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03. 冒険者ギルド

 一瞬の浮遊感を終えて目を開けた広樹が見たものは、噴水広場を埋め尽くすほどのプレイヤーの姿だった。

 彼らの多くはそばにある建物の中へと消えていく。

(あれが冒険者ギルドか)

 軽く周囲を見渡してみたが、人が多すぎて景色を楽しむことはできず、あきらめて広樹も冒険者ギルドへと向かう。

 全員同じとはいえ、身に着けているものが生成りの上下だけというのはどうも落ち着かない。デザイン的にもなんとなくパジャマを着て外に出ている感じがすると思いながら、シャツの胸元あたりをちょっとつまんで軽く引っ張りため息をこぼす。

 運営の手抜きとも思うが、どうせすぐにそれぞれの職に合わせた装備に着替えるのだから、それも仕方ないかとあきらめた。

 冒険者ギルドの中も当然プレイヤーであふれていた。

 だがすぐに姿が消えていくので、受付カウンターを見ることはできる。

 カウンターの高さは3つにわかれていて、それぞれの種族の身長にあったところへ行けばいいようだ。まあ身長については設定次第なところがあるが。

 結局広樹は外見は本体とほぼ同じで、髪と瞳の色だけ紺色に変えてみた。たぶん金髪や銀髪、白髪や赤毛などは多くの人が設定していそうな気がしたので、少しだけ変えてみたのだ。同様に、赤眼やオッドアイなどといったファンタジーでありがちな色も使っている人が多いような気がしたので、そこは避けてみた。小さなこだわりというやつだ。

 人間種として平均的な身長の範囲に収まっている広樹は、真ん中の高さのカウンターへと並んだ。

「冒険者登録をお願いします」

 声をかけた瞬間、別の空間に隔離されたようだ。周りにいたプレイヤーの姿が消えて、広樹とギルドの受付嬢と二人だけになる。

 ほわほわとでもいうのだろうか。柔らかなウェーブのかかった金髪の受付嬢は広樹の緊張をほぐすように優しく微笑む。

「新規のご登録ですね。それではこちらの板に手をのせてください」

 カウンターの上に設置された何かよくわからない板の上に左手をのせると、その板の表面が二度淡く点滅して消えた。

「はい。登録は完了しましたので、もう手を下ろしていただいて大丈夫ですよ。ありがとうございます」

 受付嬢はテーブルの下から一枚のカードを取り出して広樹に渡した。

「こちらが冒険者カードです。無くさないようにインベントリに保管をお願いします」

 キャラクター名と種族はキャラクタークリエイトの際に設定を済ませているので、そのままカードに記載されていた。

 それ以外の記載はなかったが。

「冒険者カードをインベントリに保管しますと、ステータスの閲覧が可能になります。音声でも思念でもかまいませんので、『ステータス』と唱えてみてください」

 言われたとおりに、声には出さずに頭の中で『ステータス』を唱えてみる。すると目の前に半透明のウィンドウが現れた。

「どうですか? ステータスウィンドウは現れましたか?」

「え? あ、これは僕にしか見えないのですか?」

「はい、そうです。一時的に許可を出せば対象者にだけ見せることも可能ですが、基本は本人にしか見えません」

「カードには名前と種族しか書かれていませんが、ランクのようなものは無いのですか?」

「依頼書には難易度がわかりやすいようにランク分けしておりますが、冒険者にはランクは設けておりません。ギルド側では実績に応じて分類分けはしておりますが、一概にランクという形での評価はあまりあてにならないだろうという考えで採用されておりません」

 なるほど、と広樹は思う。

 ソロでランクを上げてきた者と、パーティでランクを上げてきた者。個人で見た場合、同じランクでも戦力として考えた場合、果たして同じと考えていいものかどうか、といった感じなのだろう。たぶん。自信はないけど。

「わかりました。ありがとうございます」

 お礼を言って広樹は、受付嬢の案内に従ってチュートリアルを受けるために裏庭へと向かった。


 ギルドの裏庭にはいろんな武器が置かれていた。

 教官役と思われる筋骨隆々な男性が一人。

「ようこそ冒険者ギルドへ。私は冒険者のサディアス。職業の選択の手伝いをしている。さあ好きな武器を選んでくれ。好きなように試してもらって構わない。あそこにある的も好きに使ってくれ」

「僕はヒロです。よろしくお願いします」

 広樹はとりあえず片手剣のある場所へ移動した。

 一つ一つ手にしてみる。いろんな長さがあり、重さがあった。

 ついでに両手剣のところにも行って、同じように手にしていった。

(重いな……)

 もう一度片手剣のところへと行って、いくつか軽く振ってみた。

(このあたりかな?)

 なんとなくしっくりきた片手剣を持ったまま、広樹は振り返ってサディアスを見る。

「この片手剣を装備した状態でも魔法って使えますか?」

「魔法は杖に付与されたものを使う場合と、魔法屋で買う場合がある。杖持ちも他の系統の魔法が使いたい場合は同じように魔法屋で魔法を買う。杖に付与された魔法と同じ系統の魔法を買えば、魔法の威力を上げることができる。もっともファーストの町には初級の魔法くらいしか扱っていない。このあたりの魔物を倒すにはそれで十分だからな」

 サディアスはそう言って大口を開けて笑った。

「そういうわけで、魔法さえ買えば片手剣使いでも問題なく魔法を使えるぞ。杖持ちとの違いは魔法の威力だけだ」

「スキルはどうすれば手に入りますか?」

「初歩のスキルは魔法なら魔法屋で売っているし、それ以外の武器であればスキル屋で買える。それ以降のスキルは経験を積めばそれに応じて解放される。もしくは次の町や王都まで行って買うかだな。剣のスキルも、魔法のスキルも同じだ」

「そうなんですね、ありがとうございます」

「とりあえず的に向かってその剣を振ってみろ。魔法の感覚がつかみたければ今はそこの杖を使うしかないけどな」

 サディアスはおどけるように肩をすくめて笑い、広樹は苦笑しながら軽くうなずいて的へと向かった。


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