11. 雑貨屋へお届け物
予想通りその女性は雑貨屋の店主ダーチャだった。日に当たると金色にも見えるほどに明るい栗色の髪を、顎下あたりで切りそろえたボブヘアをしていた。
荷物を持っている広樹が手慣れた操作でシステムから荷物を渡して報酬を受け取る。報酬も広樹と晴樹のそれぞれに自動で分配された。
そこで広樹はワープスクロールのことを思い出した。
「あ、ワープスクロールを買うのを忘れていた」
そのために雑貨屋に来たのに、あの混雑とクエストに意識がいって忘れてしまっていた。
あの混雑を思い出してつい顔をしかめてしまう。とはいえそこはあきらめるしかない。仕方がないからまた戻るかと考えていると、ダーチャから意外な言葉が返ってきた。
「ワープスクロールは今は店に置いてないわよ」
「え? どうしてですか? ティアナさんに聞いて買いに来たんですけど……」
「異邦人って、ポーションと魔力ポーションしか買わないでしょう? だから一時的に他の商品を倉庫に片づけてポーション用のスペースを確保しているの。住人にはあらかじめ告知して早めに購入してもらって、追加で必要な人はこっちの裏口から声をかけてもらうようにしているのよ」
「そうだったんですね」
「俺たちも買うことはできますか?」
「ええ、大丈夫よ。いくつ欲しいの?」
「1つ300Gでしたよね? じゃあ今あまり手持ちがないので、2つずつで。またお金が貯まったら買いに来ます。その時はこの裏口から声をかければいいですか?」
「ええ、それなら大丈夫よ。裏口にも誰か一人は待機するようにしているから」
ようやくワープスクロールが買えた広樹と晴樹は、改めて露店の雑貨屋に並んでいる商品と値段を確認しながら東門へと向かった。
「ポーション以外は特に値段が変わっているような感じはなかったね」
「ワープスクロールは露店で売ってなかったな」
「そういえばなかったね。売り切れたのかな?」
「まあ名前からしてワープに使うもんだってことはわかるからな。ポータル解放者はもちろん、未解放者もとりあえずで買っていった奴はいるかもね」
「未解放者ってまだいるのかな?」
「噴水広場はまだまだ混んでたし、冒険者ギルドへ一目散へ駆け込むタイプの奴らは周りとか見てないんじゃないかなー?」
「そういえば僕もみんなの流れに従って冒険者ギルドに直行したんだった」
「俺だって同じだよ。ヒロに教わらなかったら、今も気づいてない可能性が高いわ」
「僕も偶然教えてもらえただけだからね。門番のトラヴィスさんにはほんと感謝だよ」
「クエストもいい感じで続いてるし、ラッキーだな」
「だね。とりあえず今度は一人50個ずつ必要だから頑張らないとね」
「スライムはどうとでもなりそうだけど、薬草がなー……」
「それはまあもう少し奥を探してみるしかないね」
二人とも厄介な薬草探しにはため息をこぼさずにはいられない。
だがこういうのもMMOらしいともいえる。
東門を抜けた二人は、狩場を探すためにやや速度をあげた。
スライムゼリーと魔石は、納品分を除いても十分自分たちが使えるだけの数が稼げたので今度は薬草を探し始める。
「マップ見た感じじゃ、さっきはこの辺で採取してたはずなんだけど、えらい荒らされてるなー」
「うん。先を越された腹いせの八つ当たりって感じがする」
剣だか槍だかを振り回して暴れた感じでめちゃくちゃにされている。これでは今後薬草が生えてこない可能性すらある。困った事態だ。
「俺達にはどうしたらいいのかわからないし、ここはこのままにして他を探そう。後でティアナさんへ報告すればなんか考えてくれるかもしれないし」
どう見てもプレイヤーの仕業だろう形跡を見て、二人は肩を落とす。
いやなものを見てしまえば気分は沈む。
だがいつまでもそれを引きずるわけにはいかない。こういうゲームをしていればそういうプレイヤーに出会うことなんてよくあることだ。
VR以外のMMOでは、全体チャットで暴言を吐きながらもめごとばかりを引き起こすプレイヤーも多いのだ。VRでは全チャはないものの、エリアチャットとか白チャ――エリアチャットはログに白文字で表示されていたため一部の人にそう呼ばれていた――と呼ばれているものと同じような感じで、発言者の近くにいれば普通に声が聞こえはする。どちらかがブロックしない限り普通に会話もけんかも可能だ。
できればこれをやった本人には会いたくないと思いながら、二人は薬草を探してさらに奥へと向かった。




