秘密の特訓
そう言って、ピオニーさんは左腕につけてる緑灰色の腕輪を見せてくれた。
「わたしはそれ以来ずっと、この魔封じの腕輪をわざと人目につくようにつけている。
騎士たちの間には、読心魔法で頭の中を覗き見るとか、傀儡魔法で行動を支配するとか、立ち合いのときにわたしがそういったズルをするだろうと考える奴がいるからな。
自分が公正に行動していることをこの魔封じの腕輪で示した上で、彼らと同じ騎士団員として剣技を磨く、わたしはそう心がけている」
「でも、ズルにも使える能力がある、というのと、その能力を悪用してズルする、ってのはまるで別でしょ。
魔法を封印して剣だけで勝負するって、片腕しばって立ち合いに臨んでるようなものじゃないですか?」
「綾川、お前のそういう純粋なところを、わたしは気に入っている。
だが、人間というのは得てしてそういうものだ。
いくらこちらが高潔であったとしても、しようと思えばズルが可能だ、というだけで相手は疑心暗鬼になる。
同じ理由で、公国はお前に紫魔法を教えたがらない。
異世界からの転移者にはこの世界のわたしたちと比較して桁違いの能力が発現するからな。
お前が紫魔法を習いたいなら、剣技の訓練の合間にわたしがこっそり手ほどきをしてもいい。
わたしが紫魔導士の見習いだったのはせいぜい3年だが、初歩くらいは教えてやれる」
こうして、次の日から、あたしとピオニーさんの秘密の特訓がはじまった。