21. 初めてのエリアボス
噴水広場へ飛んだ広樹と晴樹はどっと疲れを感じた。
「一瞬だったね」
クランに所属していた期間のことだ。在籍時間はほんの数分。実質挨拶だけして終わったようなものだ。
「な。あれは笑えたわ」
「やっぱり僕らには向いてなかったね」
声を掛け合うことで気分を持ち直し、エリアボス戦に向けて西門へとやや速足で向かう。
先ほどのストラテジーのメンバーにこれ以上絡まれないようにという気持ちもたぶんどこかにあったのだろう。
時折現れるコボルトをさくさくと倒しながら森の奥へと入っていった。
「森の奥って言っていたから、たぶんこれじゃないかなー?」
広樹が目の前にある空間のゆがみのようなものを観察しながら言う。
「ソロで戦うんだよな? パーティは解散してたほうがいいのか?」
「念のため解散しておこうか」
これで準備は整っただろう。
「それじゃ行ってみようぜ。俺が先に行くな?」
「たぶん別空間で同時戦闘可能だと思うから、僕も後に続くよ」
「んじゃ、神殿か次の町で会おうぜ」
「うん、お互い頑張ろうね」
晴樹がその怪しい場所へ手を伸ばしながら進んでいく。体が見えなくなってから様子を見て広樹も同じように進んでいった。
広樹の目の前には巨大な水色のスライムがいた。
「こういうの鎮座っていうのかな?」
どっしりと広場の中央にとどまっている。
なんとなく森の中の一部開けた場所といった感じだろうかと広樹は思う。
エリアボスが動かないのをいいことに周囲を見回してみるが、やはり晴樹は見当たらない。別空間で同じような状態になっているのだろう。
「さて」
広樹が一歩足を踏み出すと、それまで微動だにしなかった巨大スライムがぼよよんと体を振るわせた。
「まずは……アイススピア!」
どこが前かはわからないが、なんとなくエリアの入り口側の正面がボスの前面だと仮定して、後ろ側に回るように動きながら広樹は魔法を撃った。
魔法が当たった部分が少しだけ凍る。
「次は、アーススピアっとと」
地面が3本の槍状に形を変えて巨大スライムに突き刺さると、代わりにその体積分が飛び出すように広樹へと向かってきた。それを慌てて剣で切り飛ばす。
「土はダメっぽいから、もう一度アイススピア」
そのまま飛び込むようにして剣を突き出す。
同時にライトニングストライクも剣に重ねるようにイメージしながら放った。
ピシリ、と音が聞こえたような気がした。
直後に巨大スライムが弾けるようにして消えていく。後には宝箱が一つ残されていた。
「え? あれ? あれで倒せたってこと? え? 待って? ほんとに?」
広樹は混乱しながらしばらく宝箱を見つめていた。
「巨大スライムが消えて宝箱が出現してるってことはそういうことなんだよね……」
なんだかすっきりしない気持ちを抱えたまま、広樹は宝箱へ近づくと、持っている剣でコンコンと叩いてみた。
なにも起きないことを確認してふたを開ける。
中にはメッセージカードのようなものをくわえた手のひらサイズの水色のスライムが入っていた。
「なんか僕スライムに呪われてない? 大丈夫かなー?」
一方の晴樹も水色の巨大スライムと対峙していた。
「全然動かないな。こっちから攻撃しないと戦闘は始まらない感じかな?」
それならと晴樹はアイスニードルを撃ちこみ、すぐにアイススピアを撃つ。
巨大スライムの体が凍ったことを確認して、さらに同じ場所を狙ってアイスニードルとアイススピアを撃ちこむと、ピシッと音がして巨大スライムが弾けて消えた。
「はあ!?」
晴樹も口を開けたまましばらく出現した宝箱を見つめることとなった。
杖を使って宝箱をコンコンと叩く。
「うん、大丈夫そうだな」
そーっと宝箱のふたを開けると、中にはメッセージカードのようなものをくわえた水色のスライムが入っていた。
「おいっ、スライム出過ぎっ」
そのスライムを杖でつつくと、スライムは杖の上に飛び乗って晴樹のほうへと近づいてきた。
「お前生きてんのかよ!? ミミックの代わりか!?」
晴樹が思わず攻撃しかけると、それを察したのか、小さなスライムはくわえていたメッセージカードを突き出してきた。
「あ? これを読めってことか?」
メッセージカードとスライムを交互に見た晴樹は、仕方なくカードを受け取ってメッセージに目を通す。
「次の町って、まんまネクストタウンっていうのかー」
そのカードは次の町――ネクストタウンへの通行許可書だった。