あたしだけ基礎訓練
中庭には、もうあたしとピオニー女騎士しか残ってない。
「あたしはどのグループですか」
「綾川優梨か。お前は紫魔導士だな。お前の能力は、今回の作戦には使えないから、ここで待機だ。
知能の低い魔物には、精神干渉魔法は効かないからな」
「あたしは使えない奴だ、ってことですか?」
「違う違う。お前の能力は今回討伐する相手とは相性が悪い、ただそれだけだ。
今日の午後は基礎訓練の続きをやろう」
「木剣振りはもう飽きました」
「飽きた、とは生意気だな。じゃあ、私がお前に打ちかかるから、それを10本払うことができたら合格ということにしてやる」
ピオニーさんはそう言って、自分は普通の木剣を構えた。
この人が剣を構えた姿は綺麗。こっちに来るまで剣なんて見たことなかったあたしでもわかるくらい、立ち姿全体のバランスが取れている。努力して修行した結果なんだろう。
あたしの手にあるのは、ここ数日間振らされていた台所の包丁の倍くらいしか長さがない短い木剣。
素早く動いて打ちかかってくるピオニーさんの木剣を、教えられたとおりなるたけ手元に近いとこを横に払い、反対側に避けてすれ違う。
相手を斬るんじゃなくて、自分のよりも長い相手の剣で斬られないよう防御する。
同じ要領で10回躱したら、ピオニーさんは満足そうな笑顔で
「綾川、よくできたぞ」
て褒めてくれた。
この日の午後の残りは、約束通りお休みになった。
でも、次の日も、その次の日も、あたしはピオニーさんとふたりきりで基礎訓練しかやらせてもらえなかった。