ピオニー女騎士
「ピオニーさんは、どうして騎士になったの」
「うちは騎士の家系だからな。ふたりいる兄も騎士団の騎士だし、わたしが騎士になるのも自然なことだ」
「それだけ? 自分がなりたくてなったんじゃないの?」
ピオニーさんは暫く黙って考えてたけど、
「……いや、それだけではないな。
わたしは本当は紫魔導士になりたかったのだ」
「それがどうして騎士になったんですか?」
「言ってしまえばつまらないことだ。わたしも他の子供と同じように、12歳のときに能力判定を受けて、紫魔導士の適性を認められた。
紫魔法を習い始めて数年、訓練が面白くなってきた頃だ。
当時の師範が自らの劣情を満たそうとして、精神支配の傀儡魔法をわたしにかけようとした。
それをわたしは事前に読心魔法で見抜いて逃れた。
師範は言いがかりだと言い、周りの紫魔導士どもはわたしの言う事を信じない。
わたしは怖くなって泣き出してしまったのだ。
騒ぎを聞いてかけつけた紫魔導士長の命令で、わたしとその師範とに魔封じの腕輪をはめたうえで、双方を読心鑑定した結果、師範はわたしに対する暴行未遂で追放処分になった。
まだわたしが子供だったことも罰が重くなった理由だな。
だが紫魔導士たちは自分たちの師範が追放処分となるきっかけになったわたしのことを受け入れてはくれなかった。
それを不憫に思った当時の騎士団のジェイド副団長、いまの騎士団長が、わたしを拾ってくれた、というわけだ。
人並み外れて剣技に秀でていたわけでもないわたしを、剣技を誇りとして入団した本当の騎士団員が受け入れてくれるはずも、また、なかったのだがな」