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報告と報酬

 ブリュンヒルデの案内で【境界(きょうかい)羅針盤(らしんばん)】が保管されている区画にやって来た。


 扉を開けて部屋に入ると、部屋の中央には巨大な模型が置かれている。地球儀のようにも見える模型は部屋の天井にまで届いていた。


 中央には球体がありサイズの違う4つの輪が角度を変えて()められていた。球体や輪を動かす事で、あらゆる方向を向けられるようになっているようだ。


 輪にはそれぞれ目盛が着いており等間隔で記号も並んでいる。記号の意味は分からないが座標や方向を示しているのだろう。球体の中心には針が浮かんでいるが固定されている様子は見られない。


 「これが【境界の羅針盤】か」


 『はい。4つの輪はそれぞれ、《縦》《横》《高さ》《時間》の座標を示します。動いているのは時間を示す《輪》です』


 4つの輪のうち3つは止まっているが、1つはゆっくり動いている。時間が流れているから、時間の座標を示す輪も動いているのだろう。


 「このまま持ち出せるのか?」


 『いえ、床の固定を外す必要があります。お願いできますか?』


 床を見ると強く固定されているようで、触っても動く気配がない。工具は持っていないし部屋を物色しても出てこなかった。


 「台を壊すのはダメか?」


 『台には模型に掛かっている魔法を安定させる役割があります。壊すと掛かっている魔法が解けてただの模型になります』


 模型部分を持ち出せたら済むのでは、と思ったが簡単ではないらしい。


 「床板を壊して持ち出すか、風の霊剣!!」


 杖を下に向けて先端で軽く床を叩く。魔法を起動させると台の周りを囲むように風が吹き、次第に渦を巻き始める。渦巻く風が光り輝くと鋭い音が室内に響いた。


 風が止むと床には円形に切れ込みが入っている。切れ込みの入った床板は抜けて下に落ちようとするが魔法を掛けて浮き上がらせる。


 『お見事です』


 船の床板を切り抜いた事で【境界の羅針盤】を取り外せるようになった。ブリュンヒルデが収納魔法で回収する。


 「他にやり残したことはあるか?」


 『いえ、ありません』


 これ以上の仕事はないのでオーディンに報告することにした。ブリュンヒルデに連絡を取ってもらう。


 『お主か、ハヅキ。調査は順調かな?』


 「ブリュンヒルデがセキュリティをハッキングして、駆逐艦の安全を確保した。あと、【境界の羅針盤】という模型も回収した。他に仕事はあるか?」


 『そこまでやってくれれば充分じゃよ。機動兵器の回収と事後処理は、こちらで引き受けよう』


 依頼された調査は完了のようだ。結界を張ったままだと中に入れないのでこの後について確認しておく。


 「駆逐艦の周りに結界を張ってあるが……これはどうする?」


 『そうじゃな……こちらで張り直そう。引き継ぎの者を送る。その者らの到着後、情報を共有してくれ。識別コードを送ろう』


 「了解、引き継ぎが終わったら帰っていいのか?」


 『構わんぞ』


 オーディンとの通信を終えて駆逐艦の外に出る。結界に損傷はなく機能している。ブリュンヒルデの予測だと、引き継ぎの相手が来るまでは2日かかる見込みだ。


 結界の確認を終えると、もう一度船内へ戻る。森の中で寝るのは疲れるので駆逐艦の中にある乗組員用の部屋を使わせてもらおう。


 翌朝、オーディンから連絡があった。引き継ぎの部隊が出発、到着は翌日の昼頃を予定しているとのことだ。


 さらに翌日の昼ごろ、調査していた駆逐艦と同じくらいの巨大な船が突然空に現れた。どうやら光学迷彩で姿を隠して移動してきたようだ。駆逐艦の上で止まると人が3人降りてきた。


 1人は貴族風の男性、残る2人は騎士の鎧を着用した男性と女性だ。結界を全て解いて中に入れるようにした。


 「失礼、自己紹介の前に結界を張り直したいが構わないかな?」


 貴族風の男がそう言うので了承すると新しく人避けと隠蔽の結界が張られた。ブリュンヒルデがシステムを掌握(しょうあく)したので、安全が確保されていおり戦闘が起きる可能性が低い。そのため、対魔法と対物理は不要という判断だろう。


