頑張ってる人が報われる国
結論から言うと、あたしが勝った。
打ち込んでくる団長さんの木剣を右に払って、返す刃で左脇腹を打つ。ちゃんと習った通り寸止めもした。
「一本、とりました!」
団長さんは苦笑いしながら言う。
「ピオニー女騎士、これだけできるようになるまで、よく指導したな。
わしの動きの数手先まで見通しただけでなく、わしの動きに応じる剣技も見事なものだ。
綾川、いまのは読心魔法を使ったのか?」
「そうですけど。
あたし、そんなに悪いことだと思えないんですよね。
腕が長い人も短い人もいるでしょ。腕が長ければ、相手の間合いに入る前に攻撃できて有利。
でもそれをズルとはいいませんよね。
相手が次にする動きの予想がよく当たる、っていうのも、腕が長いとか足が速いとかとそんなに違わないと思うんです」
団長さんは考え込んでる。あたしは続ける。
「魔法剣士、ってあるでしょ?
剣技に通じていて、火魔法も使えるなら、剣に火の属性が乗って一層攻撃力が高くなる。
それと同じように、紫魔法、とくに読心魔法が使える魔法剣士があってもいいじゃないかってあたしは思うんです」
「ふむ。歴史的に、騎士団だけでなく公国全体に、紫魔導士を忌む空気があった。勝手に心の中を探られたい者はおらんからな。
そのせいで、適性者に不自由な思いをさせてきたことは反省せねばならん」
一緒に来ていたカーマイン公女も頷いている。
「紫魔法の対象を敵に限る必要はないと思うんです。読心魔法や思念伝達魔法ができる味方がいれば、複数での乱戦になったときにも統率がとりやすいでしょ」
「その通りじゃな。騎士団で紫魔法剣士を育てることを検討しよう」
あたしは調子に乗ってお願いする。
「団長さん、
ピオニーさんを騎士団最初の紫魔法剣士隊隊長にしてください。
持ってる能力を発揮できなくてそれでも頑張ってるのを見てるのは歯がゆいんです。
あたし、訓練に励みますから、一人前になったら、隊員第1号にしてください」
あたしがそう言うと、ピオニーさんは上を向いて考えているようだった。
長い沈黙が続いた。もう一度顔を見たら、ピオニーさんは涙が流れないように上を向いて泣いていた。
「綾川、お前がそんなふうにわたしのことを慕ってくれるのはうれしいぞ」
横にいたカーマイン公女殿下は背筋を伸ばしなおして、毅然として言った。
「このアラザール公国が、頑張っていて能力もある人が、報われる国になるように、わたくしも力を尽くしてまいりましょう」