レイさん、あなたの探し物はなんですか?
皆さんは、幽霊や妖怪を信じますか?
私、斎藤ミカサは信じます。
いや、信じるしかないのです。だって……
「実際に、視えてるんだよね……」
彼らは、私の周りを飛び回ったり、机の下や窓の外、ドアのスキマにもその姿はあります。
そればかりか、堂々と人間の前を通りすぎる子もいます。
おいおい、視えないからって、好き勝手にするんじゃないよ。
私のこの力は生まれつきで、小さい頃から苦労してきました。
なぜ、苦労したのか、その理由は……
私が考えていると、一匹の幽霊が近づいてきました。
「すみません、成仏したいんです」
また、これか。
私が幽霊の額に指をつけると、ピカッと光って消えました。
だけど、周りはザワついています。
それもそのはず、だっていきなり光があらわれたんだもの。
まぁ、そういう反応になるよね。
「斎藤さん、今なにか光らなかった?」
「なんだろうね、私にもわからないんだ」
私は、はははと笑いながら、その場をごまかしました。
私が苦労したのは、こういうことなのです。
毎回ごまかすのも、大変です。
少しため息をついて席に着くと、目の前に見知らぬ男の子がこっちを見ていました。
「何か用? 私、忙しいんだけど」
「斎藤さん、誰と話しているの?」
「えっ?」
そうか、彼は幽霊なのだ。
なら、答えはひとつだ。関わらないようにしよう。
私が無視していると、男の子が話しかけてきます。
「ねぇねぇ、あんた俺が視えているんだろ?」
「……」
「一緒に、探してほしい物があるんだけど」
私が無視をしていても、彼はずっと話しかけてきます。
授業中も、家庭科室で料理をしている時も。
それどころか、体育の時間では、皆に混じって応援している始末。
さすがに耐え切れなくなって、私は彼に振り向きます。
「ちょっと、さっきからしつこいのよ!」
「おっ、やっとこっちを視たか」
「それで、何を探してほしいのよ」
「あっ、そうだった。途中から面白くなって、忘れていたよ」
「そのまま、忘れていればいいのに……」
私はムカついたので、構わず歩きだしました。
「待って待って、ちゃんと話すから行かないで!」
私たちは場所を変えて、体育館裏に来ました。
「それでもう一度聞くけど、探し物ってなに?」
「実は、死ぬ前にある大切な人に渡したい物があったんだけど、それがなんなのか思い出せないんだよ」
「それなら、探しようがないじゃない。どうするの?」
彼はうーんと唸って、それからはっとした顔になりました。
「おぼろげだけど、手がかりはあるよ」
「本当?」
「うん、川の近くだった」
「川ね、わかったわ」
私は頷き、立ち上がりました。
「じゃあ放課後、近くの川にでも行ってみましょうか」
「よかった、誰も俺のこと視えてないみたいだから、どうしようかと思っていたよ」
「まぁ、普通は視えないからね」
私が少しうつむいていると、彼と目が合いました。
恥ずかしくなった私は、慌てて目をそらします。
「そっ、そういえば、あなたの名前まだ聞いていなかったわね」
「俺の名前?」
「そうよ、呼ぶのに困るでしょ。なんていうの?」
「えーと……」
彼は首をかしげながら、少し考えていました。ですが……
「忘れちゃった」
自分の名前すら憶えていないのか。どうしよう……
私が困っていると、ふと彼の右手に目が留まりました。
「あなたのそれ、丸だかゼロに見えるわね」
「えっ、これ?」
「よし、あなたのことは『レイ』って呼ぶわ」
「レイ……」
「嫌だった?」
「いや、それでいいよ。呼びやすい感じで構わないから」
「じゃあ、また放課後にね、レイ」
★★★
そして放課後、私たちは学校の近くにある川に来ていました。
「さて、ここから探すとしますか!」
私は、ガサゴソと草むらを探してみます。
しかし、これといって見当たりません。
まぁ、何を探していいのかわからないのだから、当たり前なんですけどね。
振り向くと、レイも飛びながら、辺りを探してくれています。
「これだけ探したのに、見つからないね」
「うん……」
「今日はもう遅いから、明日また探しましょう」
それから私たちは、数日の間川を探し歩きましたが、何も見つかりませんでした。
「今度は、上流のほうに行ってみましょうか」
「ありがとう。まさか、ここまでしてくれるとは思わなかったよ」
「このまま、とりつかれても嫌だからね」
私が振り向かずに言うと、レイの元気のない笑いが聞こえました。
上流に着き、また探し始めると、今度は何かがありました。
「なにかしら、これ」
それは、何かの紙切れを丸めたものでした。
開いてみると、バツばかりの解答用紙だったのです。
「あんた……まさかとは思うけど、これをその大切な人に渡すつもりじゃないでしょうね」
「ちっ、違うよ!」
レイは慌てて、私の足元を指さします。
「それじゃなくて、今下に落ちた物だよ!」
言われて下を見ると、何か光っている物が落ちていました。
手に取ると、それは指輪でした。
でも、高価な物じゃなく、子どもでも買えそうな感じの物だとわかりました。
「へぇ、きれいね。探し物ってこれのこと?」
「あっ、今思い出した。それ、母さんにプレゼントしたかったんだ」
「母の日に、あげたかったってことかしら」
「そこまでは、わからない。でも、俺川に落ちちゃって、そのまま溺れちゃったんだ」
「そうだったの……」
私は話を聞いて、指輪を握りしめます。
「じゃぁこれ、渡しに行かないとね!」
「いや、それあんたが持っててよ」
「えっ?」
「今まで、一緒に探してくれたお礼だよ」
「でも……」
「いいからもらって。今までありがとう……」
すると、レイの体はどんどん透明になり、その姿は消えてしまいました。
あとは、私と指輪だけが残ったのです。
★★★
「はぁー……」
あれから、数週間が過ぎました。
あいかわらず、私の周りでは、幽霊たちがうろついています。
「おいおい、なにしけた顔しているんだよ」
懐かしい声がして、そちらを振り向くと、レイがいました。
「なんで、あんた成仏していないの……」
「いやぁ、俺にもわからないんだけど、これでこれからも一緒にいられるよな」
私は、わなわなと震えながら、こう言いました。
「ふざけるなーっ!」
慌ただしい毎日は、まだまだ続きそうです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!