表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風精の魔導師、異世界の旅に出る  作者: かーくん
時を超える旅路
56/61

管理AIツンカシラ

 人間に寄生する寄生虫を倒すと、準備を整えて出発した。


 シャーラはごねたが体調が戻ってないので、今日も抱えて飛ぶことにした。瓦礫の山を眼下に飛んでいると大河に出た。


 『この河を超えるとツンカシラの領域です』


 水は濁っており、流れは緩やかだ。遠くに橋が掛かっているのが見えるが途中で崩れている。河の上空に差し掛かると、河の中にに細長い影が現れた。その姿は蛇の様にも見える。


 河から魔力が溢れ出すと、水が巻き上がっていく。何本もの水の柱が出来ると、回転する水の槍になって襲い掛かって来た。


 「〈烈風の剣(ゲイル・ブレイド)〉!!」


 魔法で切り払うが飛沫(しぶき)が集まって再び水の柱になった。大魔法でまとめて吹き飛ばしても同じだったので、水中にいる敵を倒さないと消えない様だ。


 「〈大気の斬撃(エリアル・スラッシュ)〉!!」


 「ギキャァー!!!」


 真空波で水中にいる影を攻撃すると、水中から9つの人面を持つ大蛇が飛び出して来た。9つの顔は男女が混じっていて顔付きも髪の長さもバラバラだ。


 「アウワァー!!!」


 大蛇が声を上げると空が急に曇り大雨が降り出した。視界が霞むほどの豪雨で、呼吸もままならない。


 障壁を張って雨を(しの)ぐが大蛇を見失ってしまった。雨音が強く、障壁の中まで響いている。


 大蛇を放置して先に進もうとするが一向に雨の中から抜けられない。


 「雨が空間を遮断してる感じだな。雨か大蛇を何とかしないと進めないだろうな」


 強い魔力が迫ってくる気配を感じてその場から離れると、何かが通り過ぎて行った。大雨のせいで視界が悪く、攻撃の正体が掴めない。


 「シャーラ、ブリュンヒルデ、天候操作系の魔法って使えるか?」


 「ごめん、全く使われへん」


 『可能です。〈暴風領域(ストーム・フィールド)〉を起動します』


 大雨が弱まって強風が出て来たが、少しすると再び風がやんで雨が強くなって来た。ブリュンヒルデが起動して上書きした〈暴風領域〉を更に上書きしたのだろう。


 「駄目か……」


 『申し訳ありません』


 天候の取り合いは不利だが、大蛇に攻撃が通れば天候の支配権を奪えるだろう。問題は大蛇に攻撃を通す方法だ。


 「シャーラ、病み上がりで悪いが手伝ってくれ」


 「任せといて!」


 声を掛けながらシャーラを降ろすと飛行魔法を起動させてその場に浮き上がった。


 「それで、作戦とかあるん?」


 「無い」


 「大丈夫なん?!」


 「俺とブリュンヒルデで天候の支配権を取りに行くから、大蛇の相手は任せたい」


 「了解!!」


 ブリュンヒルデが再び〈暴風領域〉を起動させる。雨が弱くなり風が吹き始めるが、少しずつ雨の勢いが戻り始めた。


 ブリュンヒルデに魔力を注ぎ込んで起動している魔法の出力を上げていく。天候は再びこちらに傾いたが、雨の勢いは強いままだ。


 「行けそうか?」


 「大丈夫!」


 シャーラは障壁から出て水面近くを飛び始めた。迫ってくる魔力の気配に対して障壁を張って防御すると、大量の水が弾けた。雨水と河の水を使った攻撃がメインなのだろうが、大雨に視界が遮られて大蛇の姿が確認できない。


