32. 任務
ネクストタウンへと戻ってきた二人は、予定通り冒険者ギルドへと向かった。
念のため掲示板を確認してみると、オーク肉の納品依頼があった。
「ちょうどいいからこれ受けてみる?」
「いいかもね。そういえばどうやって受けるんだっけ?」
「まあ受付で聞いてみればわかるんじゃない?」
そんな調子で、広樹たちは空いている受付へと並んだ。
珍しく男性の受付だった。だから空いていたのかもしれない。
「こんにちは。いらっしゃいませ。こちらは買取依頼のカウンターです。本日はどのようなお品をお持ち込みでしょうか?」
若い男性はまだ着慣れてなさそうなスーツ型の制服姿で、きっとマニュアルのままの言葉を発しているような感じだった。新人かもしれない。
「こんにちは。俺たちはオーク肉の買取をお願いしたいんだけど、掲示板に貼りだしていたオーク肉の納品依頼も同時に受けることはできますか?」
「はい、可能です。納品依頼となりますと、30個単位でのカウントとなります。端数は通常買取価格となりますが、それでよろしいでしょうか?」
「はい、だいじょうぶです」
「それではこちらの台にオーク肉をお出しいただけますか?」
「あ、システム清算でお願いします」
量が多くて台には乗りそうになかったので、いつものようにさっくりとシステムでの依頼にしてもらう。
「かしこまりました」
晴樹が263個で、広樹が261個だ。なので納品依頼はそれぞれ8回分。それと端数分の買取となる。
清算を済ませた二人に受付の男性――コンラートは「ところで」と切り出した。そこでいつものように隔離ステージへと切り替わる。つまりは公開されていない情報だということだ。
「ヒロ様とハル様は任務をお受けになられませんでしょうか?」
そういえばJudeは「クエスト」とは言わずに「任務」と言っていた。このことだろうか?
広樹たちは詳しく話を聞いてみることにした。
「任務とはどういったものでしょうか?」
「はい。任務とは冒険者ギルドへ貢献いただいた冒険者様を対象とした依頼と思っていただければよろしいかと」
掲示板に貼りだされている依頼は、一般に公開している比較的軽いものが多い。そのため誰でも受けることができる。
任務はそれぞれの実績に応じてギルド側がお勧めする依頼のようなものらしい。
ただ掲示板の依頼よりは難易度が高くなるため、それぞれが達成のための工夫が必要になるものが多い。
例えば人を集めてパーティを組んだり、装備を更新したりなどだ。
「ヒロ様とハル様の実績であれば、ネクタウダンジョンのクリアといった任務がございます」
「ダンジョンですか?」
「ネクストタウンの北東にございますダンジョンです。全部で5階層の小さなダンジョンではありますが、最初に挑戦するダンジョンとしては手ごろではないかと」
「そのダンジョンをクリアすることが任務なのか?」
「ダンジョンの最下層にいるダンジョンボスを倒してドロップした魔石を納品することが任務となります」
必要であれば他に人を雇ってフルパーティで挑むのも自由らしい。
要はそのダンジョンボスの魔石さえあればいいということだった。
期限もないらしい。
広樹と晴樹は視線を合わせると、互いに小さくうなずいた。
「お受けします」
ダンジョンがあると聞いて行かないわけがない。
二人はワクワクした気持ちでその任務を受けた。
「それではこれがネクタウダンジョンの入場許可証です」
コンラートにそれぞれチケットのようなものを渡された。これが入場許可証のようだ。
インベントリに収納していれば自動で通行許可がおりて、ダンジョンに入ることができるようになるそうだ。
「こちらの許可証はネクタウダンジョン専用となっておりますので、他のダンジョンでは使えませんのでご注意ください」
「わかりました」
受け取ったチケットをインベントリへ収納するといつものようにシステムウィンドウが表示された。
クエストの種類:メインクエスト:ダンジョンをクリアしよう
・ネクタウダンジョンのクリア 0/1回
・ダンジョンボスを倒す 0/1体
内容:ダンジョンボスを倒してネクタウダンジョンをクリアする。
報酬:攻撃力上昇効果の付いた腕輪1個
クエストの種類:任務:ネクタウダンジョンのクリア
・ネクタウダンジョンのクリア 0/1回
・ダンジョンボスの魔石 0/1個
内容:ダンジョンボスを倒してネクタウダンジョンをクリアする。ドロップしたボスの魔石は冒険者ギルドへ納品する。
報酬:武器強化の開放
そしてまた爆弾が投下された気持ちを味あわされた二人だった。
通常ステージへと戻った二人は、冒険者ギルドの2階へと向かった。資料室にいるクラウスのところだ。
「失礼します。クラウスさんはいますかー?」
いつものカウンターにクラウスはいた。
「ハル様とヒロ様ですね。いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
ここへはネクタウダンジョンについて情報を求めに来た。
どういった魔物が出現し、またどんな攻撃をしてくるのか。そしてダンジョンボスとはどういった魔物で、攻撃力はどの程度なのか。そういったことが知りたいと伝えた。
「かしこまりました。必要な資料をお持ちしますので少々お待ちください」
クラウスはカウンターから出ると近くの棚へと移動した。
そこがネクタウダンジョン関係の資料を収めている場所らしい。
そこからクラウスは数冊の冊子を取り出した。
「こちらがご要望の資料となります。ネクタウダンジョンに出現する階層別の魔物についてがこちら、最下層のダンジョンボスについてがこちらの冊子となります。説明はご必要でしょうか?」
「まずはこちらを読ませてもらいます。わからないことがあればその時にまた質問させてください」
「承知しました」
クラウスは一礼するとカウンターへと戻っていった。
広樹と晴樹の二人は資料に目を通していく。
「1階が草原タイプで、ウルフとラビット」
「2階が洞窟タイプで、スケルトンとゾンビ」
「3階が森林タイプで、ボア」
「4階も森林タイプで、ベア」
「3階と4階は1種類だけなんだね」
「それだけ強いってことなんかな? コンラートさんは小さなダンジョンとは言ってたけど、弱いとは言ってなかったもんなー」
「特徴も他のゲームと特に変わったところはないし、Eランク相当ってことはたぶんだけどオークくらいじゃないかなー?」
「たしかにそのくらいかもな」
「そして5階層がダンジョンボスか。えーっと」
「げ! デュラハン!?」
「うーん……。さすがに二人じゃきついかなー?」
デュラハンの強さはDランクとなっている。さすがボスといったところか。4階までの魔物とはランクが違う。
しかもデュラハンには馬に乗った首なしの騎士といった姿をしている魔物だ。騎馬で突進してこられた場合、盾職のいない2人パーティではどう戦えばいいのか。
ボアのように素直に回避させてもらえるとも思えない。
「野良の募集も気が乗らないよね……」
「だよなー。連携がうまくいくかどうかわからないし。報酬でもめるのも面倒だし」
ネクタウダンジョンのことがどの程度知られているのかわからない。野良を募集するということはこの情報を大っぴらにするということでもあった。