格の違い
高ランク魔導師の訓練に参加する為、コルザと待合ロビーで待ち合わせをしている。椅子に座って待っていると、予定の時間より少し早いタイミングでコルザがやって来た。
「お待たせ」
コルザと一緒に訓練場に行くと、魔導師が集まっていた。纏っている魔力が多いので高ランクと言われれば納得する。その中にはシャーラやウィルも混じっていたので声を掛ける。
「2人も来たのか」
「高ランクは可能な限り参加するようにって言われたからね」
3人と雑談しながら暫く待っていると教官と思われる職員が数人入って来た。そして、その教官が主導になって訓練が始まった。
柔軟体操や軽い運動から始まり、それが終わると2人組を作っての軽い模擬戦を行った。模擬戦は短時間で終わり、今度は1対複数の集団戦をする事になった。
「これから1対複数の集団戦を行う。なお、リミッターは私の権限で解除を許可するので全力で取り組む様に」
教官が組分けを発表したが、内容は分かりやすいくらい露骨だ。俺1人に対して残りの魔導師全員が相手になる。
「もう少し加減してくれても良いと思うんだが?」
「お前は強いんだろ? なら、手加減は必要ない」
クレームを入れてみたが、こちらの話を聞く気は無い様だ。教官にも異議を唱えたものの返事は同じだった。いやらしく笑う教官を横目に、少し離れた所に位置取ると開始を宣言された。
宣言と同時に近接の魔導師達が飛び込んで来た。剣に槍、格闘など色んなスタイルで攻めて来る。近接が作った隙を攻めるように後衛の魔導師が魔法を放つ。即席でも連携が取れている所を見ると、良く訓練しているのが分かる。
前衛が使う強化魔法の出力が上がり、少しずつ動きが速く鋭くなって行く。放たれる魔法の威力も上がっているが、ただ撃ってくる魔法に当たるほど呆けているつもりはない。
通常の魔法弾に混じって放たれる誘導魔法は、空中機動で引き付けてから杖で叩き落とす。
「くっ!!」
「動きに無駄が多いな」
踏み込んできた近接を受け流して投げ飛ばすが、投げた瞬間に魔法で動きを止められてしまう。そこにタイミングを合わせた複数の魔法が飛び込んで来る。
「〈竜巻〉!」
障壁を重ね掛けした上から竜巻で覆ったが、魔法は竜巻に阻まれて障壁まで届かなかった。拘束魔法で動きを止めてからの砲撃への繋げ方は見事だったが、障壁を突破出来なかったのは問題だ。
拘束魔法も動きを制限するだけで魔法に制限を掛けられないのも気になる。強度も無いから脱出するのが簡単だ。
「威力が足りないな」
「これならどうだ! リミッター解除!!」
近接のリミッター解除を皮切りに訓練に参加している魔導師達がリミッターを解除していった。魔力が吹き上がり雰囲気が一変する。
「ラッシュ・エッジ!!」
武器が強大な魔力を帯びて光を放ち、振り抜かれる刃は衝撃波となって襲ってくる。魔法も小規模なものから大規模なものまで状況に合わせて使ってくるのは、さすが高ランクと言った所か。
「ストライク・カノン!!」
「バースト・ショット!!」
砲撃魔法や射撃魔法が弾幕の様に飛び交っている中を躱しながら近接の攻撃を捌いて行く。そろそろ1人くらいは落とした方が良いだろうか。
槍使いが攻め立ててきたタイミングで踏み込んで相手の槍を杖の柄で押し止める。
「お前の様な奴を放置する訳にはいかない!!」
「どういう意味だ?」
強化魔法の出力を上げて押し返して来たので、杖を傾けて流す。話しかけるが返事は無かった。別の魔導師が複数の拘束魔法を重ねがけして来た。
「お前はここで拘束する!!」
どうやら俺に関して何か吹き込まれた様だ。シャーラ達は1歩引いた感じなので、他の魔導師達の様子を観察する。後方で指揮を取っている魔導師に目星を付けて距離を詰めて行く。
「〈雷天覇道〉!」
雷系の魔法で強引に拘束を振り払うと、一気に距離を詰めて指揮役を捕まえた。
「妙な事を言う奴がいるんだが、何か知らないか?」
「さぁな、自分の胸に聞いてみな!」
指揮役が魔法を放って来たので即座に離すと距離を取って逃げられた。指揮役は何か知っている風だが話す気は無い様だ。
