23. ホルツでお買い物
「こんにちは。クラウスさんの紹介で来ましたハルといいます。これ紹介状です」
晴樹は受付嬢へ紹介状を渡す。
「いらっしゃいませ。はいお預かりしますねー。店内をご覧になりながら少々お待ちくださいませー」
一つに結った胸下あたりの長さのブラウンの髪が印象的な彼女は、受け取った紹介状を持って奥の部屋へと入っていった。
すぐに白髪の男性を連れて戻ってくる。
「お待たせしました。私がホルツのマスターのザカリーです。早速ですが、杖をお探しだとか」
「はい。今使っているのがこのアイスニードルが付与されている杖です。アイススピアを覚えたときに同時にアイスニードルも覚えられたので、今度は攻撃力が上がる杖に買い換えようと考えています。今のところ氷魔法中心なので、氷属性の威力が上がるものを考えているのですが……、お勧めのものはありますか? 予算は14000Gです」
それを聞いたザカリーは「少々お待ちください」と言ってまたバックルームへと戻っていった。
てっきり店内に陳列されている杖から選んでもらえると思っていた晴樹は、『あれ?』と思いはしたが、店内には条件に合ったものが無かったのかもしれないと思いなおしておとなしく待った。
(んーだいたい10000G前後かな……)
店内に陳列している商品の値段をざっくり見た感じではなんとか予算内に収まりそうで安心した。
さほど待つことなくザカリーは戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが氷属性の威力を上昇させる効果のある杖です。お好きなものをお選びください」
持ってきた4本すべて長杖ではあるのだが、微妙に長さや重さ、そして握りの部分の太さなどが違っていた。
晴樹は1本ずつ手に持って、使っているところをイメージしながら軽く杖を動かしてみた。
「これが一番しっくりきました」
晴樹の身長と同じくらいの長さのその杖は、4本の杖の中で唯一黒い杖だった。
他はどこか氷の冷たさを感じさせるような薄い色だったのだが、なぜかこれに惹かれてしまう。
「でもこれだけ色が黒いんですけど、これも氷属性に対応してるんですよね?」
「その杖だけ氷と闇の属性の2つに効果があります」
「へえー闇もなんですね。じゃあ次は闇の属性のスキルでも買おうかなー?」
「それでしたらシャドーボールなどがお勧めですよ。シャドー系の派生スキルは便利なものが多いのです」
「ありがとうございます。そうします。それでこの杖はいくらですか?」
「14000Gです」
予算ぴったりだった。
晴樹はいつものようにシステムを使って清算を済ませる。
「ところで余計なお世話かと思いましたが、最後に一言アドバイスさせていただくなら、そちらの精霊スライムは知力の上がるサークレット型を最初に選ばれるとよろしいでしょう」
「そういえば俺は魔法使いだからそっちでしたね。いつも友人と二人パーティだったから、素早さか回避かを考えてました」
「2度目以降でしたらそれでよろしいかと」
「わかりました。いろいろありがとうございます」
「ちなみに杖の買取もおこなっておりますが、今までお使いになられていた杖はどうされますか? ご友人のために保管されますか? お売りになられますか?」
「あ、売ります」
この杖はチュートリアルでもらったものだ。買い取ってくれるというのならぜひお願いしたい。晴樹は即座に了承して、500Gで買い取ってもらった。
武器屋の外に出た晴樹は、忘れないうちにと精霊スライムにサークレット型になってもらえるよう頼むことにした。念話ができるようになったのでそれで会話ができるはずと思いながら試してみる。
『精霊スライム、聞こえるか? サークレット型になってもらいたいんだが……』
『はい、マスター』
かわいらしい声で返事がきたと思ったら、左肩に乗っていた精霊スライムがぴょんと跳ねるようにして頭に乗るとすぐに姿をサークレット型に変えた。
『マスター、これでいい?』
『ばっちりだ、ありがとうなー』
それにしてもかわいい声だなと晴樹は思った。
幼児くらいだろうか? かなり幼い感じのする声だった。
『精霊スライムっていくつなんだ?』
『ボクは0歳。今日生まれたばかりです』
『へ? もしかしてエリアボスを倒したときってことか?』
『はい、そうです』
『そういうことか。ま、これからもよろしくな』
『はい、マスター』
『しっかし毎回精霊スライムって呼ぶのはめんどうだから、セイって呼んでいいか?』
『ボクはセイ。わかった。マスター名前をありがとう』
「さて、それじゃあヒロのところへ行くか」
隣の武器屋へ視線を向けながら晴樹はパーティチャットへ切り替えて呼びかけた。
「ヒロ、こっちは終わったぞー」
「あ、ハル、ちょうどよかった、こっちにきてくれる?」
「りょ」
一歩踏み出した晴樹の視界の隅で、クエスト達成を知らせる光が小さく点滅していた。