ケットシーの放浪
【イメージボイス】
フィイ(ケットシー):浪川大輔……好青年の様な天然系真面目っ子
爺さん:千葉繁……ぶっきらぼうな感じ
婆さん:井上喜久子……優しく怒りそうにない感じ
運転手:玄田哲章……粋な一匹狼の様な男性
ケットシーは猫の妖精である。
普段はまるで猫のように人の街を彷徨い、噂話を肴に井戸端会議に花を咲かせていた。
このケットシーにはルールが有り、それは決して人に喋る所を見られてはいけないことであった。
そのルールが破られた際、ケットシーにはとあるペナルティーが課せられる定めがあったのだ。
そんなケットシーの中にフィイという三毛猫のケットシーがいた。
「今年の冬はさむいにゃ〜
こんな日は猫のフリして人間のこたつの中に入って温まりたいにゃ〜」
そう愚痴るフィイはとある温かそうな民家を見つけたのだ。
「ここは温かそうだにゃ!」
フィイは人気のある古い民家に入ると老夫婦が住んでいた。
「おやおや、良く来たね〜寒いのかえ」
「おお、婆さんや、タカシでも来たのかぁ?」
「いえ、猫ですよおじいさん!
それも可愛い三毛猫さんですよ!」
「何じゃ、あいつは今年も帰らんのか」
お婆さんはフィイを捨て猫をもてなすように可愛がり、それに甘えたフィイはこたつの中で丸くなっていた。
お爺さんは無神経にこたつに入り込むとフィイを思いっきり蹴ってしまい、思わずフィイは痛がって叫んでしまった。
「痛ぁ!」
このとき民家にフィイが発した若い青年のような声が響いてしまった。
「何じゃ!?」
「え?」
フィイは思わず前足で口を塞ぎ、二足歩行で立っていた。
「猫ではないのか?」
「え……三毛猫ちゃん?」
「しっ、しまったにゃ〜!」
フィイは喋るところを人間に見られてしまった。
するとフィイはボンっ……と煙を上げるとそこには猫耳が生えた若い青年が座り込んでいた。
「にゃあ! ペナルティーにゃ〜!」
ケットシーのフィイはペナルティーで人間となってしまったのだ。
このペナルティーは1年続くとされている。
いきなり現れた不審者に老夫婦は警戒したが、眼の前で起きたこととフィイの必死なお願いに老夫婦は1年の居候を許したのだ。
「居候するのだからきっちり働いて、年末の大掃除を手伝ってくれ
働かざる者は食うべからずじゃ」
お爺さんはダラけようとしていたフィイに厳しい事を言った。
「そんにゃこと言っても……」
「まずは面接じゃ!
ほれ婆さんや押し入れにタカシのスーツがあるじゃろ?」
「はいはい」
お婆さんはフィイにしまい込んだスーツを出した。
フィイは少し防虫剤の香りが染み付いたスーツに腕を通していくと「スーツを着た」と言うより「スーツに着られ」ていた。
「ちょっと臭いにゃ」
フィイが袖の匂いを嗅ぐと顔をしかめた。
「つべこべ言わずに面接に行くのじゃ!」
お爺さんは昔のツテを頼りにフィイを連れ回してバイトの面接を受けさせに行った。
そんな光景を見ていたお婆さんはお爺さんに言葉を漏らした。
「お爺さん、思い出しますね」
「そうじゃな、婆さん あいつもこんなに素直にいてくれたらな、
じゃがこいつはまるで猫のサラリーマンじゃな、ガハハハ」
そんなこんなで1年が過ぎようとしていたころ。
お婆さんがフィイの好きな魚を焼いていたところで倒れてしまった。
お婆さんは病気を患っていたのだ。
お爺さんが病院でお婆さんの見舞いに来ていた。
「こんな時でもタカシは見舞いにも来てくれんのか
こんなことならニートのアイツを無理やり追い出すんじゃなかった」
「タカシ……、は来ないのかにゃ」
「儂らではあいつがどこにいるのかわからんのじゃ
アイツの顔を見れば婆さんは少しは元気になるんじゃがな……」
お爺さんはそう言うと目元に腕を押し当てていた。
何も出来ないフィイにはそれからすぐペナルティーの1年が過ぎた。
猫のケットシーに戻ったフィイは心惜しくも病院を後にすると全速力で駆けていった。
向かう先はケットシーの集会場だ。
そこでならこの街の細かな情報に溢れ、小さな噂まで手に入るのだ。
フィイはとある情報を求めケットシーの集会場を巡ったのだ。
街の外れでタクシーが止まり客を降ろすと運転手は後部座席に一匹の疲れ切った三毛猫が折りたたまれたスーツの上で座っていることに気がつく。
「なんだ、ふてぶてしい猫だねぇ 無賃乗車はお断りだよ」
運転手は猫を追い払おうとすると猫は急に喋りだした。
「運転手さん、あなたはタカシさんですね?」
こうしてタクシーは猫のサラリーマン、ささやかな願いを携えた希望のビジネスマンを乗せて病院へと走っていった。