時折、観戦している教官の様子を見ているが常に笑っているので気持ちが悪い。教官も絡んでいる様で良い気がしない。
「必ず拘束しろ! クラビリスを回収するんだ!!」
「!! そういう事か!」
参加者の誰かが叫んだ言葉で大まかに把握出来た。俺を危険人物として吹き込む事で、保有しているデバイスや魔法具を自分の物にするのが目的だと考えられる。
警察局に最初に来た時に提供を拒否したのに腹を立てたのだろう。なまじ権力を持っているので、思い通りに行かないのが許せないと言った所か。
教官が主導している保証は無いのも問題だ。この場を切り抜けても同じ様な事が繰り返される可能性は十分ある。
外で犯罪者に仕立て上げれてから拘束するのが理想だろうが、俺はシャーラ達との行動が基本なのでハードルが高い。妥協案として訓練に託つけて拘束する算段のようだ。
リミッターを掛けて飼い殺す事も目的に含まれている気がする。欲深い事である。
「お前達の狙いは分かった。だが、素直に従う気はない」
「それだけの力を放置する訳にはいかない!!」
威圧を乗せて宣言するが、高ランクだけあって揺るがなかった。仕方無いので蹂躙を始める。
「ろくな反撃も出来ないクセにほざくな!!」
殴りかかって来た拳を受け止めると、相手の腕に集中している魔力を乱して炸裂させた。その衝撃で腕の皮膚は裂けては血が吹き出した。腕に集中していた魔力も霧散したので、そのまま拳を握り砕く。
「ぐわぁぁ!! ぐがっ?!」
痛みで叫ぶ相手を引き寄せて腹を殴ると、くの字になって飛んだ。そのまま回し蹴りを入れると、受け身を取れずに地面に叩きつけられて動かなくなった。
「貴様!!」
剣士が斬り掛かって来たので懐に入って、剣を握っている手を掴んで動きを止める。逃げようとするので即座に魔法を起動させた。
「〈大気の斬撃〉」
風によって発生した斬撃が剣士の胴体を切り裂き、噴水の様に血が吹き出した。力が抜けて意識を失った剣士は、そのまま地面に落ちて行った。
持っているデバイスが起動したのか地面に直撃する瞬間に浮遊魔法が起動した。ゆっくり地面に降りると、範囲型の治癒魔法が展開される。
「デバイスが起動するなら安心だな」
デバイスが落下時の衝撃緩和と傷の治療をしてくれるなら遠慮なく叩き落とせる。身構えている槍使いの間合いに〈縮地〉で入ると、魔法で槍を砕いた。
「アーマーブレイク!」
「なっ?!」
隙が出来たので〈大気の斬撃〉で切り捨てた。当然の様に槍使いのデバイスが起動して槍使いを保護している。
「次、行こうか」
「っ?! バースト・ショット!!」
やみくもに撃たれた魔法弾は脅威にならない。〈烈風の剣〉で切り払うと、魔法弾が炸裂して煙幕が出た。その煙幕を抜けて誘導魔法が飛んでくる。
直前で躱すと軌道を変えて再度向かって来た。魔法弾で相殺させてから、後衛の魔導師に〈魔封雷剣〉を使って動きを止める。
「〈天を砕く槍〉!」
魔法で作った投槍を放つ。投槍は拘束されている魔導師に向かって飛んで行き、防がれる事無く直撃した。
「このままでは危険だ。総員、全力を持って対処せよ!!」
「オーバードライブ!!」
魔導師達の纏う魔力がさらに圧を増した。リミッターは外していたから追加のブーストを掛けたのだろう。消耗が激しく負担も大きいので褒められた戦い方では無い。
諦める気が無い様なのでねじ伏せる。
「まさか、リミッターを掛けているのが自分達だけだと思ってるのか?」
抑えていた魔力を開放すると、訓練場一帯が暴風域に包まれた。俺の場合、魔法で制限している訳では無いが魔力を抑えておかないと纏っている魔力が嵐を起こしてしまう。
その為、使う魔法も”人の領域”を意識している。そこから外れてしまうと文字通り厄災でしか無いからだ。しかし、今の彼らに言葉は通じないので、純粋な力の差をもって理解してもらうしか無い。
「〈風天・魔導断絶〉!」
解放された魔力が嵐となって吹き荒れると、空中に浮いていた魔導師達が地面に落ちて行った。辛うじて受け身は取った様で、すぐに立ち上がって杖を構える。
だが、彼らは一向に魔法を撃って来ない。俺はゆっくり地面に降りたが魔法は飛んで来なかった。
「何だ?! 魔法が使えない?!」
