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夏休みはゲーム三昧  作者: 竪川杼緯


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24. 武器屋

 ホルツの前で晴樹と別れた広樹は、金属武器を扱っている武器屋へと向かった。

 店の前にはいくつかの樽が置いてあり、その中に無造作に長剣が入れられていた。

「やっぱり剣を使う人が多いのかな?」

 ざっと鑑定してみたが、こういう扱いをされている剣らしい質のものしか入ってなかった。

「どんな人が買っていくんだろう?」

「質より量を求める方々ですね」

 独り言に答えが返ってくると思っていなかった広樹は驚いて声がしたほうへとバッと体を向けた。

「あ、驚かせたようですみません」

 落ち着かせるようにか、両の手のひらをこちらへ向けて軽く左右に振りながら店員らしき少女が謝ってきた。

「僕のほうこそ失礼しました」

 店先でこんな態度を取っていたら失礼だろうと、広樹も軽く頭を下げて謝罪した。

 少女は軽く首を振ると、

「いえいえ大丈夫ですよ。それよりなにかお探しですか? 見たところ片手剣をお使いのようですが、中に入ってゆっくり見ていかれますかー? いろいろ新しい商品も入荷したところなので、お時間がありましたらぜひご覧になっていってくださいねー」

「時間は大丈夫なんですが、今は手持ちが心もとないので見るだけになりますが、いいですか?」

「もちろんです。ご案内しますね、こちらへどうぞ」

 少女は鍛冶師見習いでエルゼというらしい。

「へえー、ヒロさんは今日着いたばかりなんですね。じゃあこの後は西門の先でプレインウルフ狩りですか?」

「その予定です」

「そういう人にお勧めの武器もあるんですが、今回は残念です」

「どちらにしろそろそろ買い換えないといけないので、防具を揃えた後に買いに来ますね」

「はい! 待ちしていますね。――ではこのあたりがお勧めの片手剣となります。お値段的にも10000Gから15000Gあたりなので手ごろだと思います」

 特にお勧めなのが、入荷したばかりの鈍色(にびいろ)の剣だという。

「色の名前が鈍ら(なまくら)からきている鈍色なので焼きが入っていない切れない剣と勘違いされる方もいらっしゃるのですが、こちらは魔物の素材を使っているせいでこのような色になっているだけで、ちゃんと切れますし、魔法の威力を増幅させる効果もあるんですよー」

「それはすごいですね! なんの魔物なんですか?」

「オーガです」

「へ?」

「オーガです」

「……この辺ってオーガが出るんですか?」

「北門を抜けて、ずっとずっと森の奥へ進むといますよ」

「そんな魔物の素材だと高くないですか?」

「この剣は折れた骨を使ってるので安くなってるんです。ちょうど15000Gです。牙や爪を使ったものですと30000Gは超えてしまいますけどね」

 そういってエルザは笑いながら肩をすくめた。

「この剣を使った場合、どのあたりの魔物まで対応できますか?」

「ネクストタウン周辺の魔物は問題なく倒せますね。異邦人様でしたら当然巨大スライムを倒してこの町に来てるでしょうし」

 その先となると、西門のプレインウルフの出る平原を抜けて、武器持ちのゴブリンが出る森を超えた先にあるエリアボス――ホブゴブリンまでは十分対応可能だ。もちろん腕があればオーガも倒せるだろう。さらにはホブゴブリンを倒した先にある町、ドリッテ周囲の森の中腹あたりまで通用するらしい。

 広樹は妙にこの剣に惹かれていた。別に輝いているわけでもなにかを発しているわけでもない。飾りも無くとてもシンプルな作りをしている。

「んー、この剣が気に入ったんですが、取り置きってできますか?」

「そうですね……。では3日間だけお待ちします」

「ありがとうございます。その間に頑張ってお金を貯めますね」

「そういえばプレインウルフを狩る予定でしたね。毛皮は防具にされるそうですが、爪と牙はどうされるおつもりかお聞きしてもよろしいですか?」

「爪と牙もドロップするんですね。そちらはどこかに買い取ってもらうようになると思います」

「それでしたら、ぜひ当店にお持ちいただけませんか? プレインウルフの牙や爪は短剣や投げナイフの素材になるんです」

「買い取ってもらえるなら僕も助かりますのでこちらに持ってきますね」

 広樹が了承するといつものようにクエストウィンドウが現れた。


 クエスト種類:納品クエスト

 ・プレインウルフの牙と爪

 内容:ネクストタウンの西側にいるプレインウルフを狩って爪と牙を集める。数は問わない。

 依頼主&納品先:武器屋 鍛冶師見習い エルゼ

 報酬:100G/1個


「そういえば精霊スライムはまだ装備していないんですね」

 広樹の左肩に乗っている精霊スライムを見ながらエルゼが言う。

「そういえばまだだった」

 広樹はすっかり忘れており、思わず照れ笑いを浮かべた。

「エルゼさんはなにがいいと思いますか?」

「パーティ構成がわからないのでなんとも言えないですが……、プレインウルフを相手にするのなら素早さか回避あたりでしょうか……?」

「僕もそのどちらかにしようとは思ってるんですよねー」

 腕を組んだ広樹はなんとなく口にした。

「精霊スライムはどっちがいいと思う?」

『ボクは素早さがいいと思う』

「え?」

『でもマスターの好きなところでいいよー』

「あ、そっか精霊スライムと念話できるんだった」

 エルゼは笑顔でうなずいた。

「精霊スライムと会話ができるようになっていたんですね。よかったです。頻繁にコミュニケーションを取っていると、成長も早くなりますよ」

「へえ、そうなんだ、ありがとうございます。それじゃ呼びやすいように名前をつけさせてもらおうかな?」

『名前、うれしい』

「よかった。それじゃあ、かわいい声をしているから……ニートリヒとかどう?」

『ボク、ニートリヒ。マスターありがとう!』

「それじゃニートリヒ、素早さ上昇でお願いできる?」

『はい、マスター』

 返事をした広樹の精霊スライム――ニートリヒは、左肩からするすると体を伝って右足まで下りていき、ブーツの飾りのようなアンクレットへと姿を変えた。

「そういえばエルゼさん、友人がドロップしたものも買い取ってもらえますか?」

「はい、大丈夫ですよ。同じ条件で買い取り可能です」

「助かります」

 ちょうどその時、晴樹からのパーティチャットが届いた。

「ヒロ、こっちは終わったぞー」

「あ、ハル、ちょうどよかった、こっちにきてくれる?」

「りょ」

 晴樹が来るであろう方向へ体を向けた広樹の視界の隅で、クエスト達成を知らせる光が小さく点滅した。

「あれ?」

 クエスト一覧を開くと、シークレットクエストを達成したというお知らせだった。


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