところで抑えることができた。ボス戦に突入前にTheodore(セオドア)からサンダーシールドは広樹たちのために使うようにと言われていたからだ。

Theodore(セオドア)大丈夫か?」

 Jude(ジュード)が声をかける。

「おう、問題ない」

 Theodore(セオドア)が気楽に返して、Jude(ジュード)が楽しげに声を上げる。

「ははは、さすがだぜブラザー」

「ううをおおおお……」

 防がれたデュラハンが苛立たし気にうなり声をあげる。するとデュラハンの周囲に闇の球がいくつも浮かび、後ろに退くデュラハンと入れ違いにその闇球から生まれたアンデッド――ゾンビやスケルトンがパーティへ襲い掛かる。

「挑発」

 アンデッドたちがばらける前にTheodore(セオドア)が自身へとひきつけ一塊にまとめる。

 いまだとばかりに晴樹が魔法を放った。

「スターダストレイ!」

「アローレイン」

 Gillian(ジリアン)が続けて範囲攻撃を放ち、ほとんどの雑魚が片付く。残りの数体は広樹とJude(ジュード)がサクサクっと片づけた。

 これでデュラハンのHPが残り3割となった。

 奥にさがっていたデュラハンがランスを持ち上げ大きな声を発する。

「全員安地にさがれ!」

 Theodore(セオドア)が叫ぶ。

 広樹たちは弾かれたようにバックステップで安地と思われるところまで離れた。

 再び棹立ちになっていた馬が足をおろして勢いよく駆けだし、中央手前でまるで障害物を飛び越えるような感じで体を宙に浮かせる。

「ヒール」

「リジェネ」

 広樹たちがTheodore(セオドア)へ回復魔法を飛ばす。どの程度のダメージがくるかわからなかったための保険でもある。

「バックステップ」

 空中で方向転換はできないだろうと判断したTheodore(セオドア)は、バックステップで安地まで退く。

 スキルを使ってのバックステップは、スキルなしでさがるよりも距離が稼げるのだが、やや距離が足りなかったようだ。着地の際の衝撃でTheodore(セオドア)のHPが4割ほど減る。しかし広樹からのリジェネもあり、なんとか足を止めることなく安地へたどり着いた。

 直後、デュラハンがランスを回転させるように振り回した。

 攻撃範囲はかなり広いようで、安地にいても風圧を感じるほどだった。

「行く」

 一言告げたTheodore(セオドア)が動きを止めたデュラハンに向かって走る。

「カウンターシールド」

 突き出してきたランスを弾き返し、さらに攻撃を加える。

「シールドバッシュ」

 広樹たちも安地から出て攻撃に参加する。

「パワーショット」

「ホーリースラッシュ」

「ホーリーレイ」

「ホーリーレイ」

 デュラハンのHPは残り1割だ。

「ヒール」

 Theodore(セオドア)へヒールを飛ばした晴樹へ、突然デュラハンのランスが突き出された。

「サンダーシールド」

「っ、サンダーシールド!」

 とっさに避けるように移動しながらサンダーシールドを張った晴樹。

 サンダーシールドは指定した位置に出す場合と、指定した対象の前に出す場合とを選択できる。

 広樹も晴樹も普段から対象の前に出すようにしていた。特に広樹は自分の後方にいる晴樹の位置がはっきりと見えていないこともある。対象に付随するようにしていれば、対象が動いてもそれにシールドがついていくのだ。こちらのほうが断然便利である。

 今回も晴樹の前に張られた2枚のサンダーシールドは、晴樹がランスを避けるように斜め後ろに逃げたため、それに合わせてサンダーシールドもついて動いたため中央でランスを受け止めるようなことにはならなかった。しかし距離としては不十分で、サンダーシールドの左半分が砕かれ、晴樹の顔の横をランスが通過し風圧で髪が跳ねた。

「あっぶねー」

 まさにぎりぎりのところだった晴樹は思わず大きく息を吐きだした。

「ハル、だいじょうぶ?」

「おぅ。サンダーシールド、サンキュー」

 広樹はふと思いついたことを試してみることにした。

「ヒール」

 それは晴樹へとヒールを飛ばすことだ。

 思った通り、すぐにデュラハンからランスの突きがくるが、広樹はそれを前転で回避して馬の真下に移動する。そして思い切り片手剣を突き上げた。

「ライトニングストライク! んで、ホーリーレイ!」

 真下から突き抜けたホーリーレイ。デュラハンは一瞬動きをとめた。

 その一瞬を見逃さず、Jude(ジュード)がバトルアックス振り上げてデュラハンに跳びかかる。

「エンチャントウェポン。エンチャントホーリー。アーマークラッシュ!」

 両手首に着けていた装備が破損すると同時に武器へと光が飛んでエンチャントがかかる。これは使い捨てのバフ付与装備だった。

 バフをのせた攻撃スキルがデュラハンが左腕に抱えていたヘルムに直撃し、デュラハンの腕から弾き飛ばす。

「チャージアロー!」

 宙に舞ったヘルムをGillian(ジリアン)が最大までためにためてチャージしたスキルで射る。

 デュラハンのHPが粉砕し、ダンジョンボスは光の粒子となって消えていった。


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