魔法が使えずに混乱している魔導師の1人に近づくと、その魔導師は杖で殴りかかって来た。動きが甘いので近接の訓練はあまりしていない様だ。
杖を躱してから足を払って転ばせると、重力魔法で死なない程度に押し潰す。魔法の範囲内に入ると後ろから右スネの骨を踏み砕く。
「ぎゃぁぁ!!」
骨の砕けた痛みで叫ぶ魔導師は、怯えの混じった顔に涙を浮かべてこちらを振り返った。目があったので笑顔で返すと、土系の魔法で刃を作って脇腹を串刺しにした。土系は苦手だが、密着した状態なら何とか貫ける。
貫かれた魔導師から血が流れ出る。その光景に他の魔導師達が小さく悲鳴を上げた。
「なっ?!」
「い、いや!」
その場から逃げようとする魔導師の首を〈縮地〉で後ろから捕まえると、そのまま持ち上げる。泣き喚きながら藻掻く魔導師を、勢いを付けて投げ飛ばした。魔法弾も忘れず飛ばしておく。
「貴様! 何て事を?!」
「先に仕掛けてきたのはそっちだろ?」
パニックを起こしかけて、足並みが崩れた魔導師達を1人ずつ捕まえて戦闘不能にして行く。骨を砕いて、胴体を斬り、デバイスを壊して蹂躙して行く。
「ハヅキ、やりすぎ!!」
「悪いな、知人だからと甘くすると思い上がる。暫く寝ててくれ」
シャーラ達が止めに来たが、他の魔導師と同じ様に〈大気の斬撃〉で斬り伏せた。倒れた体からは血が流れ出している。
「なん……で……」
「急所は外してるが無理に動くと死ぬぞ」
ウィルは血を流しながら呟いた。シャーラは体を起こそうと力を入れているが、胸からは血が滴っている。
「〈雷の咆哮〉!」
「ッ?!」
雷の魔法を受けて意識を失ったのか、力が抜けて崩れ落ちた。これで訓練に参加した魔導師は全て倒したので、教官達の所へ向かった。
「さて、教官さん。詳しい話を聞こうじゃないか」
「ひぃっ!」
悲鳴を上げる教官達に近づくと逃げようとするが、足がすくんだのか1人が転んでしまった。
「私は何も知らない!! 命令されただけだ!!」
「そうか、なら俺もお前に命令しよう」
風魔法の斬撃で教官達の両腕と両脚を攻撃すると、体勢が維持できなくなって地面に倒れた。仰向けで血を流しながら横たわる1番偉そうな教官の首に足を置く。
「死ね!」
足に力を入れて首を踏んで行く。掠れるようなうめき声を上げる教官の首に靴底が食い込む。体重を掛けて踏み砕こうとした時、誰かが大声を上げて割り込んで来た。
「そこまでだ!!」
声の主は、見た目50〜60代で少しシワが目立つものの端正な顔立ちの男だ。コルザや足元の教官と同じ制服を着ているので同じ部署の人間だろう。
「職員の一部が誤った情報を流して、君の持っていく魔法具やデバイスを狙っていた様だ。彼らは何も知らないのだ。足をどけて貰えないか?」
「知らなければ何をしても許されるのか?」
「そうでは無い!」
「だが、お前の言っている事は"俺達は知らなかったから罪は無い"という意味だろう? 悪意を持って情報を流した連中はどうなる? 自分達から仕掛けておいて不利になったら責任転嫁するのか?」
「情報を流した者達は適正に処罰する。流れた情報についても修正しよう」
「それを信用する根拠は?」
放出している魔力に威圧を乗せる。吹き荒れる風は鋭さを増して、男の皮膚や服を切り裂いて行く。
「……申し訳なかった。他の職員にも良く言い聞かせておく。だから、私の顔を立ててもらいたい」
謝罪の言葉と共に頭を下げた。
「次は無いぞ」
「承知した」
謝罪の言葉を受け取って足をどけた。解放していた魔力も普段通りまで抑える。
男がそれを確認すると白衣を来た医療関係と思われる職員達が大量に入って来た。その職員達は、血を流して倒れている職員に駆け寄ると応急処置を始めた。
そして、重症者から運ばれて行く。重症と言っても致命傷は避けてるので適正に処置すれば死ぬ事は無い。
「失礼します」
俺の所に来た医療職員は声を掛けた後、足元で倒れている教官への処置を行った。治癒魔法で止血した後、浮遊魔法で運ばれて行く。
全員が運ばれたのを確認すると、失礼すると言って男も出て行った。最後には俺1人が残ったが、訓練場にいても意味は無いので寮に戻った。




