35. ネクタウダンジョン2階
ネクタウダンジョンの2階は洞窟タイプで出現する魔物はスケルトンとゾンビだ。
晴樹は杖を白銀のものに持ち替えて、広樹は武器にエンチャントホーリーを付与する。
「さて、行くか」
「それじゃ僕が先に行くね」
広樹が先に階段をおりて、晴樹がそれに続く。
2階に到着した二人はささっと周囲を見渡す。
「さすがに洞窟の中には白い花は咲いてないみたいだね」
「一応セーフティエリアになってるけど、境目はどこだろう?」
マップを確認しながらゆっくり進んでいくと、ふっと風が変わった気がした。
「ああ、今外に出たな」
「うん、なんか空気が変わったよね」
「これが目安か」
マップを確認してみると、やはりセーフティエリアから出ていた。
「よし確認も終わったし、行くとするか」
「そういえば明かりのことはまったく考えてなかったけど、ちゃんと見えるね」
「そういえば暗視とかも持ってないけど、問題なかったな。資料になにも書かれてないと思いつかないもんだな」
「そうだね。でも戻ったら今後のために暗視スキルがあるのかどうか確認しておいたほうがいいかも」
「たしかにな」
「覚えてたら聞いてみようね」
「覚えてたら、な」
小さく吹き出して、広樹たちは足を進めた。
魔物とはすぐに遭遇することになった。
スケルトンが前方からやってきたのだ。
「まずはお試しで、ホーリーレイ!」
晴樹が新しく覚えた魔法を放つ。
聖属性を強化する杖を持って聖属性の魔法を放つ。これがクリティカルとなったことでスケルトンはバラバラになるようにして砕けて消えていった。
「おお! 1撃で倒せたぞ」
「やっぱりクリティカルが出るかどうかは大きいね」
「だなー。クリティカル率上昇効果がついた装備どっかにないかなー?」
「そのうち手に入るんじゃない?」
「そういえば任務の報酬って武器強化の開放だったよな。そういう効果も付与できるタイプの強化だったらいいんだけどなー」
「まあ解放されてからのお楽しみだね」
「お、次はゾンビだ。よし、次はスターダストレイだ!」
範囲を絞って放つイメージで魔法を使ったのだが、思ったよりも広範囲になってしまったようだ。
ノンアクティブだったゾンビやスケルトンが次々とアクティブ化してこちらに向かってくる。
「やべっ」
「とりあえず近くのやつから倒していくよ!」
慌てる晴樹に、広樹は声をかけながら走り、ゾンビをスラッシュで切りつけた。
エンチャントのかかっている武器でスキルを使って切りつけたためか、そのゾンビはそれで倒すことができたが、すぐに次のゾンビが目の前に迫っていた。
とにかく片手剣で切りつけながら、広樹はざっと周囲を見渡す。
「リンクの範囲がわかりにくいね。――ニートリヒ、範囲攻撃でリンクする魔物がどれなのか印を表示することはできる?」
『うん。できるよ、マスター』
「じゃあお願い」
「セイも同じように頼むわ!」
『わかった、マスター』
晴樹はいったん範囲攻撃を封印して、ホーリーレイを中心に攻撃をしていく。ただそれだけではクールタイム中はなにもできなくなるので、アイスニードルを混ぜてみたりしながら、広樹にヒールも飛ばす。
そんな晴樹へメッセージが届いた。
『Jude:ヘイ、ブラザー、助けは必要ですか?』
晴樹はびっくりして後ろを振り返った。
そこにはちょうどセーフティエリアを抜けたあたりに立っているJudeたちの姿があった。
晴樹はなぜか吹き出すようにして笑った。
「ジュードさん、頼む! 手伝ってくれ!」
晴樹の声が聞こえた広樹も反射的に振り返って目を見開いた。
「ヒロ、パーティを解散するぞ」
「りょ」
すぐさまJudeからパーティ招待が飛んできて、合流を果たす。
同時にJudeのパーティメンバーだった盾を持った大柄な男性が走り寄って、広樹と入れ替わる。
「挑発!」
盾職の挑発スキルによって、アクティブ化していたゾンビたちがいっせいにタゲをその男性へと移す。
広樹はいったんさがって、自身にキュアをかけた。
「ヒロ、かまれたのか?」
それを見た晴樹が慌てて広樹のHPバーを確認する。そこには見落としていた毒マークがあり、ちょうど消えるところだった。
