10. ポーション屋へ納品
マップと見比べて目の前の建物がポーション屋であることを確認した。
「すみませーん、薬師のティアナさんがいるポーション屋はこちらですかー?」
特に取り決めがあるわけではないのだが、こういう時はいつも晴樹が先に行く。
そんな晴樹の背中は見慣れたものだが、やはり時折はうらやましくなることもある。広樹は複雑な心境を覚えながら晴樹の後を追った。
(慣れないところってどうしても身構えてしまうんだよね……。気負わずに扉を開けれる晴樹がうらやましいよ……)
カウンターにいた少女は見覚えのない人だった。売り子っぽい感じだ。フリルのようなものが肩ひものあたりについたエプロンをつけている。
「ティアナさんならここの薬師であっていますよ。ご用件は何でしょう?」
「薬草の納品に来ました」
「承知しました。少々お待ちください」
少女は近くに置いてあったハンドベルのような形をした小さな呼び鈴をチリチリンと鳴らした。
それから奥へ向かって「ティアナさん、お客様です」と呼びかける。
決して大きな声を出しているわけではないのに、しばらくするとドアを開閉する音が聞こえてティアナがカウンターへと出てきた。
「東の平原で会った子たちね。いらっしゃい」
「ヒロです。彼はハル。薬草の納品とナイフの返却に来ました」
言葉通りにシステムから納品と返却を済ませる。
「ナイフはポーション屋でも買えるんですよね? それぞれ2本ずつ欲しいんですが、いくらになりますか?」
「1本500Gよ」
「ではこれで」
こちらも売買システムを使ってさっと完了。
また東の平原に戻ってスライム狩りと薬草採取をおこないたいところだが、ここでも用事があった。
「ティアナさん、すみません。ポーションを自作したい場合はどうすればいいのか教えてもらうことはできますか? あと可能ならワープスクロールも自作してみたいんですが……」
「調合は持っている?」
「いえ、ないです」
「それじゃ、薬師の入門書とポーション製作キットのセットで7000Gになるわ。ワープスクロールは錬金術の分野だから、魔法屋のアデーレに聞いてみるといいわね」
「あ、アデーレさんのほうでしたか。ありがとうございます。さっき納品クエストを受けたので、納品の時にでも聞いてみることにします。ありがとうございました。あとすみません。お金が足りないので、貯まったら買いに来ますね」
「ワープスクロールは雑貨屋で1枚300Gで売っているから、そこで買っていくといいわ」
「ありがとうございます。これから行ってみます」
「これから雑貨屋に行くのなら、ついでに届けてもらいたいものがあるのだけど、いいかしら? 途中で寄り道をされると困るから、その場合は私が届けに行くしかないけれど……どう?」
「すぐ近くですか?」
「冒険者ギルドの隣にある雑貨屋よ。そこにいるダーチャという名前の店主に荷物を届けてほしいの」
「それなら……」
一応確認の意味で晴樹の顔を見上げた広樹は、彼が小さくうなずいたので、改めてティアナの依頼を受けた。
クエスト種類:お使いクエスト
・荷物 0/1個
内容:荷物を至急雑貨屋の店主ダーチャへ届けること。寄り道禁止。
依頼主:ポーション屋 薬師 ティアナ
配達先:雑貨屋 店主 ダーチャ
報酬:350G×2
荷物は広樹のインベントリに1つだけ入ったが、クエスト自体は二人に出た。報酬は1人350Gということなのだろう。
「それではさっそく行ってきます」
クエストの内容にも『至急』とあったので、二人はすぐに雑貨屋へと向かった。
雑貨屋はさすが冒険者ギルドの隣にあるだけあってプレイヤーを多数含めた冒険者たちがひっきりなしに出入りしていた。
二人はなんとかカウンター近くまで行って、晴樹がちょっと大き目な声で売り子の少女へ問いかけた。
「店主のダーチャさんへティアナさんから急ぎの届け物を預かってきたんだけど、呼んでもらえる?」
「それでしたらすみませんが裏口へ回ってもらえませんか? 店主は今裏で荷受けをしている最中なんです」
「わかりました。建物の裏へ回ればいいんですね? 行ってみます。ありがとうございました」
店内はなかなかの混雑具合だ。
二人は早々に外へ出て裏へと回った。
「みんなポーションを買ってたね」
「ポーション屋は東門に近いから、南門に近い雑貨屋へ来るんだろうなー」
「途中の露天でもポーション売ってたけど、買ってる人少なかったよね」
「さっさと補充してまた狩りに戻りたいんだろうな。あの混雑の中へ飛び込むくらいなら、俺だったら露天のほうへ行くけどなー」
晴樹はそう言ってふっと笑った。
「ポーションの値段見たか?」
「一応」
晴樹の言いたいことがわかって、広樹もくすっと笑みをこぼした。
「ポーション屋が1個100G、露店が1個120G、雑貨屋が1個150G」
「雑貨屋とポーションが売ってた露天の場所って、100mくらい? しか離れてなかったよね?」
「見てないんだろうな。武器の露店があって、防具の露店があって、その向こうだったから、防具を買い替えに行くときに気づくくらいかもな」
「南の平原で転売したら、200Gとかでも売れそう」
「さっきの集団の中にはそういうやつも実際にいると思うぞ」
そんな話をしているうちに雑貨屋の裏口近くに到着した。
裏口といっても勝手口のようなものとは違って、荷物の搬入口といった感じで間口の半分ほどの広さがあり、目の前には荷馬車が止まっていた。
そこで店主と思われる女性と、荷物を運んできたと思われる男性が立っていた。
「すみませーん、ダーチャさんでしょうかー? ティアナさんから頼まれた荷物を持ってきましたー」
相変わらず最初の声掛け役は晴樹だ。すでに癖になっている風でもある。