 水面スレスレを飛んでいると、細い水流が刃の様な鋭さを持って走り回る。避けながら飛んでいると水中から勢い良く蛇の尻尾が飛び出した。


 「?!」


 水面に叩きつけられた尻尾と大きな水飛沫を避けると、大蛇がいるであろう場所に向かって魔法弾を放つ。水中で炸裂して盛大な爆発を起こすが命中した様子は無い。


 風は少しずつ強くなっている様な感じはするが、雨は変わらずに打ち付けていた。


 「キリないな。それなら〈白亜の氷獄(コキュートス)〉!!!」


 シャーラの魔法が水面を凍らせていく。荒れる水面の(ことごと)くを凍らせていく様は圧巻の一言だ。


 水中での逃げ場を失って、凍てついた河を砕いて大蛇が現れた。大蛇に付いている9つの人面はそれぞれが悲壮なうめき声を上げていた。


 大蛇が水魔法を放つが威力が弱く、水の量も少ない。


 「現物で攻撃する魔法みたいやな! 〈魔弾の雨(ネロポンディ)〉!!」


 大量の小さな魔法弾が豪雨の様に襲いかかる。


 シャーラの魔法が大蛇に命中すると悲鳴を上げて氷の上に倒れた。そのタイミングで雨が急速に弱まり、風が一気に強くなった。


 「天候は取れたみたいやな」


 大蛇に近づくシャーラに向かって攻撃しているが、威力が弱いので障壁で簡単に防がれてしまう。


 「ごめんな……、〈極天の七星剣アルクトス・クシフォス〉」


 7本の魔法剣が大蛇に突き刺さって凍らせていった。凍った大蛇が体の途中から折れて、凍った水面に当たって砕けた。


 「助かったよ。シャーラ」


 「いつまでも足引っ張ってられへんからな」 


 戦いが終わりシャーラを労うと笑って答えたが、糸が切れた様に落ちて行った。水面に当たる直前で受け止めると、激しく息を切らしていた。


 「無茶をしたな」


 「そんなこと…ないよ」


 肩で呼吸しながら応じるシャーラを休ませるため、急いで河を渡っる。


 ツンカシラの領域はフツギの領域と違って瓦礫が一気に少なくなった。しかし、人の気配は無いままだ。


 河を渡った先にある大きめの建物に入る。どうやら公民館の様でソファやテーブルが残されていた。ソファにシャーラを座らせると今後の行動を考える。


 「ここからどうするか……。オーディンとの接触は気分的に避けたいが」

 