「かまれてはいないんだけど、爪がかすったりしてたからそのせいかも?」
それならば今タゲを持っている盾の人も毒にかかっているかもしれないと二人は彼のHPバーを確認した。そこにはやはり毒のマークがついており、すぐに晴樹がキュアをかける。
「ありがとうー」
キュアをかけた晴樹に礼を言ったのは、盾のTheodore。彼もJudeと同じくアニメ『ヘルダン』に出てくる盾を持った大柄な男性『セオ』にそっくりにキャラクリしていた。短い銀髪に碧眼。日本の創作物でありがちな詰襟黒地の軍服を着ている。
「アローレイン」
ゾンビたちが集まったところへ、弓を持った女性が弓の範囲スキルを放つ。
ちょうどリンク範囲内には魔物はおらず、それを見た晴樹もスターダストレイを放った。
弓の女性――Gillianも、JudeとTheodoreと同じくアニメ『ヘルダン』に出てくる『リアン』という名前の女性キャラそっくりにキャラクリされていた。森の精霊という設定であるリアンは緑の髪と瞳を持つのだが、体は人族の女性と同じサイズなので、ゲームプレイに支障はない。
Judeは変わらず真っ黒の燕尾服にトップハット、くしけずられた深紅の髪がアクセントになっている死神の別名を持つ『ハルヒロ』の姿だ。
この三人はなかなか気合を込めてキャラクリしたようだ。
(この人たちのこだわりがガチすぎてちょっと怖いかも……)
広樹は一瞬遠い目になりかけたが、今は戦闘中だ。慌てて仲間のHPバーを確認してTheodoreにヒールをかけた。晴樹がキュアをかけているので、重複を避けたのだ。
Judeもバトルアックスを持って参戦し、そうこうしているうちにようやくアクティブ化したゾンビたちを一掃することができた。
「ジュードさん、セオドアさん、ジリアンさん、助かりました。ありがとうございます」
「ほんと、助かったわ、ありがとうございました」
広樹と晴樹は三人に向かって頭を下げた。
「ははは、気にしなくていいよ。前回は私が手伝ってもらったんだから」
Judeが気さくに笑いながら広樹の背中をぽんぽんと軽く叩く。
「ところでヒロとハルも任務かい?」
「ええ、そうです。このネクタウダンジョンをクリアしてボスの魔石を納品するという任務で来ています」
「私たちと同じだね。どうかな? このままこのパーティでクリアを目指さないか?」
Judeからの誘いを、広樹と晴樹はありがたく受けることにした。
「助かります。ぜひご一緒させてください」
「オッケー、歓迎するよ、ブラザー」
HPを回復させた一行は、Theodoreを先頭に改めて洞窟を進んでいく。
スケルトンを見つけたTheodoreがスキルを使う。
「挑発!」
挑発スキルは、範囲攻撃と同じ範囲に影響があるようだ。
目の前のスケルトンだけでなく、リンク対象のスケルトンやゾンビがまたもやTheodoreに向かって集まってくる。
「おい、セオドア、これはどうしたことだ?」
Judeが困惑したような声でTheodoreに問う。
「俺もわからない。俺は目の前のスケルトンにだけ挑発をかけたつもりだ」
彼らもこのネクタウダンジョンの2階は初めてらしい。それを確認した広樹は。
「2階は精霊スライムに言って、リンクする魔物がどれだけいるのか確認しながらスキルを使うようにしたほうがいいかも……」
そう当たり前のことを告げたつもりだったのだが、Judeたちは広樹の言葉の意味がわからなかった。
「『精霊スライム』とはなんだ?」
「え?」
戸惑う広樹に変わって、晴樹が答えた。
「エリアボスを倒したときに貰った精霊スライムのことだよ。頼めばリンク範囲をマーキングで知らせてくれるぞ」
「私たちはそんなものは貰ってないぞ」
「そうよ。エリアボスの宝箱からはネクストタウンへの通行許可書しか入ってなかったわよ」
そう答えたのはGillianだ。
だがこんなことを言っている間に魔物たちが集まってきた。
「話は後だ。まずはこいつらを倒して3階への階段を探そう」
「わかった」
全員が了承を返して、とにかくスケルトンとゾンビを集めては倒し、集めては倒しながらようやくセーフティエリアとなっている3階へ向かう階段を発見することができた。