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01. プロローグ

 朝の大通りは仕事に向かう人たちでざわざわとしていた。

 早くから開いている食堂やパン屋、総菜屋といった店店が立ち並ぶ区画はもちろん、依頼を求めて冒険者ギルドも人であふれている。

 特に今朝は噴水広場に現れては冒険者ギルドに駆け込む者たちが多い。

 ここファーストの町は南に噴水広場がある。南門から入ってすぐの広場だ。その左右に冒険者ギルドと商業ギルドが建っている。南門から入って右に行けば冒険者ギルド、左に行けば商業ギルドだ。

 いつもと比べて数えきれないほどに増え続ける人々を見た周囲の住人たちは、とうとうこの日がやってきたのかと思った。

「そういえば神殿からの啓示は今日でしたねー」

 南門の門番を交代したばかりの兵士がその光景を見て少々疲れたようなつぶやきをもらした。

 すぐ隣にいた兵士も小さくうなずく。

「先ほど朝の鐘が鳴ったところですから、これからもっと増えるでしょうねぇ」

 顔を見合わせた二人の兵士は、何事も起こらないことを心の中でそっと祈った。

 どんどんと噴水広場にあふれてくる異邦人たちを眺めやる住人たちの思いはみな似たようなものだった。


 ここはワイスシュトラーゼ。

 人間がいて、魔物がいて、動物がいる。他にもいろいろな種族が雑多に暮らしている。

 平原にも森にもダンジョンにも魔物がいて、人は主にこれを狩って生活している。それを生業にしているものを冒険者と呼ぶ。

 ファーストの町の周囲は主に平原で、魔物もあまり強くはないので、普段はあまり冒険者は多くはない。もちろん町の生計を維持できるほどにはいるが。

 だがこの度王都の大神殿で神より啓示が下った。

『7の月の20の日、朝の鐘が鳴り終わるとともにファーストの町に異邦人が多数現れ、その多くは冒険者となるだろう。彼らの成長を助け、ワイスシュトラーゼの新たな種族として受け入れよ』と。

 この命を受けたファーストの町の住人、特に冒険者ギルドの職員は、冒険者登録業務の臨時拡大に務めた。

 他にも必要となるであろう武器や防具に関連した施設も同様に初心者向けの装備を揃えて待機していた。

 いったいどれほどの需要があるのか。

 具体的な数字がわからないままこの日を迎えた住人たちは、これより数日の間はかなりの激務に見舞われることとなった。

「早めに啓示をもらっていてよかった」

 それでもそう零してしまうほどには疲労感をぬぐえなかったが。

 何はともあれ彼らは訪れた。

 ならばもう共存をする道を模索しつつ進むだけだ。

 住人たちは新たに始まった日々に寄り添うように活動を始めた。


 早々に冒険者登録を終えた異邦人が南門を抜けて目の前の平原へと駆けていく。

 噴水広場から町の中心部に向かって様々な露天が出ているにも関わらず、そちらへは目もくれずに選んだ職業に応じた武器をインベントリから取り出して装備し、ソロ、もしくはパーティを組んで平原にいる魔物へ向かっていく。

 門番たちは次々と目の前を通り過ぎていく異邦人たちをただただ無言で見送った。鎧を着て槍を持ってはいるものの、特に何をするでもなく、住人も異邦人も好き勝手に門を出入りしている。

 門に向かって魔物が近づいているならばともかく、人が好きに出入りする分には門番は何もすることがない。ただ見慣れない姿が多い異邦人たちを興味半分で眺めているだけだった。

 そんななか少女の小さな悲鳴が門番の耳に届く。

 目を向けてみると、一人の少女が道端に倒れていた。

 少女は転んだ拍子に落として割れてしまった小瓶を見つめていた。

「どうしましょう!? 私ったらだいじなポーションを壊してしまったわ!」

 二人の門番は顔を見合わせて苦笑い。

「リーシャのやつまた転んでるぞ」

「いつまでたっても直らないな」

 門番のうちの一人が、仕方がないといった感じで転んだ少女――リーシャのもとへ向かおうとするが、門番よりも先に冒険者ギルドから出てきた一人の異邦人の少年がリーシャへと声をかけた。

「えっと……君、大丈夫?」


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