表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風精の魔導師、異世界の旅に出る  作者: かーくん
次元連合警察局
53/61

追跡の果に

 コルザとウィルは仕事終わりに訓練場を訪れた。訓練場は申請すれば自由に使用出来るので、仕事終わりに訓練する意識の高い魔導師達が何人か見られた。


 2人が訓練場を訪れた事を見ると、訓練中の魔導師達が手を止めて色めき立つ。高ランクなのもあるが、見た目や仕事ぶりが良いのでファンも多いのだ。


 コルザとウィルが目的の人物を見つけて近づいた。


 「ごめん、お待たせ」


 「仕事は終わったのか?」


 「大丈夫だよ」


 その人物、ハヅキの情報は警察局内でも共有されている。既存の高ランクを超える実力者だがファンにとっては嫉妬の対象である。


 「訓練の前に聞きたいんだが、コルザって召喚魔法は使わないのか?」


 「召喚魔法は、呼び出す魔獣や幻獣との契約が必要だから使える人は限られるの」


 「精霊は?」


 「精霊を呼べる魔導師はさらに限定されるよ?」


 「認識にズレがあるな。魔法体系の問題だろうが、精霊召喚の魔法は契約がなくても使えるぞ」


 俺は自分が使っている精霊召喚の魔法を説明した。魔法式そのものが簡易の契約になっているので、大仰な儀式などは必要無い。


 呪文も教えてコルザに試して貰う。コルザは属性の付いていないシンプルな魔法を好むので、召喚する精霊は"光"にした。


 「〈下位光精召喚ー(こま)〉!」


 コルザが魔法を起動すると、子犬の精霊が出現した。現れた精霊に2人は驚きつつも目線を合わせて撫で始めた。


 「可愛い……けど、戦えるの?」


 「見た目は犬だけど本質は精霊だから問題無いよ」


 的を用意したので、呼び出した精霊で攻撃して貰った。コルザの命令に従って精霊が的に突進する。


 的と精霊が相殺して小さな爆発が起きた。


 「すごい!!」


 「呼び出せる精霊に上限は無いから状況に合わせて調整してくれ」


 コルザが試している横でウィルにも精霊召喚を教える。ウィルは風と雷の魔法を使うので、呼び出す精霊も"雷"の属性で教える。


 こちらも問題無く使えたので、お互いに精霊召喚で呼び出した精霊同士で戦って貰った。


 練度が無いので突撃するだけだが、攻撃手段が増えるのは良い事だ。慣れて来れば精霊に様々な命令を与えたり、上位精霊を呼び出せば戦力の頭数を増やせる様になる。


 〈下位精霊召喚〉の魔法は問題無さそうなので視覚共有の魔法も教える事にした。これで探索の幅が広がるだろう。


 「これ、災害救助にも使えそうだよね。探索ロボットってコスト掛かるし」


 「そうだね、精霊で状況把握が出来れば不必要な探索を減らせそう」