 『オーディンとの接触は歴史に影響が出る可能性が高いので推奨しません』


 「だよな」


 「歴史に影響って?」


 俺はオーディンから、持ち出された【オーパーツ】の回収を依頼されている事を話した。恐らく、オーディンは過去に俺と接触した事は無いはずだ。


 隠されている可能性もあるが確実ではないので避けたほうが無難だろう。


 「航行艦にあった模型も【オーパーツ】なん?」


 「【境界の羅針盤】という魔法具で、どんなに離れていても記録した座標を示すという物だ。ブリュンヒルデのも搭載されている」


 不思議な事に【境界の羅針盤】は記録された座標を指し示している。以前と違う所は時間軸を表すリングの回転速度だ。


 だが、【境界の羅針盤】と転移魔法をリンクさせようとしても反応しないので座標が分かるからと言って転移出来るとは限らない様だ。


 「帰る当ても無いし、ツンカシラの元に行ってみるか」


 『ルートを選定します』


 「ツンカシラって能力主義やろ。能力の方向って決まってるん?」


 「割と幅広く認めてた筈だ。能力を鍛える為の時間も用意してるから、管理AI内では生き残りの多い領域の1つだった覚えがある」


 管理AIツンカシラは時間を掛けて削減対象を選定していた。能力を獲得したり鍛える期間を設けて、可能な限り優秀な人材が残る様に行動していたのを覚えている。


 それでも重病者や高齢者は削減の対象として優先的に処理された。それ以外の、是が非でも行動しなかった人達自業自得としか言えないが。


 ツンカシラは能力主義なので通じにない場面もあるが、比較的話が出来る。


 直接会った事は無いが、施設から逃げて放浪していた時に情報は集めていた。領域内を移動した事もあるから、ツンカシラは俺の情報を持っているだろう。


 『ルートの選定が完了しました』


 「動けるか?」


 「休んだから大丈夫」


 建物から出て飛行魔法でツンカシラがいる建物へ向かう。飛行速度はシャーラに合わせてゆっくり飛んでいる。


 「もっと速くてもええよ」


 「ついて来れないだろ? それに当てがない以上、急いでも仕方ない」


 シャーラは不服そうだが帰る為の手段どころか手掛かりも無い。焦っても無駄に体力を消耗するだけだ。


 2時間程飛び続けているので休息の為に地上に降りた。大蛇と戦った河から住宅街や都市部が続いているが変わらず人の気配は無い。


 「全然、人がおらへんな」


 「ツンカシラの性格からして殲滅行動は取らないと思うが……」


 『管理AIのデータベースに記録された情報によると、フツギの領域で引き起こされたパンデミックの影響の様です』


 「データベースに侵入して大丈夫なのか?」


 『私の方が技術水準が上なので感知されずに情報収集が可能です』


 「この時代における技術の粋を集めて作られた管理AIより上とはな」


 『数百年かけて進化しましたので』


 「なるほど」


 「何か滅茶苦茶な話してない?」


 フツギが引き起こしたパンデミックは、隣接するツンカシラの領域部分を蹂躙して消息した。


 原因となったウイルスについては特効薬が存在するそうだ。


 『解毒剤と抗生剤を作る際に適合する成分が検出されています。感染したとしても即座に処置が可能です』


 「それは助かるな。少ししたら日が暮れるから、今日はこの辺りで休もう」


 不在とは言っても他人の家に入るのは(はばか)られるので、ホテルの一室を借りる事にした。


 ホテル内に衣類やタオル類などの物資は残っていなかった。調理器具や食器などは残されていたが今は不要だ。


 ホテルの駐車場で火を起こして食事にした。


 「簡単な食事ばかりで嫌にならないか?」


 「贅沢言ってられへんやん。それに僻地の任務やったら非常食が続く事もあるし」


 「強いな」


 どんな状況においても食事を取れるのは"強さ"の1つだ。慣れない食材や簡素な食事を嫌って死んでいく人も多い。


 夕食を終えると、部屋に戻ってベッドで休息を取った。


 夜中の住宅街は人がおらず、電気も止まっているので真っ暗だ。外に出れば星と月の明かりがあるが、中に入ると一気に暗くなる。


 「寝れないのか?」


 「体はしんどいねんけどな。目が冴えてもうて……」


 何度も寝返りを打っているので声を掛ける。強行軍の影響か思う様に休めない様だ。


 シャーラに近づいて顔の前に手をかざすと魔法を掛けて無理やり眠らせた。体調も戻りきっていない状態で休息も取れないとなると命に関わる。


 上手く眠れた様で寝息を立てている。俺はブリュンヒルデとルートの確認をしてから休んだ。



 ◇



 翌朝、陽の光で目を覚ますとシャーラも起きて来た。顔色も良くなっており、ちゃんと休めた様だ。


 「おはよう」


 「おはよう。昨日はありがとうな」


 「休めたのなら何よりだ」


 手早く朝食を済ませて準備を整えると、ツンカシラのいる建物に向かって飛び始める。


 流れる都市を眼下に飛び続け、途中のホテルで1泊を挟んで目的の場所に辿り着いた。


 都市部より離れた郊外にある巨大な建造物。工場か倉庫を思わせる様なシンプルなデザインだ。


 入口と思われる場所に着陸すると、中から身なりの整えられた青年が現れた。


 「ハヅキ様、シャーラ様、初めまして。ツンカシラ様より案内する様に申しつかっております」


 予想通りツンカシラには知られていた。青年の案内で中に入ると、巨大な球体が設置されている部屋に通された。


 部屋と言うには広く、警察局の訓練場よりも広さも高さもある。


 球体の下には1体の牛の様な生物がいた。純白の体に真紅の瞳、巨大なツノを持っている。


 その牛はこちらに近づいて話し掛けて来た。


 『初めまして、私の名はツンカシラ。この領域を管理するAIです』


 「これは丁寧に、俺はハヅキ。こっちはシャーラだ」


 『知っている。フツギの領域との境界にいた相柳(そうりゅう)を倒してくれた事、感謝します』


 「あれは成り行きだ。それよりも聞きたい事がある」


 ツンカシラに時間を超える方法について尋ねたが知らないとの事だった。時間移動に関しては研究中で実証実験すら行われていないそうだ。


 いく通りの仮説を立て実験を繰り返したが、再現性が確保出来ないので手法の確立が不可能だと言われていると教えてくれた。


 「時間移動に関する情報が欲しいのだが可能だろうか?」


 ブリュンヒルデが管理AIのデータベースに侵入して調べたが時間移動に関する情報は見つからなかった。


 感知されないと言っても深く潜れば痕跡が残る。ツンカシラから情報を貰えるなら、それに越した事は無い。

 

 『こちらの依頼を受けてくれるなら報酬として情報を提供しましょう』


 「……分かった。それで、依頼の内容は?」


 『幾つかあるのだが、まずは私の領域内に入り込んだ異物を排除して貰いたい』


 「異物?」


 ツンカシラが言うにはフツギの領域で作られたキメラや兵器が入り込んでるそうだ。このままでは、保護すべき人間まで殺されると懸念していた。


 これまでも削減計画の邪魔をされたと憤っている。どうやら、フツギとは折り合いが悪い様だ。


 「人類の削減は必要なのだから減る分には困らないのでは無いか?」


 『だからと言って全滅しては困る』


 「因みに削減目標は全体で何人の予定なんだ?」


 『5,000人程度が望ましい』


 「少なすぎるだろ。それだと技術の継承が出来ない」


 『すぐに増えます。技術の継承に関しても問題ありません。文明が進み過ぎているので退化するのは不可能ですから』


 文明が進み、技術が進化した結果、産業が完全に機械化してしまった。この時点で機械を失った人類に未来は無い。


 それならば、全てを壊して技術を育て直した方が人類の未来を守れるというのが管理AIの判断だ。


 「異物の排除に関しては了解した」


 人類削減に関して言いたい事はあるが、今は黙っておこう。管理AIは5,000人を目標に動いている。しかし、実際には10数万人が生き残っている。


 この差は単に人類の生存能力が管理AIの想定を上回ったのか、削減目標が変更されたのかは分からない。


 何の情報も無い状態で言っても意味は無い。こちらの情報も集めるべきだろう。


 『連絡用のデバイスを渡しておく。何かあれば連絡してくれ』


 ツンカシラからカード型のデバイスを受け取ると外に出た。デバイスにはキメラや兵器が目撃された場所が記録されている。


 兵器はステルス機能によって追跡が完全には出来ていないので、居場所の分かっているキメラから処理する事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