22. ネクストタウン
ボス部屋というか、隔離ステージを出た広樹と晴樹の二人は、お互いに顔を合わせると乾いた笑いをもらした。
それだけで同じような状況だったことがわかる。
「なんか気が抜けたね」
「まじそれ。死に戻りも覚悟したあれはなんだったんだろうなー」
なにはともあれまずはワープポータルに登録だろうということで、二人は町に向かって歩き出す。
ちょうど森の端に出ていたので、ネクストタウンへの門は小さく見えている。そこへ向かえばいいだけなので迷うことはない。
すぐに到着し、広樹と晴樹は門番にメッセージカードを渡した。
「通行許可書と精霊スライムを確認した。異邦人よ、ようこそネクストタウンへ。二人とも歓迎する」
二人の左肩には宝箱に入っていた水色の小さなスライムが乗っていた。
通常の魔物スライムとは違い、核の代わりに小さな星のような光が輝いていた。
これを精霊スライムと呼び、時に冒険の補助をおこなうことがあるそうだ。
教えてくれたのは通行許可書を渡したベンノという名前の門番だ。
「ベンノさん、ありがとうございます。またなにかわからないことがあったら教えてもらえますか?」
「ははは、私よりは冒険者ギルドで尋ねたほうがいいんじゃないかな? ここの冒険者ギルドの2階には資料室があるんだが、そこにいるクラウスはなかなかの物知りだぞ。一度行ってみるといい」
「そうなんですね。それでは今から行ってみます」
「ああ、そうするといい。だが、先にワープポータルへ登録をすることを忘れずにな」
「わかりました」
ネクストタウンは東門を入ってすぐのところへ噴水広場がある。その両側に冒険者ギルドと商業ギルドがあるところはファーストの町と同じだ。
ただファーストの町と違って露店は出ていないようだ。
広樹と晴樹は噴水までまっすぐ進んで光る石に手を置いて登録を済ませると、素直に冒険者ギルドの2階へ向かった。そのわけはクエストが出ていたからだ。
クエスト種類:挨拶クエスト
・ネクストタウンのワープポータルへ登録する 1/1回
・冒険者ギルドのクラウスへ挨拶する 0/1回
内容:噴水広場にあるワープポータルへ登録した後、冒険者ギルドの2階にいるクラウスへ挨拶する。
依頼主:門番 ベンノ
報酬:スキル『念話』
「こんにちはー」
「失礼しますー」
資料室の扉を軽くノックして入室すると、右手にあったカウンターに男性が一人座っていた。
「すみません、クラウスさんですか? 門番のベンノさんに紹介してもらったんですが……」
いつものように晴樹が声をかけると、その男性がにっこりと笑った。
「ええ、私がクラウスであっていますよ。異邦人の来訪は初めてです。ようこそネクストタウンへ」
ここでクエストクリアとなったようだが、このまま去るのも失礼な気がして、ちょうど疑問に思っていたことを尋ねることにした。
「僕はヒロといいます。彼はハル。ちょっと聞きたいことがあるのですが、今大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありませんよ。どのようなことでしょうか?」
「この精霊スライムについてです。冒険の補助をしてもらえるとベンノさんに聞いたんですが、具体的にはどんなことをしてもらえるのでしょうか?」
「まず精霊スライムは成長していくと分裂していきます。といっても最大6個ですけどね」
いわゆるパッシブスキルのようなもので、サークレット型だと知力上昇。チョーカー型だと防御力上昇。ブレスレット型だと右腕なら攻撃力上昇で左腕は体力上昇。アンクレット型だと右足で素早さ上昇で左足は回避上昇となっている。
「今までは魔物を鑑定しても名前以外はわからなかったと思うが、この精霊スライムに念話で指示をすると、HPをバーでわかりやすく表示してくれたり、苦手な魔法属性を教えてくれたりするんだよ」
かわいくて賢いだろうと、クラウスは我が子のように自慢する。
そういえば今までの魔物にはHPバーが表示されていなかった。てっきりそういうタイプのゲームかと思えば違ったらしい。
「それはたしかにかわいくて賢いですね!」
これから先とても便利になるかもしれないと広樹たちは喜んだ。
ついでにと広樹はお勧めの狩場を尋ねた。
「僕たち二人でも安定して狩れるような狩場ってありますか? 僕が片手剣でハルが杖です」
「あ、俺は杖を売っているところもお願いします」
アイススピアを覚えたら杖を更新する予定だったのを思い出した晴樹が便乗して質問を重ねた。
「そうですねぇ、西門を出た先に単体で出現するプレインウルフがいるのですが、その毛皮を集めて防具を作られるのがよろしいのではないでしょうか?」
「あ、そういえば防具も更新しなきゃいけなかった」
広樹が自身の体を見下ろしてつぶやく。
「杖はこの冒険者ギルドの裏道を進んでいきますと、ホルツという木製品専門の武器屋がありますので、そちらで探されてはいかがでしょう? そこでよければ紹介状も用意できますが……」
「ぜひお願いします」
晴樹は即座に頭を下げて頼んだ。門番が勧めるギルド職員からの紹介状だなんて、断る要素などかけらもない。どころか大歓迎だ。
二人は再度礼を言ってまずは武器屋のホルツから行くことにした。晴樹の攻撃力が上がれば当然プレインウルフ狩りもはかどるからだ。
「マップによるとこのあたりなんだけどー」
「あ、あったぞ」
広樹が見ていたほうと反対側にその店はあった。進行方向に向かって右側だ。
「そういえばヒロはどうする? 剣でも見てくるか?」
「そうだねー。ちょうど隣が金属武器を扱ってるみたいだから、覗いてみるよ。だからハルはゆっくり見てきて。終わったらチャットで教えて」
いつもパーティを組んで、パーティチャットで会話しているため、周囲を気にしなくてもいいし、すぐ近くなら当然パーティも維持したままなので会話は継続できる。
「おぅわかった。んじゃちょっと行ってくるわ」
お互い先に商業ギルドへ行って口座から全額下ろしてきている。
晴樹はインベントリへ入れていた紹介状を取り出して、受付らしきカウンターへ向かった。