 「中位以上の精霊なら戦力になるから数の不利を埋めたり、前衛に立てて立ち回りを安定させられる」


 コルザはウィルと〈中位精霊召喚〉で呼び出した精霊と共に模擬戦を始めた。


 どちらも3体の精霊を呼び出し、コルザは前衛に置いて自身は誘導性の魔法弾でウィルの動きを制限しながら大魔法を叩き込む隙を窺っている。


 対してウィルは精霊の相手は精霊に任せて、コルザに接近しようと立ち回っている。


 「おっ!」


 ウィルはいつの間にか戦う相手を精霊に変えていた。そして、1体の精霊をコルザの死角から突撃させる。


 躱したコルザは下位精霊を呼び出し、ウィルに向けて放った。下位精霊は他の誘導性の魔法より機動力があるので、相手の魔法もオートで避けてくれる。


 模擬戦はヒートアップしていき、使う魔法の威力と上がって行く。初めから訓練していた魔導師達は端に退避していた。


 「おーい!! 一旦中止!!」


 俺の静止を聞いて、2人は模擬戦を中止して戻って来た。退避している他の魔導師達を見てやり過ぎたと言っている。


 「この魔法、他の人達にも教えて良い?」


 「良いぞ。一通り術式を渡しておこう」


 ブリュンヒルデからコルザのデバイスに精霊召喚の魔法式を転送して貰う。今日の訓練は終了して寮に戻った。



 ◇



 訓練を始めて1ヶ月が経った。イザベラも戻って来ており、シャーラも復帰したので5人で訓練をしている。


 イザベラは中位精霊まで、3人は上位精霊を呼べる様になっている。コルザを中心に警察局内で魔法が共有され、魔導師達の戦力アップに貢献しいるそうだ。


 そのお陰か戦い方の特徴が強く出る様になった。呼び出した精霊に役割を持たせる事で、自分のやりたい事を通せる様になったからだろう。


 次の訓練を考えている時、シャーラから緊急の連絡が入った。


 「例のテロリストの航行艦が静止を振り切って次元転移したそうや。私とハヅキは航行艦の追跡、ウィルは施設捜索の為の命令書をお願い」


 「分かった」


 「機動隊も準備するそうやからコルザはそっちお願い。イザベラはお留守番や」


 「了解、私達は先に行くね」


 「すぐ帰って来るから、部屋で待ってて来れ」


 「うん」


 イザベラに寮の鍵を渡すとシャーラとビルの方へ戻った。転移した航行艦の追跡は行われていて、レーダーで反応を追いながら警察局の航行艦が追跡に動いている。


 「俺達はどうするんだ?」


 「追跡中の航行艦と合流してから対象に接触する形になるから、準備が整い次第出発するよ」


 警察局内に設置された転移ポートで、次元の境界で待機中の航行艦に移動する。ある程度集まった所で追跡中の航行艦を追いかけて合流する流れだそうだ。


 中には捜査官だけではなく機動隊の職員も混じっていた。他にも何人か搭乗した所で捜査官の1人が出発を告げる。


 「時間なので出発します」

 

