模擬戦
「面白いわね。じゃあ、一本勝負であたしが勝ったら手をついてピオニーさんに謝ってもらうわ」
そう言い放ち、あたしは持ってた短い木剣を構えてシャトルーズ騎士との間合いを詰める。
ピオニーさんが口を挟む間もなく始まってしまった即席の模擬戦だけど、あたしには勝算があった。
ベゴニア女騎士が宿舎の外壁の箱から木剣を抜いて渡すと、シャトルーズ騎士はそれを肩に担ぐように構える。
「なんだ、役立たずの嬢ちゃん、そんな短いのでいいのか?」
「いいよ、あたしはまだ長いやつ習ってないし。あんたなんかこの短いので充分だよ」
「生意気言いやがって!」
シャトルーズ騎士は頭から湯気立てて斬り掛かってきた。
この人、頭に血がのぼって、考えダダ漏れだし、いくらあたしを素人だと舐めてるにしても、動きが単調すぎ。
(このガキが足元から斬り上げた剣を上から叩き伏せて、そのままの勢いで右から横薙ぎにしてやる)
みたいなパターンを5つくらい頭の中に用意してる、ってのがわかる。
あたしは足元から斬り上げるフリだけして、素早く手首を返して斬り上げない。上から叩き伏せようとしても、あたしが斬り上げてないんだから空振りしてバランス崩して、身体の正面ががら空きになった。渾身の力を込めて横薙ぎに右手首をしたたかに打ってやる。
シャトルーズ騎士は木剣を地面に落とすけど、踏み込んできた勢いですぐには止まれない。右手首を横薙ぎに打った反動で跳ね返って相手の身体の真正面に戻った剣先で、そのまま腕を伸ばして鳩尾を突いてやろうとしたら、割り込んできたピオニーさんがあたしの木剣を叩き落とした。
「いたぁぁぁい!!」
手がじんじんする。
「綾川、そこまでだ!」