 結界が張り替えられると船の中から大量の小型ドローンが出てきた。小さいプロペラが4枚ついた小回りのきくタイプだ。ドローンは次々と駆逐艦の中に入って行った。


 貴族風の男は、振り返って礼を述べると自己紹介を始めた。


 「初めまして。アセノス王国のスフェア領を治めるウィルソン・クラトン・スフェアと申します。後ろの2人は私の護衛です」


 「お初にお目にかかるウィルソン(きょう)。ハヅキ・シルフィリアだ」


 「礼儀は気にしなくても良いぞ。私も気楽にやらせてもらう」


 「助かる。それにしても、引き継ぎの部隊に人がいるとは驚いた。それも貴族とはな」


 「人に見つかった時の対応が主です。あとは噂がたった時に好奇心旺盛な人たちが来ないように、噂の誘導しています。普段は世界管理AIと国政の間での利益調整をしております」

 

 ウィルソンと話してる間にドローンが中から出てきた。魔法を使ってセキュリティのドローンやロボットを運んでいる。


 セキュリティが解除されたので開けられるようになった他の扉からも、ドローンが出入りをしている。


 「2日前のオーディン様への報告から変わったことはありませんか?」


 この2日で状況に変化がないことを伝える。その後はウィルソンたちの確認の意味も込めて改めて状況を報告する。


 「ありがとうございます。それとブリュンヒルデ様をお預かりしてもよろしいですか? システムの権限をお持ちなので」


 ブリュンヒルデを連れて行かれると調査と回収が止まるとのことで、左手首から外してウィルソンに渡す。


 『今回の調査協力ありがとうございます。報酬は後日届けますので受け取ってください』


 ブリュンヒルデやウィルソンに挨拶して空中に飛び上がる。飛んでいる所を無関係な人たちに見られるのは困るので、隠蔽魔法をかけてから家がある島を目指して飛び始めた。



 ◇



 オーディンから受けた仕事から1ヶ月が過ぎた。今日は珍しく帆船(はんせん)が見える。帆船のような大型の船はこの辺りには来ない。来ても小さな島々があるだけで商品になる物も商品を買う人もいない。


 小舟にしても潮の流れが強いので大陸から離れることはない。この島々に外の人間が来るのは遭難(そうなん)して流れ着いた人くらいだ。


 そんなことを考えながら船を見ていると島の外側に帆船が止まる。2(せき)の船が島に向かってきた。それぞれ人と荷物を載せているようだ。


 不思議に思っていると2隻の船が浜辺に着いた。その船の1つには、見覚えのある男騎士が乗っていた。船が島に着くと2人の騎士が走ってくる。


 見覚えのある騎士は、引き継ぎの部隊にいたときと違って豪華な鎧を着用している。1歩前に出て敬礼したあと挨拶した。


 「お久しぶりです、ハヅキ様。勝手な上陸をお許し下さい」


 「それは問題ないが……ウィルソンと一緒にいた騎士が一体何の用だ?」


 「私はスフェア騎士団団長のオイルと申します。以前に調査していただいた件の報酬をお持ちしました」


 用事は駆逐艦を調査した件の報酬の受け渡しのようだ。オーディンからの報酬をウィルソンが仲介して用意してくれたのだろう。


 「運んでくれ」


 「はっ!」


 オイル団長がもう1人の騎士に命令すると、小舟に戻って行く。小舟で待機していた2人の騎士と共に荷物を運んできた。


 家の前に樽や木箱が積まれていく。木箱の中身は干した肉や魚と塩。樽は酒だった。他にも魔法書や衣類、薬も用意してくれていた。


 「こんな辺境まで持ってきてもらってすまない」


 「本当はもっとお渡ししたかったのですが、お1人と聞いていましたので。それと小舟を1艘置いていきますのでご活用ください」


 「助かるよ、ありがとう」


 過剰に渡されても腐らせるだけなので、適度に抑えてくれたのは助かる。小舟はまだ乗れるといっても痛みは激しい。新しい船は素直に嬉しい品だ。


 「それと、こちらを預かっております。私たちが帰った後に開けくださいとのことです」


 そういって薄く四角い小箱を渡してきた。片手で持つには大きいが重くない。中身が気になるが開けるのは騎士たちが帰ってからだ。


 「それでは失礼致します」


 4人の騎士たちは敬礼したあと小舟に乗って海へ戻っていった。騎士を乗せた小舟を帆船(はんせん)が回収すると大陸の方に進路を取った。


 帆船が離れたことを確認すると小箱を開ける。中には、翡翠(ひすい)色の宝石が付いた金属製の白いブレスレットが入っていた。

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