 航行艦は動き出して、先行して追跡する航行艦を追い始めた。しばらくすると先を行く航行艦に追いついて来た。


 「速いな」


 「この船は追跡用なので一般で使用されている航行艦より速度が出ます」


 出発を告げた捜査官が説明してくれた。テロリストが使用している航行感は積載量が特徴で、複数の隠蔽設備が搭載されているそうだ。


 「隠蔽があるのに良く見つけられたな」


 「捜査官と機動隊で調査に入ったんですよ。その時に追跡用のマーカーを幾つか設置しました。しかし、調査中に戦闘が始まり、航行艦に転移されてしまいました」


 話している間にテロリストの航行艦に接近して強制的に停止させる事に成功した。先行して追跡していた航行感も合流して脇を固める。


 「転移ポート、準備出来ました」


 「了解。転移した瞬間に攻撃が来る可能性があるから注意しろ。機動隊から転移開始!」


 機動隊が転移ポートでテロリストの航行艦へ乗り込んで行った。機動隊は、連絡係を数人残して転移が完了したので俺とシャーラも乗り込んだ。


 「この船、広くない?」


 「空間拡張の魔法を使ってるだろう」


 「それでも限界はあるから……」


 テロリストの航行艦は空間拡張の魔法で外見の数倍の広さを持っていた。先に入った機動隊は手分けしてルートを確保して行ってる。


 後続の捜査官達の転移が完了したので、俺達も探索を始める。機動隊は捜査官達と合流して2ルートに分かれた。1つは貨物室のルート、もう1つは操縦室を抑えるルートだ。


 俺達は操縦室へ向う職員達に合流して、探索を進めて行った。


 「同型航行艦の見取り図を用意しましたが、違いすぎて役に立たないですね」


 実際、見取り図の構造よりも複雑化しており部屋も多い。どこかの部屋に設置された端末からマップを読み込んだ方が早そうだ。


 「デバイスはオフライン式を複数用意してますので、ウイルスに感染しても拡散する事はありません」


 大学の地下施設でもウイルスが用意されていた事もあり、予備も含めて用意しているそうだ。


 手近な部屋に入ってデバイスを端末に接続したが、すぐにウイルスに感染してしまった。


 「前回のウイルスに対するワクチンは作成したのですが、今回のウイルスは違う型の様です」


 「地道に探していくしか無いか……」


 通路に戻って探索を進めていると、通路の奥から魔獣の群れが現れた。その見た目は【パンドラ】の魔獣と同じだった。


 「魔獣?! 【パンドラ】は回収したのに?!」


 「……!! 他の場所でも魔獣が出現している様です!!」


 「向かってくるなら倒すしかないな」


 濁流となって向かってくる魔獣を殲滅していく。強い個体が混じっていなかったので倒すのは楽だが、数が減らない。


 「これじゃ、進めない!」


 「先行するから付いて来い!! 〈天穹(てんきゅう)風迅(ふうじん)〉!!」


 砲撃魔法を放って強引に道を作ると、開けた場所を走って行く。通路の突き当りを曲がると魔獣がひしめいていたので〈烈風の剣(ゲイル・ブレイド)〉で薙ぎ払う。


 魔獣の群れを抜けて通路を進むと、複数の魔法陣に包まれた宝石を見つけた。魔獣は、その宝石の周りから出現していた。


 「魔獣を作る宝石?!」


 魔法で壊そうとするが、放出した魔法は宝石に吸い込まれた。杖に魔力を込めて叩きつけると宝石は砕けたので、純粋な放出系魔法しか吸収出来ない様だった。


 「【パンドラ】のコピーだな」


 「そんな物まで……」


 宝石を壊したことで周りにいた魔獣は消えたが、他の場所の魔獣はそのままだった。どうやら、航行艦の中にコピーが複数設置されている様だ。


 「大型の魔獣の報告はあるか?」


 「いえ、今の所ありません」


 「オリジナルの【パンドラ】と違って弱い魔獣を大量に作る魔法具って所かな」


 「ひとまず、先に進みましょう」


 道中、魔獣を倒し宝石を砕きながら進んで行く。操縦室と思わしき部屋の扉を開けてみるが全てハズレだった。


 「操縦室が他と隔離されている可能性は無いのか?」


 「大学の時みたいに?」


 「ああ、専用の魔法でしか入れない空間が設置されている可能性もある」


 「探索魔法は使っているのですが反応が鈍いんですよ。恐らく探索妨害の魔法が掛かっていると思われます」


 〈野分(のわき)の便り〉は細かい所まで調べられる探索魔法だが妨害に弱いのが難点だ。諦めて地道に探して行くしか無さそうだ。


 「この部屋はどうでしょうか」


 捜査官が大きな扉を開けて中を確認すると、巨大な模型が設置されている部屋だった。


 その模型は、中央にある巨大な球体と周りを囲む4つのリングで構成されている。3つのリングは違うスピードで回っているが、一番外側のリングが異常な速度で回転していた。


 「【境界の羅針盤】?! なんで?! いや、それよりもマズい!!」


 「どうしたの?」


 高速で回っているリングは時間軸を表すリングだ。通常よりも遥かに速い速度で動いているのは異常だ。


 「総員退避命令!! この船は危険だ!!」


 「どういう事ですか?!」


 「あれは座標を記録して次元転移をサポートする魔法具だ。が、明らかに異常が起きている。このままだと次元の(はて)に飛ばされて返ってこれなくなる可能性がある!!」


 驚いて固まる捜査官を横にシャーラが全体回線で退避の連絡を入れた。


 「緊急事態発生!! 次元転移関係の機関に異常を確認!! 総員、速やかに退避せよ!!」


 シャーラは連絡を終えると、同行していた捜査官達を強制転移させて退避させた。


 「ハヅキも早く!!」


 「俺は残って対処する」


 「危険なんやろ?!」


 「これの回収は俺の役目だ。それに、ある程度は仕組みを理解している」


 「それなら私も残る! 危険と判断したら作業中でも転移するよ」


 シャーラは足元に転移魔法を起動させたまま維持して待機した。俺はブリュンヒルデと共に暴走した【境界の羅針盤】の対処を試す。


 外側で高速で回っているリングを拘束魔法で止めようとしたが引き千切られてしまった。


 解析魔法で【境界の羅針盤】の術式に介入するが、異常が多すぎて修正が追いつかない。


 ブリュンヒルデもシステムに介入して止めようとするが、ウイルスの影響で手が回らなくなっている。


 「ウイルス大丈夫なん?!」


 『問題ありません。しかし、ウイルスの対処に演算領域を割いているので【境界の羅針盤】までは介入出来ません』


 その時、シャーラの近くで空間が砕けた。砕けて出来た空間の亀裂からは漆黒の闇が覗いている。


 「あっ?!」


 亀裂に吸い込まれそうになるシャーラの手を掴んで引き寄せる。


 空間の亀裂1ヶ所では収まらず、次々に空間が砕けて行った。拘束魔法で亀裂に引き込まれないように固定するが、問題が多すぎて【境界の羅針盤】への対応が進まない。


 「逃げるか」


 「ほな、転移魔法を?!」


 撤退を決めて転移しようとした時、人よりも大きいサイズの亀裂が発生した。さらに大小様々な亀裂が発生して、状況は一気に悪化して行った。


 固定している魔法がある空間も砕けて、拘束が解けてしまう。咄嗟に手を伸ばすが間に合わず、シャーラと共に空間の亀裂に飲み込まれてしまった。



 ◇



 シャーラの指示を受けて退避した職員達は航行艦で待機していた。2人を心配している中、テロリストの航行艦が砕け始めたとの報告が入る。


 急いでモニターを確認すると、航行艦と周りの空間が砕けて大きな亀裂が発生していた。直後に船全体を衝撃が襲う。


 「なんだ今のは?!」


 『次元震の衝撃と思われます。少しずつですが、発生した亀裂に引き寄せられています。このままでは危険です』


 操縦者が警鐘を鳴らす。残っている職員がいる事を伝えるが、その間にも振動が何回も襲って来た。


 『操縦者の判断で緊急退避します!』


 操縦者は、担当している航行艦に危険が及ぶ場合、個人の判断で対処する事が許されている。


 その事を理解しつつも抗議する職員達。2隻の航行艦がテロリストの航行艦から離れると、残されたテロリストの航行艦は巨大な亀裂に飲み込まれてしまった。


 そして、大きな衝撃が連続して航行艦を揺らす。砕けた空間に引き寄せられない様に最大出力で離脱した。


 安全圏まで来ると警察局に連絡を入れた。


 ーーテロリストの航行艦が砕けた空間に出来た亀裂に飲み込まれて消失。航行艦に残っていた魔導師2名が行方不明。この影響により大規模な次元震が発生ーー


 この知らせにより追撃は中止された。準備をしていたコルザとウィルは涙を流し、イザベラは状況が理解出来ずに放心状態だった。



 ◇



 『例の航行艦が空間崩壊に飲まれてロストしました。虚数空間に落ちたものと思われます』


 「了解。次の準備を進めてくれ」


 通信を切るとリーダーは側にいるウォルフに声を掛けた。


 「お前としては不本意な結果かも知れんが納得して欲しい」


 「分かってるよ。毎回、俺が相手を出来れば良いが都合良くは行かないからな。それで、次はどうするんだ?」


 「そうだな……」


 リーダーとウォルフが話している姿を青い鳥が見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